第6話 探索者専門店
「身分証は徳さんに任せるとして、俺も準備に取り掛かるか」
身だしなみを整えるために近くにある銭湯へと向かう。
昨日の内に場所は教えてもらっていたので迷う事なく辿り着くことができた。
ここ【快楽湯】は、昔ながらの煙突がある瓦造りの建物だ。
入口にいる番頭さんに入浴料と一緒にタオルの代金を払い男湯の暖簾をくぐる。
脱衣所から風呂場をのぞきこむ。
朝方のためか中には数えるくらいの人しかいなかった。
今着用している衣服類を脱ぎ収納魔道具にしまい昨日コンビニで買った下着類と靴下、そして、俺が持っているマグナ製の服の中でこっちの世界でも普通に着れそうなチュニックとシルクのズボンを取り出しロッカーに入れておく。
タオルを手に洗い場に入る。
適当な場所に座り、頭や身体の汚れをしっかりと落とす。
ここ数日洗ってないせいか、一度や二度では泡立ちが悪く三度目でスッキリすることができた。
広々とした湯船に浸かる。
少し熱めのお湯で一瞬身体がチリっとするのだが、それがまた心地よく感じられた。
元々長風呂ができるタイプではないので十分ほどで湯船から出て最後にシャワーで軽く身体を流し脱衣所に戻った俺は、タオルで全身を拭い自販機で買ったコーヒー牛乳を一気に飲み干す。
それからタオルを腰に巻き、備え付けのドライヤーで髪を乾かしたのち歯を磨き、髭を剃る。
「よし、これである程度整ったかな」
心身ともにリフレッシュした俺。服を着て銭湯を出るといつの間にか雨は止んでいた。
まだどんよりした空を眺めながら次の目的地に向かう。
昨日は、服や身体が汚れていたのでコンビニ飯で済ませたのだが、銭湯帰りの俺に怖いものなど何もない。
というわけで、某牛丼チェーン店の暖簾をくぐる。
カウンターに座りメニューを見てみると朝定食をはじめ色んなメニューがありどれも旨そうだったのだが、普通の牛丼を頼む。特盛で。
昨日の弁当も旨かったが出来立てほやほやの牛丼は別格だった。
結局三杯もお代わりをし、満足した俺は腹をさすりながら牛丼屋を後にした。
次に衣類の調達に向かう。
今、俺が持っている衣類はマグナ製の物しかない。マグナ製の衣類はいわば中世ヨーロッパ時代の庶民の物に近いため現代日本ではかなり浮いてしまう。
というわけで、赤いロゴのカジュアルファッション店に入る。
現状残金は五万円ほど。
その半分を使いジーンズなどのズボン類やシャツ類、靴下や下着などを購入する。
パンパンに膨らんだ紙袋を両手に持ち店を出た俺は、このまま歩き回るには紙袋が邪魔なため、人気のない路地裏に入り紙袋から買った物を取り出して収納魔道具に取り込む。
「よし、次は何をしようかなぁ」
一応、今日やろうとしたことはすべて終わったのだがまだ昼前だ。
徳さんが戻ってこないと次のステップには進めない。
徳さんが戻って来るまでどうやって時間をつぶすか頭を悩ませている俺の視界にとあるものが映り込む。
【探索者専門店HARU】
古びた三階建ての建物の一階にそれはあった。
ショーウィンドウには探索者用の武器や防具などが飾られている。
「探索者専門店かぁ……こっちの世界ならではの店だな。今後世話になるかもしれないし、暇つぶしがてら入ってみるか」
店の中に入ってみると武器や防具などの装備品と消耗品類で区分されており古びた外見とは異なりかなり整理整頓が行き届いている。
また、装備品などもぱっと見た感じ質の高さを感じた。
「この店は当たりかも知れないなぁ。でも、探索者専門店にしてはポーションの類が見当たらないなぁ」
自分の持っているポーションがマグナとこの世界で遜色ないという情報は銀さんから入手済みだ。なので、あわよくばポーションが売れないないか市場調査をしたかったのだが……。
「ここは亡くなった両親から託された大事な店なんです! 絶対に手放しません!」
店の奥から年若い少女の怒声が聞こえる。尋常ではないそれに反応して店の奥を覗くとそこにはエプロンを付けた黒髪の少女とお揃いの黒いスウェット姿の二人の男がカウンター越しに対峙していた。
「そんなに粋がってもねぇ~じゃあ、返せるの? 借金」
「そ、それは……」
「あの~お取込み中すみません。これ試着してみてもいいですか?」
きな臭くなり始めたので客を装いカウンターに近づく。
「ちっ、空気読めっての」
男達は邪魔者である俺に睨みを利かすが蚊ほども怖くないのでニッコリと笑みで返す。
「まぁ、いい。期日まであと十日だ。それまでに耳そろえて返さないとこっちも出るとこ出るからな? 帰るぞ順平」
「うっす、アニキ。おにいさん、この店、粗悪品ばっかりだから他行った方がいいぜ?」
「ご忠告どーも」
男達がでていくのを確認すると少女はへなへなと地面に座り込む。
「大丈夫だったか?」
「こ、こわかったです……あ、ご試着でしたよね?」
「いや、違うんだ。少し変な空気になりそうだったから」
「そ、そうですか……」
少女の表情は見るからに落ち込んでいく。
確か借金がどうのこうのって言ってたよな――少しは貢献して上げたいけど生憎お手持ちもそんなにないし……。俺に何かできるかは分からないが一度話を聞いてみるか。
「何かあったか話をしてもらえないだろうか? 一人で抱え込むよりはずっといいと思うんだ」
俺も自分の境遇を徳さんに聞いてもらってかなり楽になったからな。
でも、こんな見ず知らずの男に自分の内情を話せるものでもないかぁと思っていると少女はその自己主張は苦手そうな小さな口をゆっくりと開く。
「二年前……両親が亡くなりました」
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