表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/50

16.決別


世界から音が消えたみたいだった。

温度も気配もなく室内に立っていたのは、黄金色の瞳を眇める長身のひと

動きを止めたサラジ先生を、ようやく押しのける。

乱れた襟元を直し、必死に彼から離れた。

伸ばされた手を避け、濡れた口元を袖で乱暴に拭う。

ダレストン先生の側に立てて、ようやく呼吸ができた。

「リリンカ先生は、思った以上に勇敢だな」

「えっ?」

「その選択を尊重しよう」

そう告げて、ダレストン先生がサラジ先生を見据える。

「っ!貴様、何故……」

「人気のない場所で、嫌がる女性を襲う。呆れるほど低俗だな」

「なっ!?」

部屋の温度が急激に下がったような気がした。

ダレストン先生は、声を荒げてなんていないのに、静かな怒りが空気を震わせているのが伝わってくる。

「貴様には関係ないっ!僕と彼女の問題だ!」

「吠えるしか能がないのか。その彼女が、すでにお前から離れることを決めているんだろう」

「何を……っ」

「このことは、学院長に報告しておく。学び舎という神聖な場で、私欲の為に彼女を穢そうとしたことは、許されることではない」

資料室の扉を開いて、ダレストン先生がわたしを促す。

「……っ、待て!ナスティー!」

最後まで、話を聞いてくれない人ね。

溜息を吐いて、サラジ先生を見つめる。

「二度と、ナスティーと呼ばないでください。

 貴方と過ごした時間、楽しい時もありました。ですから、騙したことはもう責めません」

「騙してなんか……」

「今まで、ありがとうございました。ご婚約者様と、お幸せに」

「!!」

驚愕に目を見開くサラジ先生に、背中を向けた。

わたしの言葉の何に驚いたのかはわからないけれど、もう関係ないわ。

静かに、資料室から外へ出た。


隣をゆっくりと歩いてくれるダレストン先生が、とてつもなく大きな存在に思える。

大人の男の人というだけではなく、そう、何もかも忘れさせてくれそうな包容力を感じるのよ。

深く息を吸い込みながら、今頃になって体が震えてきた。

きっと、酷い顔をしているだろう。それでも、これだけは伝えなくては。

「ダレストン先生。来てくださって、ありがとうございました」

よかった。ちゃんと、お礼を言えた。

わたしを見下ろす黄金色が柔らかく細められた。

「リリンカ先生が、自分で頑張ったんでしょう?」

どうしてこんなに、優しいのかしら。

「それでも、あのまま二人きりだったなら、どうなっていたかわかりません」

「……そんなことは、させないがな」

「えっ?」

時々、ダレストン先生の呟きを拾えない。

「何て仰いました?」

「いや、何でも」

「……?」

教員室へ向かいながら、これからのことを考える。

仕事を続けるなら、サラジ先生とは今後も顔を合わせることになるだろう。

憂鬱だけど、仕方ない。

周囲の視線も、冷ややかになるかもしれない。でも、わたしは自分に恥じるところはないのだから、堂々としていなくては。

それと――。

「婚約者の方への慰謝料って、どのくらいが相場なんでしょう?」

「慰謝料?」

ダレストン先生の片眉が上がった。

「ええ。知らなかったとは言え、サラジ先生には婚約者がいらっしゃったんですもの。慰謝料をお支払いするのは当然ですわ」

「あの男に払わせればいいでしょう」

その言葉に吹き出してしまった。

「彼は婿入りと聞きました。慰謝料を払っても払わなくても、肩身の狭い思いをするはずですわ。それで、十分です」

憎いわけではなかった。

ただ、騙されていたことが悲しいだけ。

でも、けじめはきちんとつけたい。

「真面目ですね。そこが眩しいと思いますが」

「ダレストン先生?」

「いや。慰謝料については、あちらに直接聞いてみるのがいいのではないですか?」

「あちら?ご婚約者様のお家ですか?」

教員室の扉が見えてきた。

さっきの騒動を見ていた教師たちが残っているなら、中に入るのは気まずいわね。

「貴族の令嬢が相手なら、まずは手紙でも出してみてはどうでしょう?」

「手紙……」

「それと、フェンヤ先生に相談するといいでしょう」

ダレストン先生が、教員室の扉に手を掛けた。

「フェンヤ先生に?」

「あの女傑先生は、貴族の出身でしょう?こういった時の対処法にも、詳しいかもしれない」

「成程……」

そうだった。家を出ているとは聞いていたけれど、フェンヤ先生も貴族のご令嬢なのだった。

教員室に足を踏み入れる。

中にいた人たちの視線が一斉に向けられて、思わず身を竦ませた。

でも、すぐに視線が逸らされた。

「……?」

さっきの出来事など、何もなかったかのように、いつも通りの教員室の光景だった。

アスナ先生が、桃色の瞳を楽しそうに細めて手を振っている。

「リリンカ先生ぇ、試験お疲れ様でしたぁ。今夜ぁ、飲みに行きませぇん?」

「え、っと……」

噂話が好きなアスナ先生が、サラジ先生のことを聞いてこないとは思えなかった。

どうしたら、と思っていると隣からからかうような声が響いた。

「申し訳ない、アスナ先生。彼女は今夜は、私と先約があるんです」

「……!?」

「あらぁ。それじゃぁ、仕方ありませんわねぇ」

にこにこと笑ったアスナ先生が、荷物を抱えて教員室を出ていった。

一体、どうなっているの――?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ