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王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


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23.夕闇の中で


少しずつ少しずつ、闇に目が慣れてきた。

薄っすらと、震えるサラジ先生の姿が見える。

けれど、そんなものはどうでもよかった。その先に立つ、長身の人影。

安堵で涙が零れそうだった。でも、ここでは泣かないわ。

暴力で支配しようとした人の前で、弱いところなど見せたくない。

「いつまでも見苦しいものを見ていたくはないが」

パチン、と指を鳴らした音が聞こえた。

闇が晴れていく。

夜空のような艶やかな漆黒が、月を思わせる黄金色が、世界のすべてを覆うほどの存在感を見せていた。

「……カリファー」

わたしの呟きに、サラジ先生がぐるんとこちらへ顔を向けた。

ギラつく瞳を無視して、カリファーだけを見つめる。

「遅くなってすまない」

サラジ先生と同じ台詞なのに、どうしてこんなに違って聞こえるのかしら。

「いいえ。来てくれてありがとう」

「それの処分は、どうしたい?」

顎でサラジ先生を指して尋ねられて、思わず笑みが浮かぶ。

「二度と、会いたくな……痛っ」

切れた口の中が痛んで言葉が止まってしまった。

眉間に皺を寄せて、カリファーがこちらへ歩いてきた。

後ずさろうとしたサラジ先生が、床に尻餅をついた。

「どうした」

大きな手が顎に添えられ、そっと上を向かされた。

初めて肌に触れられて、胸がドキドキする。そんなことを考えている場合ではないわ。

「平気。すぐに治るわ」

頬を優しく撫でられる感触に目を閉じた。

「暴力とはな。この国の貴族の令息というものは、それほど程度が低いのか」

空気が凍えそうな声だった。でも、少しも怖くない。

きっと、この声がわたしを傷つけることはないと、どこかでわかっているのね。

「保健室へ行こう。アスナ先生が、まだ残っているかもしれない」

「このくらい、寮に戻って薬を塗っておけば大丈夫」

「いや、傷が残っては嫌だろう?専門家に、しっかり診てもらおう」

何だか、カリファーが過保護だわ。くすぐったいような気持ちになる。

素直に頷いてその場から歩きだそうとしたわたしの背中に、苛立つ声が掛かった。

「ま、待て……ナスティディア」

返事をする気も起きなかった。

何を言っても、どんなに言葉を重ねても、彼には伝わらない。きっと、彼に都合のいい言葉だけを拾い集めて、また不快なことを言ってくる。

「カリファー、早く行きましょう。わたし、教員室に荷物を置いたままなの」

仕事を終えた後、彼とお酒を飲みに行く約束をしているのよ。

これ以上、無駄な時間を過ごしたくなかった。

「いや、今夜は酒はやめておけ」

「えっ?」

動きを止めて仰ぎ見ると、カリファーが困ったように眉を下げていた。

「口の中を切っているだろう。酒は滲みるぞ?」

「……」

せっかくの機会なのに。

普段は、翌日の仕事に響かないように、お酒を飲まないようにしていた。こうして時折、休みの前日にカリファーと食事に行くことは、この三週間の間に楽しみな時間になっていたのに。

唇を噛んでサラジ先生を睨みそうになる。

ダメよ。目を合わせては、何を言われるかわかったものではないわ。

「では、今日は食事だけにしておきましょう。それならいいでしょう?」

「まあ、それなら……」

「ナスティディアッ!どういうことだっ。その男と、どんな関係なんだっ!」

あぁ、頭まで痛くなってきたわ。


どうしようかと悩んでいると、カリファーが宥めるようにわたしの肩に手を置いた。

「カリファー?」

「少し待っていてくれ」

そう言って、カリファーの視線が本棚の方へ向けられた。

「しっかりと手綱を握っておくように、申しつけたはずだが?」

底冷えするような声に、床に座り込んだままのサラジ先生の肩が跳ねた。

「フランソワーズ=ボンヌ」

彼の口から放たれた名前に、驚いて振り返る。

夕日に照らされ始めた本棚の陰から、豊満な体を制服に包んだ子爵令嬢が現れた。


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