第2話 金策
【日本ダンジョン協会管轄 新宿ダンジョン】
俺がいた日本では決してあり得ない物がそこにあった。
何かのイベントかと思い新宿ダンジョンと言われる場所に近づいてみると、そこには鉄製や革製の鎧に身を包み剣や槍のような武器を持っているマグナでもよく見た冒険者の様な恰好をした人達が多数いた。
コスプレの可能性も疑ったのだが、受付窓口の後部に設置されているテーブルに日本ではまず見た事のない生き物の部位や魔獣の心臓とも言われる魔核など、マグナで良く目にしていた物たちが積まれていた。
おそらく、あの場所はイベント会場ではなく本物のダンジョンなのだろうと理解すると同時にここが俺のいた日本ではないという事を改めて痛感させられた。
「くそ、なんだよダンジョンって……」
そして極めつけはこれ――
目の前に展開しているステータスボード。
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氏 名:遠松 宗助
年 齢:28
職 業:未開放(管理者代行)
レベル:未開放(387)
力 :未開放(1154)
体 力:未開放(925)
魔 力:未開放(1252)
敏 捷:未開放(858)
器 用:未開放(825)
知 力:未開放(980)
スキル
未開放(武の神髄【Lv.-】、魔の神髄【Lv.-】)
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全て未開放となっているが、カッコの中の内容はマグナにいた時のステータスと一致する。ていうか、そもそもこんなものが俺の知っている日本に実在するはずがない。
ぐぅぅ~~~~。
訳の分からない状況に苛立ちギリっと歯を食いしばりながらしばらくステータスボードを睨んでいる俺に腹の虫がメシを要求してくる。
「そういえば、こっちにきて何も食べてなかったな……はは、こんな状況でも腹は減るんだな」
金が使えないため俺は公園にある水道で空腹を誤魔化していたのだが、そろそろ限界が近い。
ここが森の中であれば狩りでもして食料調達をするのだが、生憎俺がいるのはコンクリートジャングル――人間を狩る訳にもいかないのだ。
いや、この際無銭飲食でもして拘置所送りにされた方がメシにありつけるのではないのか? いや、ダメだ、ダメだ。何を考えているんだ俺は。犯罪者になるくらいなら……飢え死にした方がマシだ。
「はぁ~どうするかな……」
俺は右手親指にハマっている金属製の指輪を撫でる。
この指輪は、マグナで手に入れた収納魔道具だ。
この中には俺がマグナで使用していた武器、防具、ポーションの類や向こうのお金が入っている。生憎食べ物は入っていない。腐るからだ。
俺は、指輪から一枚の金貨を取り出す。
マグナで最も力のある軍事国家アミュッサ帝国の金貨で純金の含有量が高く、マグナで最も価値のある金貨だ。
この指輪にはこれと同じものが数百枚は入っている。
「これが売れればなぁ……」
「お、おい! そこのあんちゃん!」
指で金貨を弾いていると急に声を掛けられビクッとする。
声の主はところどころ穴の開いた粗末な衣類に身を包んだお世辞にも清潔は言えない老人だった。
どうやらこの公園に棲みついている浮浪者のようだ。
まぁ、俺も似たようなものだけど。
そんな事を考えていると老人が俺との距離を詰める。
「な、何か用ですか?」
「そ、それ、どうしたんじゃ」
老人が鼻息を荒くして指さす先には先ほど指輪から出した金貨があった。
「あなたには関係のないものです」
金貨をポケットにしまい背を向けようとする俺の腕に老人がしがみつく。
「待ってくれぃ!」
「ちょ、ちょっと! 離してください!」
「離さん!」
「はぁ? 離さんって、自分が何を言ってるのか分かっているんですか!?」
「そんな事はどうでもいい! お前さん、その金貨、売りたいんじゃないのか?」
「……違います」
「でも、何らか事情があって売る事が出来ない。どうじゃ、正解じゃろうて」
「違いますって!」
「嘘を吐くな。昨日から見ていたが、お前さん、ここの水道水で飢えを凌いでいただろう」
「…………」
見られていたのか……。
内心舌打ちをする。
「勘違いしないでくれ。お前さんに何かしようってわけじゃない。新顔はついつい観察してしまうんじゃよ。ワシら、時間だけは腐るほどあるからな。警戒と暇つぶしに丁度いいんじゃよ」
ふと周辺を見渡すといくつもの視線が俺に向いているのが分かる。
この老人の仲間だろうか。
正直、襲われても返り討ちにできる自信はあるため害にはならないのだが……あんまり関わりたくない。
「そうですか。俺はここから消えますので気にしないで下さい」
「ま、待ってくれって! その金貨、ワシが買い取ってやるぞ」
老人の口から放たれた予想外の提案にその場から離れようとした俺の足が止まる。
「……あなたが?」
「そうじゃ。まぁ、手数料はもらうがのぉ。相場の30%でどうじゃ?」
「失礼ですが、お金はあるんですか?」
「ほれ」
懐から札束を取り出してニカっと笑う老人の前歯は金色に光っていた。
「あなたにお金があるのは分かりましたが、この金貨が偽物だったらどうするんですか?」
「問題ナッシングじゃ。わし、鑑定スキル持ちだからのぉ。ほれ、見てみるからちょっと貸してみぃ」
鑑定スキルだって?
この世界にもマグナと同じくスキルの概念があるのか。
興味が湧いたのでポケットから金貨を取り出し老人に手渡す。
持ち逃げされてもすぐに取り返す自信があるから問題ない。
老人は金貨をマジマジと観察する。
「ふむふむ、アミュッサ帝国? 耳に馴染まない名じゃのぉ」
老人の口からアミュッサ帝国の名が出た事により信憑性が増したので俺は何も言わず男の鑑定結果を待つ。
「純金の含有量は76%……18K相当だのぉ。重さは15.5グラムか18Kの相場はグラム6,700円だから103,850円。手数料30%を引いて72,695円でどうじゃ?」
コンビニや自販機で売られているものを見ればこの世界の物価と俺のいた世界の物価はさほど変わらない。七万もあれば当分は何とかなるだろう。
30%の手数料は高いが、今の俺ではこの金貨を捌く術を持っていない。それに金貨はあと数百枚ある。一枚くらい手放しても問題ないだろう。
何よりも、早く何か腹に入れたい。
「分かりました。その金額でお譲りします」
「毎度あり、じゃ! がははは」
老人から五円は、ご縁がありますようにサービスじゃと72,700円を手渡される。
お金の造りは一緒なのだが、描かれている人物が違っていた。
一瞬、偽札なのではと思ってしまうのだが、今はこの老人を信じよう。
最後までお読みいただきありがとうございます。
金の相場につきましては、別の世界ですので実際の相場とは異なります。




