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王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


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29.夢を渡る


遅くなったから泊まっていくようにという申し出を丁重に断って、教員寮へと帰った。

わたしたちはまだ、朝までともに過ごすような関係ではない。

カリファーが何かすると思っていたわけではない。わたしのけじめの問題なのだ。

ただ、治安のいい王都とは言え、夜道を一人で帰ることは許してもらえなかった。

侍女のセレーヌさんと、カリファーの執事だというレストさんが送ってくれた。

レストさんも、セレーヌさんと同じような黒髪に黄色い瞳をしていた。ご親族なのかしら。

教員寮の門前まで送ってくれた二人にお礼を伝えて、女性棟の個室へと戻った。

何だか酷く喉が渇いていた。

水差しから注いだ水を、一息に飲み干す。

もう、顔を洗って寝てしまおう。明日は休みだもの。少しくらい朝寝坊したっていいわよね?

窓の覆い布で室内を隠し、着替えを済ませたわたしはさっさと寝台に入った。

そして、夢を見た――。



夕日に照らされた、一面の花畑。

空から景色を見下ろしているような、不思議な感覚だった。

あれは――棺?

黒く艶めく棺の中に、一人の女性が横たわっていた。

その縁に座る、長身のひと。心臓が、どきりと音を立てたような気がした。

棺に顔を向ける彼の顔が、ここからでは見えない。

けれど、見たことがあるような漆黒の髪が風に揺れていた。


『……ディア、またお前に会えるよな?』


風に乗って流れてきた呟きは、胸がつぶれそうな悲しい声だった。

でも、何故か嬉しくて泣きたくなった。

わたしは、彼のことを知っている。そう、心の奥が叫んでいる。

彼の長い指が、棺に横たわるわたしの頬をそっと撫でた。……わたし?

いいえ、あれはわたしではないわ。赤毛だったことなど、ないもの。



場面が変わる。

あちこちで戦乱の火が上がっていた。

崩れ落ちそうな城から、彼に支えられながら走り出てくる金髪の女性。


『リーディ――ッ、これを――』


爆発音のような轟音が響いて、よく聞き取れなかった。

でも、空から見ているわたしの目の前で、女性の背中が後ろから撃ち抜かれた。


『リーディア!』


彼の腕の中に倒れていく、彼女の姿。微笑むその表情が、自分の顔を見ているようで恐ろしくなった。


『きっと、また……貴方に会いに、行くわ……』


轟音の中、それでもはっきりと聞き取れた彼女の声は、わたしのものだった――。



ハッと目を開けた。

見慣れた天井が見える。濡れた感触に思わず頬を触ると、いつの間にか泣いていたみたいだった。

深呼吸を繰り返して、ゆっくりと起き上がる。

覆い布の隙間から、朝日が差し込んでいた。

「……夢、よね?」

額を押さえる。心臓がどくどくとうるさい。

緩く頭を振って、寝台から立ち上がった。

覆い布をはずす。窓も開けると、よく晴れた気持ちのいい風が吹き込んできた。

水を一口飲む。少し落ち着いてきたかしら。

一体、あの夢は何だったの?

見覚えのない光景、言った覚えのない言葉。そして、大切そうに彼女を抱きしめていた、彼の姿。

「……カリファー、なの?では、あの女性は、誰?」

気持ちを落ち着ける為に寮に帰ってきたのに、余計に混乱してきた。

こういう時は、一人でいない方がいい。

食堂に降りれば、誰かいるかしら。

全身にかいていた汗を拭いて、普段着に着替える。

共用の食堂に入ると、アスナ先生が窓の外を見ながら朝食を食べていた。

「あらぁ?リリンカ先生ぇ、おはようございますぅ」

何だろう、とてもホッとした。彼女が日常を連れて来てくれたように錯覚する。

「おはようございます、アスナ先生」

用意されている朝食の盆を受け取って、アスナ先生の向かいに座った。

「あの、アスナ先生」

「はぁい?」

「今日、その。お休みですよね?何かご予定がありますか?」

ほとんど食べ終えていたアスナ先生が、びっくりしたように目を見開いてわたしを見た。

「へっ?」

急に恥ずかしくなってきて、俯いた。

「あの、もしよければ、お買い物でも一緒にどうかな、って」

こういう風に誰かを誘った経験があまりなかったから、とても緊張するわ。

「予定はないですけどぉ。リリンカ先生こそぉ、ダレストン先生とお出かけとかぁ、しませんのぉ?」

「ええっ!?」

「せっかくのお休みじゃないですかぁ。予定がないならぁ、誘ってあげればよろしいのにぃ」

でも、昨夜も遅くまで一緒にいたのだし。迷惑じゃないかしら。

それに、たまには女性同士で楽しい時間を過ごしたい。

「あの、わたし。故郷も田舎で、王都に親しい友人っていないんです。アスナ先生と出かけたら、楽しそうだなと思って。……ご迷惑でした?」

そう尋ねると、アスナ先生は慌てたように胸の前で両手を振った。

「そんなことぉ、全然ないですぅ。それならぁ、ご一緒しましょお?」

その返事にホッとした。甘えてしまったかしら。



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