30.恋愛話
王都リュグランの賑やかな街並みを、アスナ先生のお喋りを聞きながらのんびりと歩く。
休日の街は賑わっていて、商店通りには活気があった。
「それでぇ、その時にぃ、学院長先生が来られたんですよぉ。ホジャ先生の顔が見ものでしたぁ」
「それは、慌てられたでしょうね。女生徒に思いを告げられて、舞い上がったのかしら」
厳つい顔をした武術教師を思い浮かべてくすくす笑う。
急な誘いだったにも関わらず、一緒に過ごすことを了承してくれたアスナ先生は桃色の瞳を輝かせながら街を見ていた。
「そう言えばぁ、ダレストン先生もぉ、人気ですわねぇ」
「……えっ?」
思わず足を止めそうになった。
「うふふぅ。あれだけ格好いい方ですしぃ、生殖学の授業は神秘的でぇ、女生徒にはたまらないんですってぇ」
「神秘的……?」
「本気でぇ、ダレストン先生をぉ、追いかけ回している子もいるそうですよぉ」
宝飾店の中を覗きながら、アスナ先生が続ける。
「国外の方らしいっていうのはぁ、最初から知られてましたけどぉ。あの振る舞いならきっとぉ、高位の貴族の出身じゃないかってぇ、狙ってる子が多いみたいですぅ」
「狙って……」
「まぁダレストン先生の方がぁ、相手にはしてないですけどねぇ」
完全に歩みを止めてしまったわたしに、アスナ先生が首を傾げる。
「どうかされましたぁ?」
「あ……いいえ!何でもありませんわっ」
わたしの方へと戻って来たアスナ先生が、顔を覗き込んできた。
「っ!」
桃色が、探るようにわたしを見ている。
「妬けますぅ?」
「な、何を言ってるんですか」
「うふふぅ」
面白そうに笑って、アスナ先生が再び歩きだした。慌てて後を追いかける。
昼間は軽食を出している料理店に入った。
「結構混んでますねぇ」
午前中いっぱい街を歩いていたから、少し座りたかった。お腹も空いたわ。
「あ、二人なら入れそうですね」
ちょうど、奥の席で食事をしていた人たちが立ち上がった。
「少し待てばぁ、座れそうですねぇ」
待合席で店員に名を告げて、簡素な椅子に腰を下ろす。
「お腹ぺこぺこですぅ。何を食べましょうねぇ」
食事の種類が書かれた冊子を二人で覗き込みながら、案内されるのを待った。
卓の上を片づけ終えたのか、店員が呼びに来てくれて立ち上がる。
「まずはぁ、果実酒ぅ?」
「こんな時間からお酒を飲むんですか?」
「あらぁ。お休みの醍醐味じゃないですかぁ」
そういうものなの?でも、昼間から酔っ払ってしまっては、この後の時間を楽しめないのではないかしら。
「わたしは、お水で大丈夫です」
「ふぅん?……お固くて、彼も大変ね」
「アスナ先生?」
「いいえぇ、何でもぉ。じゃあお食事はぁ、今日のお勧めにしますぅ?」
今日の定食というのが人気のようだ。
初めて来るお店だし、店のお勧めを頼んだ方がよさそう。
こうしてアスナ先生と二人で食事をするのは初めてで、とても新鮮だった。
噂話好きで困ったところはあるけど、会話を弾ませるのが上手で楽しい。
ただ、時々探るような視線を向けてくるのは何故なのかしら。
「これはぁ、ただの好奇心なんですけどぉ」
「はい?」
リュグラン近郊の森に生息する兎肉の塩焼きを口に運びながら、アスナ先生に視線を向けた。
クセのないあっさりとした味つけが好みだった。
「ダレストン先生とはぁ、どこまでいってますのぉ?」
「……っ、ゴホッ……!」
思わず咽せてしまった。何を聞いてくるのよ!
慌てて水を飲み、喉を潤した。咳込んだせいで、涙が滲んでしまったわ。
「な、何を言ってるんですか」
これ、さっきも言ったわね。じっとりとアスナ先生を睨むと、平然と麺料理を口に運んでいた。
「だってぇ、リリンカ先生も独身でぇ、ダレストン先生だってぇ、お独りでしょお?いい雰囲気じゃないですかぁ」
「いい雰囲気?」
「学院でもぉ、一緒にいる時は何て言うかぁ、二人の世界ぃ?」
そんな風に見られていたなんて。
「わたしは、サラジ先生とお別れしたばかりですし。そんなにふらふらと、次の恋を始めようなんて思ってませんわ」
いえ、もう手遅れなのかもしれないのだけど。
きっぱりと言ったわたしに、アスナ先生が不思議そうに首を傾げた。
「サラジ先生ぇ?あの、引きこもりのぉ?リリンカ先生にぃ、何の関係があるんですぅ?」
「え……?」
引きこもり?いえ、それよりも――。
あんなに醜態を晒したのに、どうしてそんな、何も知らないような顔をするの?




