第7話 選択肢
二年前に少女の両親が不慮の事故で他界した。
最初は店を手放そうと思っていたが、両親との思い出が詰まっているこの店を手放すことはできなかった。
幸いに手先が器用で幼少の頃から両親からモノづくりの技術を叩きこまれた事もありある程度の事はこなせると踏んでこの店を継ぐことに決めた。
店を切り盛りしていく事に対しては素人同然だったためかなり大変だったが、常連さん達の手助けや両親の遺産を少しずつ削りながらなんとかつないできたという。
しかし、近隣に探索者専門店の大手である【ガイア】の支店ができたことで客を取られ資金が底につきた。
そんな矢先、さきほどの男達から援助の申し出があり資金を借りたというのだが、結果それが所謂闇金だった。
「そうか……。ちなみに借金はどれくらい残ってるんだ?」
「一千万ほど……」
「えっ、そんなに?」
「最初に借りたのは二百万円だったのですが……利子がどんどん膨らんで……」
今では常連さん達ができる範囲で支援してくれて何とか首の皮一枚でつながっている状況だが、それでも限界がありとうとう店を手放さないといけない所まで追い込まれている。
一瞬、俺が持っている金貨が頭を横切る。
徳さんに頼めばこの子の借金を肩代わりすることは可能だろう。
少女は両目いっぱいに涙を溜めて、こぼれないように必死に歯を食いしばっている。
そんな少女の姿をみて俺は頭の中で様々な選択肢を模索する。
関わってしまったのだ、別に無期限無利子でこの少女にお金を貸してあげてもいい。
だからと言ってただ金を貸して終わりとなればこの店の状況を打破する事はできないだろう。
手を差し伸べるなら最後まで責任を持つ必要がある。
あの日、俺はそう決めたんだ。
「そういえば自己紹介がまだだったね、俺の名前は遠松宗助だ。良かったら君の名前を教えてくれないか?」
「春奈です。宮野春奈」
「春奈? この店の名前ってもしかして?」
「はい。私の名前から取りました」
「そうか、春奈ちゃんって呼んでもいい? 俺の事は好きに呼んでいいから」
「はい、では遠松さんと」
「オッケー。さて、春奈ちゃん。君には二つの選択肢がある」
「えっと……」
「あくまで決めるのは君だ。こんな初めて会った男なんて信用できないだろうしね」
「いえ、そんな……」
無理もない。知らない大人を信じたせいでこんな事になっているのだから。
「無理をすることないよ。でも、聞くだけならタダだから聞いてみてくれないか。それから判断しても遅くないと思うし」
「……はい、聞くだけなら」
「よし。では、まず一つ目。あの男達の言う通りこの店を明け渡して借金を返済すること」
「それは絶対いやですッ!」
「まぁまぁ、最後まで聞いてみてよ」
「す、すみません……つい……」
「大丈夫。それほど君がこの店を大事に思っているという事だから。さて、二つ目。
できれば君にはこっちを選択してほしい」
「はぁ……」
「俺が君にお金を貸す」
春奈ちゃんの顔が一瞬晴れ、そして暗いものに変わっていく。
「それは……」
「まぁ、やってる事はさっきの人達と一緒だよね。だけど、さっきの人達と俺は違う。まず、バカみたいな利子や返済期限は設けない。ただし、どれだけ掛かってもいいから毎月ちゃんと返済する事が条件だ」
「すごくありがたいのですが、お金をかえせるかどうか約束が……お客さんもいなくて……」
「そう、問題はそこだよね。でも、その問題も君次第で多分解決できると思う」
俺はカバンに手を入れたふりをして収納魔道具から緑色の液体が入った四合瓶を取り出しカウンターに置く。
「これは……ポーションですか?」
「正解」
ポーションは、基本的に怪我の程度に合わせて薄めて使用する。昨夜、銀さんに確認したがその部分はマグナとこの世界と概念は一緒だ。
そして、これ一本で全治一週間程度の怪我であれば三十回分くらいになるし、これを薄めずにそのまま一本まるまる使用する事で程度にもよるが部位欠損などの大怪我もたちまち完治するのだ。
「ポーション一本の相場は?」
「以前は、一本当たり百万円前後で販売してましたが最近供給が追い付いていないようでかなり上がっていると聞いています」
物価を考えたらあっちの世界と大して変わらない。
「ポーションは探索者にとって一番消費量が高い消耗品だよね?」
「はい、仕入先から与信が通らないと取引を断られてポーションの仕入れができなくなった事が引き金になりお客さんがたくさん離れてしまったんです……」
「やっぱりそういう事か……。探索者専門店をうたっているのにポーションが売られていないのが不思議だったんだ。ポーションを仕入れることが出来たら何とかなる?」
「遠松さんが仕入れ先を紹介してくださるのですか?」
「うん、そんなところかな」
「でも、資金が……」
「ポーションの仕入価格はいくらくらい?」
「そうですね、一本百万円から百二十万円の間で取引されています」
「オッケー、わかった。それじゃあ、まず――」
俺は、収納の魔道具からポーションをどんどん取り出しカウンターに並べる。
「え? え?」とおかしなリアクションを見せている春奈ちゃん。
斜め掛けはそんなに大きくない。
明らかに不自然な光景だが、春奈ちゃんは驚きが勝っているようだ。
まぁ、なんの変哲もない斜め掛けからこんな高価なポーションが出てきたらそりゃあ驚くよな。
「生憎手持ちはないんだ。でも、ここに十本のポーションがある。相場を考えれて上手に捌いたら借金分くらいは取り戻せるよね?」
「それはそうですけど……でも、こんな」
「まさか、俺がお金をそのまま貸すと思った?」
「……は、い」
別にそれでもいいがそれだと春奈ちゃんとこの店のためにならない。
借金の返済がゴールではなく、春奈ちゃんとこの店の人生はこれからも続くのだから。
だから、俺はあえてこの方法を選んだ。
「甘えちゃだめだよ。春奈ちゃん、君は商売人だろ? せっかく店を立て直せる武器が目の前にあるんだ。この武器をどう使うのが一番稼げるのかを悩み抜くんだ。ここで何もできませんでしたではこの店はもうあきらめた方が君のためになるし、君の両親もそれを望むはずだ」
春奈ちゃんは並べられたポーションに目を落とし俺の言葉に少し考える素振りを見せる。
そして、顔を上げる。覚悟の籠ったいい目をしていた。
「私、やります! やってやります!」
「うん、その意気だ」
それから、俺たちは簡単な契約書を交わした。
契約書と言っても、まぁ、俺に対する返済が主だが。
「よし。これで契約完了だな」
「はい! 本当に助かりました。遠松さんがいなかったら私……」
「まだ、終わったわけじゃないよ。それをいうならこの金額を全額返済してからだ」
「そ、そうですね! 私、やってやります!」
春奈ちゃんは、両手にこぶしをつくり鼻息を荒くしている。
「あはは。頑張ってな。そういえば、この辺で安く泊まれるビジネスホテルとか知ってるか?」
徳さんが戻るのは明日。
できれば今日は布団に包まれて寝たい。
スマホが使えない現状、宿泊サイトにアクセスもできないため地元人の春奈ちゃんに宿について聞いてみた。
「そうですね……あっ、もしよければここの二階はどうですか?」
「ここの二階?」
「はい、実は、二階には賃貸に出している部屋があるんです。間取りは1Kです。ちょうど先週退去された方がいて空き部屋があるんです」
この三階建てのビルの一階は現在俺達がいる店舗、二階に賃貸用の部屋が四室あり三階が春奈ちゃんの自宅だという。
「色々と助けていただいたお礼に宿泊費用などは良いので好きなだけ使ってください」
「それは助かる。明日には住むところが決まるから、一晩だけ厄介になるよ」
宿泊費が浮くのはかなり助かるため、俺は春奈ちゃんの提案を受け入れることにした。
「はい、ちょっと待ってくださいね」
春奈ちゃんが、カウンターに備えづけられている引き出しから鈴のついたカギを取り出し俺に手渡してくれる。
「二〇四号室のカギです。この建物の裏側に階段がありますのでそこから上がって行ってください。二階の一番奥の部屋です。布団は後で持っていきます」
「うん、ありがとう。助かる」
俺は春奈ちゃんから手渡されたカギを手に店を後にした。
最後までお読みいただきありがとうございます。




