第4話 ダンジョン適正期
「ダンジョンに入るために必要なものがあれば教えて欲しいです」
都市伝説級の噂でもいい。
管理人に会える可能性がわずかでもあるというなら、俺はそれを目指す。
「遠松殿、まさかダンジョンに潜るつもりなのか?」
「はい、そのつもりです」
「失礼だが、歳は?」
「二十八になります」
「お~遠松氏~オイラとタメじゃ~~ん」
険しい表情を浮かべている銀さんの隣ではしゃぐロッカーさんがしきりにハイタッチを求めてくる。
同じ年齢だったのが嬉しかったのだろう。
苦笑いを浮かべながらロッカーさんとハイタッチを交わしていると銀さんが再び口を開く。
「探索者になれるのは十五歳以上で探索者のほとんどが十五歳、もしくは十代で協会の門を叩く」
「小学校高学年から探索者養成コースがあるくらいだしね~~」
マグナも冒険者になれるのは十五歳以上からだった。
マグナでは十五歳に行われる“授かりの儀”により、ロールというものを授かる。
ロールというのは、簡単に言えば職業だ。
例えば剣士というロールを授かる事になれば、剣士に関連するスキルツリーが派生しレベルを上げる事によりスキルを獲得する事ができる。
マグナではロールを得る事により一人前とみなされ成人扱いされる。しかし、俺の感覚ではこの世界での十五歳となればまだ高校生に入りたての子供だ。
「随分と早いんですね。十五歳なんてまだ高校に入りたての子供でしょうに」
「理由があるんだ。どんなカラクリかは分からないがダンジョンである一定の時間を過ごしたものにはステータス、職業、そして職業に連なるスキルツリーという概念が付与される。そして、ステータスは、HP/MP/攻撃力/防御力/敏捷性/器用さ/精神力/運の八項目で構成されており、レベルの上昇、職業補正、装備などでステータスは変動する」
やっぱり授かりの儀で得るロールと同じだ。
ステータスの項目も全く一緒だ。
恐らく職業やスキルも似たり寄ったりなのだろう。
「そして、十代から探索者を目指す理由は、職業が付与されるのが十代までだからだ」
「えっ? 十代までですか?」
「そうだ。職業が付与される期間をダンジョン適性期と呼んでいる」
「じゃあ、そのダンジョン適性期を過ぎてしまったら、スキルも獲得できないんですか?」
スキルの恩恵は絶大だ。
例えば、戦士系スキルの最下位である身体強化Ⅰでさえ、攻撃力/防御力の数値を倍にしてくれる。ダンジョンの深層を目指すには、強力な魔獣と渡り合うため強力なスキルが必要になる。スキルなしでダンジョンに潜るなんて自殺行為にしかならない。
「説明が悪かった。ダンジョン適性期を過ぎた者達は一律冒険者という職業が付与される」
「冒険者ですか……」
「そうだ。冒険者のスキルツリーは現存する職業の中で最低ランクに部類され、ダンジョンに潜るための必要最低限のスキルしか獲得できないのと、ステータスの上昇率が他の職業に比べて貧弱だ。そのため、冒険者の殆どの活動範囲は上層に限られる」
一旦話を切る銀さんはごくりと酒を喉に流す。
「私は元々探索者だった。武術家という格闘に特化した職業でこれでもシルバーランクの探索者だった」
「えっと、シルバーランクとは?」
「あぁ、すまない。ランクの説明をしていなかったな」
世界中のダンジョン協会に所属する探索者にはその貢献度によりランクが付与されるという。
駆け出しのアイアンランクから始まり、ブロンズ⇒シルバー⇒ゴールド⇒プラチナと五段階に分類される。
探索者全体でみた割合としては、アイアンランクが50%、ブロンズランクが40%、シルバーランクが10%だ。
ゴールドランクは、世界で百人程度、プラチナランクは数えるほどしかいないためパーセンテージで表すのは難しいという。
ちなみに日本には三人のプラチナランクがおり、その三人は各々が探索者で構成されているギルドという集団のトップであるギルドマスターだという。
そして、数あるギルドの中で不動の上位に君臨するその三つのギルドはビッグスリーと称されているらしい。
「銀さん、凄いですね。上位10%に入るシルバーランクだなんて」
「凄くなんてない。中層で満足していればよかった。調子にのって下層なんぞに行って仲間とこの右足を失った愚か者だ、私はッ」
ギリっと歯を食いしばる銀さんの顔は後悔が滲み出ていた。
そんな銀さんを何て声を掛ければいいか分からず、重い空気が流れる。
「まぁ、まぁ、そんな顔しないで~さぁ、銀さん」
ロッカーさんが銀さんの肩に腕を回し空になった銀さんの器に酒を注ぎ、銀さんの器に自分の器をぶつけると一気に中身を飲み干す。
「ふぅ、すまなかった変な空気にさせてしまって」
陽気なロッカーさんのお陰で銀さんの表情が穏やかな物に変わる。
「いえ、それほど辛い経験をされたのですから」
「遠松殿には私と同じ思いをして欲しくないのだよ」
「ご心配ありがとうございます。でも――」
「社会のゴミ共がッ! ここはてめぇらの家じゃねぇんだよ!」
なんだ?
背後から浴びせられる怒声に反応する。
三人組の青年がこちらに近づいてきていた。
「あ~あ~めんどいのがきたよ~オイラは~一時避難ということで~」
ロッカーさんがうんざりした顔で残った酒とつまみを持って足早に退散していく。
三人の中で一際身体の大きい青年が銀さんに近づき見下ろす。その目は明らかに俺達を蔑んでいる。
「ババァ、元シルバーランクの探索者が落ちぶれてもこれはねぇだろう?」
青年は銀さんに対して吐き捨てるようにいう。
対して銀さんはやれやれと言った表情を浮かべている。
「知り合いですか? 銀さん」
「彼は、向井勇。探索者だ。彼が駆け出しの時に何度か面倒を見てやったことがある」
「何が面倒を見てやっただよ! 偉そうによッ!」
向井は、俺達が囲っているちゃぶ台を蹴り上げると、ちゃぶ台は粉々に砕ける。もちろん、ちゃぶ台の上の酒やつまみも宙を舞う。
「おい! お前、なにやってんだッ!」
「や、やめるんだ、遠松殿」
「なんで止めるんですか! こんな事されて!」
「彼らは、下っ端ではあるがここらで幅を利かせているアンダードックという質の悪いギルドのメンバーなんだ。下手に手を出したら――」
「そのギルドのやつらに報復される」
銀さんは、コクリと頷く。
「アンダードックにビビッて、てめぇより一回りも二回りも違うガキに馬鹿にされても何も言い返せねぇのかよッ! だせぇゴミ共だぜ! なぁ? お前ら! ぎゃははははは」
後ろにいる二人の青年も向井と一緒になってゲラゲラと高笑いをしている。
腸が煮えくり返りそうだが、グッと堪えて銀さんに従う。
一頻り俺達を罵ったのち、満足したのか向井達は公園から立ち去った。
「あのガキ共ッ!」
「我慢してくれ遠松殿。この公園に住んでいるのは私達だけではないし、奴らに逆らう力を我々は持ち合わせてもいない。住処を無くすわけにはいかないのだ」
銀さんは、そう懇願するように言う。
確かに銀さんの言うとおりだ。
あんな奴らに負ける気はしないが、それはあくまで俺だから言える事だ。
他の先輩方には脅威でしかないだろう。
それでも――。
「ムカつきますよ」
そう言い放つ俺に銀さんは苦笑いを浮かべるだけで何も言わなかった。
「めんどい奴らもいなくなったし~飲みなおそうよ~とその前にお掃除お掃除~」
いつの間にか戻ってきたロッカーさんはテキパキと向井にめちゃくちゃにされた食べ物や飲み物を綺麗に片付ける。
そして、どこから持ってきたのか新しいちゃぶ台を設置し、その上にまだ飲める酒や食べられる物を並べていく。
「よし。じゃあ~改めてかんぱーい」
俺達の宴会は日付が変わる時間まで続いた。
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