第9話 恩人
窓から入り込んだ日差しで目が醒める。
久しぶりにふかふかの布団で寝たからか身体が妙にスッキリしていた。
元々部屋に備え付けてある時計の針はちょうど九時を指している。
俺は布団から起き上がり一度背伸びをしてから洗面台に向かい歯を磨く。
それから、布団を畳部屋の端っこに寄せてから昨日買っておいた菓子パンをペットボトルのお茶と一緒にいただく。
最後のひとかけらを飲み込むタイミングでドアをノックする音が聞こえ、ドアを開けると
春奈ちゃんが立っていた。
「おはようございます。起こしてしまいましたか?」
「おはよう。ちょうど朝飯を食い終えたところだったよ。ありがとう、おかげでぐっすり休めたよ」
「それならよかったです。これから出かけないといけなくて。私の事を探されたら申し訳ないので」
「あぁ、鍵だね。ごめんすぐに出るから。布団はどうすればいい?」
「いえ、ゆっくりしていってください。鍵は、今度店にいらっしゃる時でいいので。布団もそのままで問題ないです。もし、行く当てがないのでしたらこの部屋に滞在していただいてもいいですし」
「いや、今日には住む場所が決まると思うから大丈夫だよ。夕方ごろには店にいるのかな?」
「はい、午後二時前には戻りますのそれ以降は店にいます」
「わかった、じゃあ夕方に鍵を届けにいくよ」
「わかりました。よろしければ、連絡先を交換してもいいですか?」
春奈ちゃんがそう言ってスマホを取り出す。
「ごめん、今、使えるスマホがなくて。数日以内に契約する予定だからその時でいいかな?」
「はい、わかりました。では、行きますね」
「うん。じゃあ、夕方に」
春奈ちゃんを見送ってから、部屋のゴミをまとめ収納の魔道具に入れる。
現時刻は十時、徳さんと会う正午までには時間がある。
だからと言って行く所もないので部屋に寝っ転がりボーっと天井を眺める。
徳さんが部屋を用意してくれるって言ってだけど、そうなると色々と買い揃えないといけない。今の俺の手持ちは四万五千円。何をどれくらい揃えるかにもよるが人が一人生活するための生活用品を揃えるとなるかなり心許ない金額だ。
「もう少し金貨を売る必要があるな」
後で徳さんに相談してみよう。
それから小一時間ほどゴロゴロしながら時間を過ごし、徳さんとの待ち合わせ場所である公園へと向かう。
寄り道をしながら公園につくと時刻は十一時四十分。
公園のベンチに腰をかけている徳さんが俺の姿を確認すると大きく手を振る。
「遠松のあんちゃん!」
「こんにちは。どうでしたか?」
「ほれ、マイナンバーカードじゃ」
渡されたマイナンバーカードを確認する。
名前や生年月日もちゃんと入っており、昨日別れ際に取られた写真も上手く加工されて入っていた。
「これ、本当に使えるんですか?」
「もちろん、心配ナッシングじゃ。あんちゃんの戸籍もちゃんと役所のデータベースに反映されておる」
「そんなのどうやって……」
「そこら変は企業秘密じゃて、深入りは禁物じゃ」
「そうですか……」
こんな短時間で人間一人の戸籍を作るなんてまともではないだろう。
深入りして変なことに巻き込まれるのも面倒くさいし、これ以上は聞かないことにしよう。そもそも、俺一人ではどうにもできないことだからな。
「このマイナンバーカードに記載されている住所が俺の新居ということでいいですか? 家賃とかはどうすればいいでしょうか?」
家の事を聞くと徳さんはバツの悪そうな表情をする。
「すまん、あんちゃんに住んでもらおうと思っていた部屋を他に取られてしまったんじゃ。あと数日時間をもらえないかのぉ」
そうなると数日は家なしになるのかぁ……いっそのこと春奈ちゃんの所に住もうかな。そうすれば春奈ちゃんに家賃収入も入るし、地上げ屋が変な気を起こしても何とかしれあげられるし。
「家の方は、あてがありますので自分で何とかしてみます」
「ほぅ、そうかそうか。では、家は何とかなるとして次はこれじゃ」
徳さんから紙袋をわたされる。
紙袋の中身を確認すると、そこにはスマホの箱と充電器が入っていた。
「スマホですか?」
「そうじゃ、ちゃんとあんちゃん名義で契約されておる。ただ、住所がそのマイナンバーカードの住所になっているから住むところが確定したら役所で住所変更をするのじゃ」
「分かりました、そうします」
「それとほれ」
今度は紙封筒を手渡される。
「三十五万入っておる。部屋の契約に使おうと思っていた金じゃ」
「いいんですか?」
「何を言っておる、それはあんちゃんの金じゃ。ワシもちゃんとマージンはもらってるから遠慮する事はない」
これだけあれば、当分の生活費は何とかなるだろう。
「俺、最初すごく失礼な態度だったのに。何から何まで、本当ありがとうございます。徳さんおかげで何とか前に進めそうです」
徳さんがいなければ、腹を満たすこともできなかった。そして、不法滞在者としてにっちもさっちもいかなかっただろう。
俺は深々と頭を下げて「ありがとうございます」と感謝を告げる。
「ほら、頭を上げて。ワシも儲けさせてもらった訳だしうぃんうぃんじゃて! がははは!」
それから徳さんは自分の連絡先のメモを俺に渡して、困った事があればいつでも連絡してくれと言いその場を去っていった。
その徳さんの後ろ姿に目頭が熱くなる俺がいた。
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