第3話 目指すべきは
「ワシは徳永じゃ。ここら辺では徳さんで通っておる。お前さん、名前は?」
「遠松です」
「そうかそうか。遠松のあんちゃん、腹、減ったろう。早速何か食べてくると良い」
「そうします。あの、ありがとうございました。徳さんのお陰でメシにありつけます。あと、態度悪くてすみませんでした」
結果はどうあれ、俺は徳さんのお陰で犯罪に手を染めずにすんだ。
そんな俺を見て徳さんはニカっと金歯を光らせていいから、いいからと俺の背中を押しその場を後にした。
「あんなに羽振りのよさそうな人がなんで浮浪者なんかに……まぁ、そんなのどうでもいいか。それよりもメシだ、メシ」
公園を出て食料を調達するため近くのコンビニに入る。
本当は焼肉とかラーメンとか食べたいけど、さすがに今の汚れた恰好で飲食店に入るのも店側に申し訳ないと思い、今日のところはセルフレジのあるコンビニで買い物をする事にした。
こっちのコンビニに売っているものは元の世界とほとんど一緒だったため、買い物に手間を取る事はなかった。
おにぎりや菓子パン、カレーやカツ丼などの弁当類やカップ麺、それに加えてビールやパックの日本酒などのアルコール類やつまみなどでコンビニのかごは一瞬で一杯になった。
そして、食べ物以外にも替えの下着と靴下、歯ブラシセット、髭剃りなども加えた。
セルフレジに立つ俺を見てコンビニの店員が目を光らせていた。
ある種の気まずさを感じた俺は早々に会計を終え逃げるようにコンビニを後にした。
公園に戻りながら食べ物と飲み物以外は、収納魔道具から取り出した革製のカバンに入れておく。
別に収納魔道具にすべて入れておいてもいいのだが、いくらスキルがある世界だとしても収納魔道具が一般的なものなのかは不明なので、毎回取り出す時に周りの目を気にしないといけないという事が面倒くさい。
次に袋にある弁当を見た俺は、自分が犯した失態に気づく。
「しまった、弁当、冷たい……」
五年ぶりのコンビニだったため弁当を温めるという事を失念していた。
弁当を温めるためにコンビニに戻ろうかとも考えたのだが、先ほどの店員さんの視線が気まずいのと早く食べたい想いが勝り公園のベンチに駆け込む。
ベンチに座った俺は、ビニール袋を探り弁当を取り出す。
わなわなと震える俺の手には五年ぶりの日本の飯が!
俺がいた日本とは違う世界ではあるのだが、なぜか弁当の味は違いないと確信していた。
一口、また一口と箸を走らせる。
うめぇうめぇと涙ぐみながら、弁当三つをあっという間に平らげ、のどを潤すためにプシュッとビールを開けごくごくと一気に一本を飲み干す。
「くぅううううううう! うっめえええええ!」
五臓六府に染み渡るとはまさにこの事だろう。
一度ゲップを吐き出し、もう一本のビールを開ける。
今度は一気にいかず一口一口味わうように喉に流し込む。
ふぅ~と一息ついて沈む夕日を眺める。
正直、ショッキングな事は沢山あるが、お腹を満たしたら沈んでいた気持ちも幾分かマシになってきた。
今すぐに元の世界に戻れないのは堪らないが、ダンジョンから持ち出された魔獣の魔核や身体の部位はマグナで見た事のあるものだった。この世界とあの管理者との関係はゼロじゃないはずだ。
「ダンジョンの事、調べてみるか」
そうと決まれば。
俺は、余った酒と食べ物を持って公園の先住者の先輩方が集まっている場所へと向かう。
四人の先輩方がちゃぶ台を囲んでいる。そこには徳さんの姿もあった。
「おう、遠松のあんちゃん。腹は膨れたか?」
「はい、徳さんのお陰で生き返りました」
「がははは、ワシも儲けさせてもらったのじゃ、うぃんうぃんじゃて」
「ははは。俺もご一緒してもいいですか?」
両手に持ったコンビニ袋を持ち上げてそう言うと先輩方は大喜びで俺の座る場所を開けてくれた。
ちゃぶ台の上に袋から取り出した酒や食べ物を拡げる。
自己紹介をしながら先輩方の器にパックの日本酒を注ぐ。
そして、お返しとばかり徳さんは以外の三人の先輩が各々自己紹介をしてくれる。
――俺と同じくらいの年頃で金髪のロン毛のロッカーさん。
――俺よりも一回り上で右足の膝から下がない銀さん。
――そして、いつお迎えが来てもおかしくない様子の長老。
「あの、俺、少し訳アリで……」
「ここにいる奴はみ~~~んな訳アリっしょ」
「ロッカーのいうとおりじゃよ。それで、何が聞きたいんじゃ?」
徳さんは、何か察したようで俺にそう投げかける。
「あの、ダンジョンってなんですか?」
「「はぁ?」」
ロッカーさんと銀さんの声がきれいにハモる。
何か言い訳を考えないと、そうだ!
「お、俺、実は記憶喪失でして……遠松という名前以外何も思い出せなくて……」
「なんじゃあ、そういう事か。ダンジョンの事ならほれ銀さん、あんたの専門じゃろう。教えてやんな」
徳さんが紅一点の銀さんに振る。
「うむ。遠松殿にはご馳走してもらっているからな。なんでも聞いてくれ、私が答えられる範囲であれば何でも話そう」
「ありがとうございます。では、ダンジョンについて銀さんが分かる事をお願いします」
銀さんは、まず、ダンジョンの歴史をレクチャーしてくれた。
・ダンジョンは、今から三十数年前に突如として世界各地に現れた。日本にある四つのダンジョンを含めて五十のダンジョンが世界中に確認されており、すべてのダンジョンを国が管理している。
・ダンジョンでは魔獣が棲みついておりこの世界の素材で作られた武器類では魔獣に太刀打ちできない。しかし、ダンジョン産の武器、もしくは素材で作られた武器であれば魔獣と渡り合う事ができる。
・魔獣の素材や魔核、ダンジョン産の鉱物などはこの世界のあらゆる産業で活用され今ではなくてはならないものとなっている。
・ダンジョンは上層、中層、下層、深層と四つの階層で構成されており、深層に近づけば近づくほど魔獣は強力になる、その代わりに受ける恩恵は大きい。
「それにこんな噂もある」
「噂ですか?」
「うむ。まぁ、都市伝説程度と思ってくれればいいが。どこかのダンジョンの最深層にダンジョンの神であるマグナ神の石像が――」
マグナ神という言葉に反応した俺はガバっと立ち上がる。
「急にとうしたんじゃ? 遠松のあんちゃん」
「今、マグナって……」
「記憶が戻ったのか?」
「いや、マグナって単語に聞き覚えがあって……」
俺の知っているマグナでいいんだよな? いや、絶対そうだ。
これで違うと言うにはマグナとここはあまりにも繋がりが深い。
「マグナ神は、世界にダンジョンを誕生させた存在だ。今では世界でキリスト教の次に信者の多いマグナ教が祭る神でもある」
「どうして、そのマグナ神が世界にダンジョンを誕生させたってわかるんですか?」
「ダンジョンが現れる直前に神託があったからだ。今でも覚えている。【これから世界に変革をもたらす】とまるで脳に直接語り掛けるような声を聞いたのだ。この世界にいる全ての人間が」
「そうですか……すみません、話を切ってしまって。それで先ほどの噂というのは?」
「うむ。マグナ神の石像に辿り着いた者はマグナ神から何でも願いを叶えてもらえるそうだ。まぁ、あくまでも噂だがな」
俺がこの世界で何を目指すべきか決まった瞬間だった。
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