表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/42

1.出会い


高等学院の予鈴が、新しい季節の始まりを告げた。

満開の花の下を、新入生たちが嬉しそうにはにかみながら駆けていく。

真新しい制服が、陽光を受けて輝いているみたい。

「ナスティディア、どうかしたか?」

後ろから掛けられた声に振り返る。

着崩した白い上衣の隙間から肌を見せる、恋人になりたてのハスアンだった。

赤茶の短髪をしっかり撫でつけ、こちらへ歩いてくる。

「新入生たち、可愛いなと思って」

わたしの隣に並んで、焦げ茶の瞳を細めたハスアンがにやりと笑う。

「君だって、去年まではあの中に混じっていた」

高等学院を卒業したばかりのわたしは、今日から臨時講師として働くことになっていた。

ハスアンは、わたしより二年先にここで働き始めている。

「そうね。不思議な気持ちがする」

「僕は、君が卒業するのを待ちわびていたから」

そう言って、そっとわたしの手をすくい取ってハスアンが指先に口づけてきた。

「ちょ、ちょっと!こんなところで……っ」

「誰も見ちゃいない」

そう言って顔を近づけてくる。

強引なハスアンのこういうところが、昔から少し苦手だった。

「ダメよ、離して」

手を取り返そうと焦っていると、ハスアンの背後から低い声が掛けられた。

「失礼。教員室はどこだろうか」

ハッとしてハスアンの手を振り払う。


ムッとしたような表情を浮かべるハスアンを無視して、声を掛けてきた相手に目を向けた。

漆黒の髪を編み込んで背に垂らし、きっちりと礼服を着込んでいる年若い青年が立っていた。

深淵まで覗き込まれそうな黄金色の瞳が、こちらを射抜くように見ている。

周囲の音が止まったような気がした。まるで、この人だけが別の時間を生きているような。

……何を考えているのかしら。

目が覚めるような美青年だった。

知らず、顔が熱くなる。

「あの、どちら様で……」

「教員室なら、僕が案内しますよ。どなたですか?」

わたしの言葉を遮って、ハスアンが警戒したような声を出した。

「ああ。今日からこの高等学院で講師を務める、ダレストンです。生殖学を教える、カリファー=ダレストン」

耳に心地良い低音で告げられた彼の名前に、心の奥底がじんわりと温かくなった。

何かしら。初めて会った人なのに、胸が締めつけられるような気がする。

「そちらは?」

聞き返されたハスアンが、コホンと咳払いして名乗る。

「幾何学を教えています、ハスアン=サラジと申します。教員室へご案内しますよ」

「隣の彼女は?」

向けられた視線に、また顔が熱くなってきた。

わたしを隠すように、ハスアンが前に出る。

「今日から臨時講師になられる、ナス……いえ、リリンカさんです。僕の恋人ですよ」

「ちょっと、ハスアンッ?」

初対面の相手に対して、失礼すぎる。

慌てて彼を押しのけるように、ハスアンの隣から顔を出した。

「初めまして、ダレストン先生。私も今日からこちらで働くんです。ナスティディア=リリンカと申します。よろしくお願いしますね」

改めて名乗ると、彼――ダレストン先生は嬉しそうに微笑んだ。

「では、新参者同士、仲良くしてもらえますか」

咲き誇る満開の花すら霞んでしまいそうな美貌に、見惚れてしまった。

と、ぐいっと横から腕を引かれた。

「ハスア……!?」

最後まで呼ぶことができなかった。

こんな、人目のあるところで、しかも初対面のダレストン先生の目の前で。

ハスアンが深く口づけてきたから。

「……んんっ!」

遠くで、生徒たちの黄色い悲鳴や、冷やかすような声が上がっている。

押しのけようと彼の胸に手を置いて力を入れているのに、びくともしない。

体を鍛えてなんていないくせに何て力なの!

ぽかぽかと、必死に胸を叩く。


「……っはあっ」

ようやく唇を離されたけれど、恥ずかしくてダレストン先生のほうを見られない。

どういうつもりか問い詰めようとハスアンを睨み上げると、彼はわたしのことなど見ていなかった。

「ご覧のように、僕たちは熱烈に愛し合っています」

呼吸を整えているわたしの肩を抱き寄せながら、挑発するような声でダレストン先生に言い放った。

「ハスアン、失礼よ」

「君は、僕だけ見てればいいんだ」

「……」

こんなこと、言う人だったかしら。

いえ、わたしがダレストン先生に見惚れたりしたから、気に障ったのね。

眉を下げて、ダレストン先生に頭を下げた。

「失礼しました、ダレストン先生」

「いや……そうか、穢そうというのか」

「えっ?」

何か呟かれたようだけど、よく聞こえなかったわ。

でも、気分を害していないのならよかった。

これからともに働くというのに、気まずいのは嫌だもの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ