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帰還者トーマツ  作者: いろじすた


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第8話 二○一号室の住人

春奈ちゃんに言われた通り建物の裏手に回り階段で二階に昇る。

二階は五畳ほどのフロアがあり、階段から見て正面に二つ、両脇に一つずつ計四つのドアが設置されている。

ドアの丁度目線の部分には部屋の番号が書いてあるプレートがあり、階段の右手の二〇一号室から反時計回りに二〇四号室となっていた。


「俺の部屋は二〇四号室だったな」


左手のドアの二〇四号室のプレートを確認した俺は、春奈ちゃんから預かったカギで部屋の中に入る。


玄関で靴を脱ぎ部屋の中を見渡す。

人が一人余裕で通れる短い通路の右手にはガスコンロやシンクが設置されており、左手にはトイレとユニットバスがあった。


「トイレと風呂場が別なのは助かるな」


大学時代にトイレと風呂場が一緒のマンションに住んでいたが結構不便だった記憶を思い出す。


通路をまっすぐ進むとフローリングの部屋が現れる。

広さ的には八畳ほどはあるだろう。

ワックスの匂いがする。

先週退去した人がいるって言っていたし、おそらくクリーニングを施したのだろう。

全体的に綺麗だしな。


まぁ、あっちの世界で洞穴みたいなところで生活したことがあるせいかどんな場所でも逞しく生きていける自信はあるが――綺麗に越したことはないだろう。


肩にかけていたカバンを床においてベランダに出てみる。


先ほどまで空を覆っていた雲は晴れて太陽が顔を出していた。

時たま頬をなでるそよ風が心地よい。


「気持ちいいなぁ……」


大きく深呼吸をしたのち、周辺をぐるっと見渡す。

ひと際人の流れが多い商店街らしき物が視界に入る。


「へぇ~商店街かぁ」


商店街であれば色々と持ち帰りできる物があるだろう。外食もいいが、せっかく雨風しのげる部屋があるんだ。

ここでしっぽりやるのもいいだろう。


そうと決まれば!

俺は床に置いたカバンを持ち上げて部屋を出た。


部屋を出て道路を一つ渡った先にデカデカと【外山商店街】と書かれている看板が見える。

横断歩道を渡り商店街のアーチ型の入り口を潜り中に入る。


商店街には隙間も無い程にずらりと色々な店が並んでいる。

少し奥に進むと精肉店と思わしき店の前に簡易的な屋台が設置されており、もくもくと煙を出している。


「おほ~焼き鳥か!」


たっぷりとタレに漬かった焼き鳥が備長炭に炙られている。チリチリと肉の表面が焼ける音が鮮明に聞こえ俺の脳を刺激する。


おそらくこの屋台は、後ろの精肉店がやっているのだろう。そうであれば新鮮でよい肉を食わせてくれるはずだ。


「よし、今晩は焼き鳥で晩酌だ」


よく見ると焼き鳥以外にやきとんもあった。

焼き鳥はもも、皮、せせりをタレで二本ずつ、やきとんはハラミ、バラ、かしらを塩で二本ずつ計十二本購入した。

また、揚げたてのメンチカツがあったのでそれも二つ購入した。


それから、コンビニに寄り漬け物とナッツ、ビールと赤ワインを購入しホクホク顔で部屋に戻る。


階段を昇ると春奈ちゃんが俺の部屋の前に立っていた。


「あ、遠松さん。良かった会えて」

「春奈ちゃんどうしたの?」

「布団とタオル持ってきました」

「わざわざ悪いね。今、ドア開けるよ」


急いで部屋のドアを開け、焼き鳥やコンビニ袋を床におき春奈ちゃんから敷布団に薄目の掛布団、枕にタオル二枚をもらいそれらを部屋に置き玄関に戻る。


「ありがとう」

「いえ、ゆっくり休んでください」

「へぇ……新しい人はいったんだ」


ぺこりと頭を下げる春奈ちゃんの背後からパンパンに膨らんだリュックを背負った長身の青年が姿を現す。


「あっ、来栖さん。お帰りなさい。こちら遠松さんです。今晩だけこの部屋に泊まることになりました。私のビジネスパートナーです」

「ビジネスパートナー?」

「はい、お店を立て直すために色々と支援を……」

「おい、あんた!」


来栖が怒声を発しながら俺の胸倉をつかむ。

おそらく春奈ちゃんの店が経営難に陥った原因を知っており、俺があの男達と同様に春奈ちゃんを騙そうとしているのだと思ったのだろう。


「ち、違うんです、遠松さんは!」


取り乱した様子で春奈ちゃんが俺との契約について来栖に説明する。


「それは、本当なのか?」

「一応、これが契約書だ」


契約書を片手で受け取り、俺を警戒しながら来栖は契約書に目を落とす。


「す、すみませんでした!」


どうやら誤解が解けたようだ。


「頭を上げてくれ。春柰ちゃんの境遇を知っているなら君が警戒するのは当然だから」

「俺、駆け出しの時に春奈ちゃんの両親に本当にお世話になって……」


来栖は、シルバーランクの探索者で春柰ちゃんの両親に世話になったらしく、その恩を返すため春奈ちゃんの力になろうとしているらしい。

見たところ成人して間もないようだが、この若さでシルバーランクという事は

かなり優秀なんだろう。


「悪いようにはしないから安心してくれ。まぁ、初対面の男を信用してくれというのは無理な話だよね」

「いえ、どうかよろしくお願いします。すみませんが、ここ数日ダンジョンに潜りっぱなしだったので、俺はここら辺で失礼します」


深々と頭を下げた来栖は二○一号室へと消えていき、俺達も自分達の部屋に戻っていった。


それから俺は買ってきた焼き鳥とメンチカツを堪能し、早々に寝床についた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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