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王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


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38.過去が追ってくる


セレーヌが淹れてくれたお茶で一息ついて、遠縁の家族の家へ向かった。

後ろをついて来るセレーヌが、用意した手土産を持ってくれている。

いえ、一人で行くつもりだったんだけど。


『主から、お嬢様をお一人にしないように、申しつかっておりますから』


馬車の旅の二日目に、一度離れたのではなかったかしら。

いいえ、守ってくれようとしているのに失礼よね。

素直にお礼を言って、親戚の家では王都での同僚という説明をしようということになった。

町長の家に近い場所に建つ、あまり付き合いの深くない家族が暮らす家の前に立つ。

扉を三度叩いて訪問を知らせる。

しばらく待っていると、中から勢いよく扉が開かれた。

「はぁい、どちら様……リリンカさんのところの、娘さん?」

「お久しぶりです。ナスティディア=リリンカです。小父様はご在宅ですか?今日訪問するとお便りを出してあったのですが」

「あ、ああ……ちょっと待ってね」

チラリと後ろのセレーヌに目をやった家主の奥様が、中へ戻っていった。

少しすると、家の奥からどしどしと床を踏み抜く音が響いてきた。

「やあ、よく来たね。待っていたよ」

「ご無沙汰しております。今回は、突然の訪問に応えていただきありがとうございます」

「そんな堅苦しい挨拶はいいから。いやぁ、立派な大人の女性になったねぇ。さあ、中へどうぞ」

「お邪魔致します」

セレーヌから手土産を受け取って、家の中へ入る。

「私は、外でお待ちしておりますので」

わたしにだけ聞こえるように囁いて、セレーヌはそっと扉を離れていった。

小父様が、不思議そうに振り返る。

「あれ?ナスティディアちゃんだけかい?一緒にいた彼女は」

「彼女は、王都で一緒に働いている人で、この町を見たいと言って旅について来てくれたんです。わたしが小父様とのお話を済ませる間、町を見物するそうですわ」

「ふうん?」

首を傾げながらどんどん居間の方へ進んでいく小父様の後を、黙ってついて行った。


用意してきた手土産のお菓子を奥様に手渡して、応接用の長椅子に座る。

向かい側に、コルン家の小父様が座った。

「それで、早速なんだけど。リリンカさんの家の管理について、だったね?」

「はい。この町に帰ってくる予定も当面ありませんし、誰も住まない家は傷むだけですから。この機会に手放そうかと思いまして」

「うーん。そうだなぁ」

腕を組んで小父様が天井を見上げた。何か問題があったかしら。

「手続きは、問題ないと思うんだよねえ。最近は、この辺りも王都の喧騒から逃れて移住してくる人が増えたから、空き家を遊ばせておくよりも有効活用したいと思ってる」

「では、あの家は町の所有になりますか?」

「まずはそうなるね。それから、希望者がいれば貸し出すなり売却するなりだと思うよ」

コルンの小父様は、この町の役所にお勤めだった。こういった事情に詳しくて、相談に乗ってもらえるから助かるわ。

「手続きには時間がかかりますか?わたしは、二日だけこの町に泊まりますが」

「書類の準備はすぐにできる。承認に多少時間がかかるかもしれないね。だから、君は署名だけして提出してくれればいい。あとは、王都の住まいに送ってあげるから」

「わかりました」

詰めていた息を吐き出した。

生まれ育った家を手放すのは、寂しいけれど仕方ない。母と過ごしたあの家に、また誰かが住んでくれるのなら、素敵な思い出を紡いでいってほしい。

小父様にお礼を言って立ち上がる。

「もう帰るのかい?ゆっくりしていったら」

「一緒に来た同僚を待たせていますから、失礼しますわ」

「そうかい?じゃあ、書類を用意しておくから、明日またおいで」

「はい。ありがとうございました」

深く頭を下げて、家を出る。

わたしの背中に、思い出したように小父様が声を掛けた。

「あぁ、そうだ。前に手紙で言っていた恋人は、どうしたんだい?」

呼吸が止まるかと思った。

緩慢に、振り返る。にこにこと、人の好さそうな小父様の笑顔が、胸に突き刺さりそう。

「確か、どこぞの貴族のお坊ちゃまだって言ってたろう?順調かい?」

「……っ」

体が震えるのが止められなかった。あの人のことを、覚えているの――?

「ナスティディアちゃん?」

「……ぁ。ごめんなさい」

「顔色が悪いよ」

「彼とは、お別れしたんです」

何とかそれだけ伝えると、小父様は目を見開いていた。

「えっ、そうなのかい?」

「やっぱり、貴族のご子息とのお付き合いは、難しかったですわ」

「うーん、そうだねぇ。それは残念だったね。まあ、あまり気落ちしないようにね」

「は、い……」

見送ってくれる小父様の視線から逃れるように、足早に家を離れた。

足がもつれそう。こんなところで、倒れるわけにはいかないわ。

どこからか現れたセレーヌが、わたしの様子を見て眉を顰めた。

「お嬢様!?どうなさいました!?」

近寄ってくるセレーヌの袖を、必死に掴む。

「セ、レーヌ……お願い、教えて……」

「お嬢様?」

「あの人のことを、教えて」

脳裏に浮かぶ黄金色。貴方は、何をしたの――?



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