第10話 賃貸契約
徳さんと別れた俺は、ちょうどお昼時という事もあり目についた焼肉屋で久しぶりの焼肉を満喫した俺は春奈ちゃんの店に向かう。
元々夕方に春奈ちゃんに鍵を返す予定だったが、十四時以降は店にいると言っていたのでやる事もないしちょうどいいだろう。
春奈ちゃんの店につくと昨日とは違い人の出入りが目立つ。
何事かと思い店内に入ってみると探索者らしい姿の人達がちらほらと見受けられる。
「じゃあ、頑張ってね春奈ちゃん」
「ありがとうございます! あ、遠松さん!」
レジでお客さんの対応をしていた春奈ちゃんが俺の姿に気づき手を振る。
「こんにちは、今日はお客さんが結構入ってるね」
「はい! 午前中に組合に行って顔見知りの探索者さんたちにポーションの宣伝をしてきたんです! そしたら、皆さんお店に来てくれて」
「そうか、良かったな」
「遠松さんのお陰です!」
「まぁ、俺も君の店が繁盛したらお金が入ってくるんだからウィンウィンってやつだよ」
なぜか徳さんの顔が浮かび自然と口元が綻びる。
「あ、鍵受け取ります」
「それなんだけど。当てにしてた部屋が借りれなくて、よければしばらくあの部屋を貸してもらえたら助かるんだけど」
「全く問題ないです。家賃もいりません」
「だめだよ、貰うもんはちゃんと貰わないと」
「でも……」
「でもじゃない。タダでなんて俺が悪い気がして住めないよ。無理なら他を探す」
「分かりました、では、格安で「ちゃんと相場通りでね」――うぅ……分かりました」
「じゃあ。今は、お店もあるから契約条件とかは後で詰めるとして、ここの住所を教えてもらえるかい? 時間がある時に住所変更とかやっておきたいんだ」
「はい、わかりました」
春奈ちゃんはメモ帳を一枚千切り、そこに住所を書き込んで俺に渡す。
「ありがとう。じゃあ、役所に行ってくるからまたあとで」
「はい、いってらっしゃい!」
俺は、春奈ちゃんから渡されたメモをポケットにしまい店を後にした。
◇
役所は春奈ちゃんの店から歩いて十分ほどの距離にあった。
転居届を提出したのちにマイナンバーカードの住所変更を行う。
徳さんの事は信じているけど、手続きが終わるまでこのマイナンバーカードが本当に使えるのか不安だったが、俺の心配をよそに手続きはすんなり終わった。
次に役所の人にホームセンターの場所を聞き出し、生活用品の買い出しにでる。
布団一式やタオル、台所用品など必要と感じたものをドンドン買い物かごに入れていく。
フロアに直に置いて食事をするのも違うと思い折り畳みのテーブルを手に取り、セルフレジで精算を済ませ人気のない場所で荷物を収納の魔道具にしまう。
「洗濯は近くにコインランドリーがあるから良いとして、冷蔵庫と電子レンジくらいは必要だよな」
今度は家電売り場に行き、小型の冷蔵庫と温め機能だけがついている安い電子レンジを購入し、こちらも収納の魔道具にしまいホームセンターを出ると、先ほどまで青く澄んでいた空はすっかり夕焼けに染まっていた。
のんびり歩きながら家路につく。コンビニで食べ物や飲み物を買うのも忘れない。
部屋についた俺は、今日の戦利品を一つ一つ確認しながら設置していく。
「少しは人間の住処らしくなったな」
コンビニ袋から取り出した缶ビールを片手に部屋を眺める。
まだまだ必要な物はあるが、数日前まで公園で野宿していた事を考えればかなり文化的になったと言えるだろう。
缶ビールを一本飲み干し、二本目に手が伸びた時にドアをノックする音が聞こえる。
「遠松さん、春奈です。いらっしゃいますか?」
春奈ちゃんの声にドアを開ける。そこにはやや疲れ気味の春奈ちゃんが立っていた。
「よっ、お疲れさん。店はいいのか?」
「はい。一区切りついたので今日は店じまいです」
「そうか。まぁ、入ってきなよ」
「はい。失礼します」
部屋に招き入れられた春奈ちゃんは、部屋に入るや否や驚いた表情を向ける。
「もうこんなに物が」
まぁ、数時間前には布団しか敷かれていなかったからな。少ないとはいえほんの数時間でこれだけ物が増えていたらそれは驚くよな。
「明日からは忙しくなりそうだから買えるうちに色々とかってきたんだよ」
「そうですか。あ、賃貸契約書を持ってきました。私は、結ばないなくてもいいと思ったのですが、遠松さんは違うというと思ったので」
「良くわかってるね。そうだよ、こういうことは明確にしないと」
賃貸契約書に目を通す。
家賃は、先ほど不動産の張り出しでみたこの地域の相場より15%ほど低かった。
あまりにも家賃を安く設定していたら突っぱねるつもりだったが、まぁ、これくらいならいいだろう。
「オッケーなにも問題ないよ。サインでいいかい?」
「はい、問題ないです」
俺は、二部ある賃貸契約書にサインをして春奈ちゃんに返すと、春奈ちゃんもその場で捺印をし、一部を俺に手渡す。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします!」
「あぁ、しばらく世話になるよ」
この世界に来て六日目、俺は自分の城を手に入れた。
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