第1話 知らない世界
リハビリ用で投稿いたします。
のんびり、書いていこうと思いますのでよろしくお願いいたします。
「何のために俺は……」
公園の片隅で縮こまっている俺の口からは、ここ数日で何度口にしたのかも分からない言葉が弱々しく発せられる。
ゆっくりと顔を上げる。
刺すような日差しのせいなのか、それともずっと目を瞑っていたせいなのかピントが合わずぼやけている視界。それを無理に合わせようとはしない。
目を擦るという単純な作業さえも億劫なのだ。
徐々に目が慣れピントが合うにつれて視界から様々な情報を得る事ができる。
聳え立つビル群や多種多様な車の波、そして、行きかう人々の姿。
どれもあの世界になかった物だ。
目の前に映る景色はずっと渇望していたそれと何も変わりはない、はずなのだが……。
「違う……違うんだ……」と目の前の現実が俺の望んでいたものとは違う事を自分に言い聞かせる。
さて、俺の身の上ばなしをしよう。
通勤時の事故で命を落としかけた俺は、マグナという異世界へ送られた。
五年前の真夏日だった。
俺を異世界に送ったのは、マグナの管理者と名乗る存在だった。
邪悪な魂により滅びの道を辿っているマグナ。
滅びを回避するためには、世界に散らばる五つの聖杯の欠片を集め邪悪な魂を封印する必要があり、俺にその役割を担ってほしいとの事だった。
聖杯の欠片を全て集める事ができた暁には俺を蘇生させ元の世界へ帰らせてくれるーーその条件で俺は聖杯の欠片集めの任を承諾した。
ちなみに俺が日本に戻るまでは、昏睡状態で延命させてくれるという約束だ。
正直半信半疑だったが、断れば直ぐに命を失い事になる俺にとって管理者を信じる以外の選択肢を持ち合わせていなかった。
そんな訳で五年もの間、一日でも早く元の世界本に帰るべく必死になって聖杯の欠片を探した。
剣と魔法の世界であるマグナ。
小さい頃から、ゲームや漫画が大好きだった俺だけに自分がおかれた状況が何であれ心が躍らないと言ったら嘘になる。
それに、何と言っても俺は異世界マグナの管理者の使徒的な立ち位置だ。
しがないサラリーマンとは訳が違う。
物語の主人公的な立ち位置と言っても過言ではないのだ。
だから、主人公最強無双が出来ると期待で胸が膨らんでいたんだ。
だが、そんな俺の期待とは裏腹に蓋を開けてみるとそんなモノは夢物語でしかないという事を痛感させられた。
後から気づいた事なのだが、確かに俺はマグナ人よりも優れた能力を得る事が出来る。
所謂異世界人特有の成長補正というやつだ。
それなら最強無双できたのでは?
答えは否だ。タダで成長できる訳ではなく経験値を稼いでレベルアップする必要があるんだ。
そう、RPGのレベル上げの様に。
そんな基本的な要項は異世界に飛ばされる前に教えて欲しかった……。
平和な日本でのうのうと生きてきたレベル1の雑魚は、聖杯の欠片があるとされる樹海に送られた。
初期装備は、半袖のワイシャツにスラッグス。武器? そんなものあるわけもない。
紙装甲に素手というゲームの初期装備よりも劣る状態で魔獣が蔓延る樹海のど真ん中に落とされ、最初の聖杯の欠片を手に入れるまでの一年近くをそこで過ごした。
後から現地人に聞いた話だが、俺が降り立った樹海は高ランクの魔物が蔓延る魔境だった。
そんな魔境のど真ん中という事もあり、レベル1の雑魚では到底太刀打ちできない高ランクの魔獣どもがわんさかいた。
そして、俺はそれらに襲われ何度も命を落とした。
死にかけたのではない言葉通り俺は何度も死んだのだ。
なんでも管理者権限により命を落としてもやり直し、つまり生き返る事ができるのだが、それでも魔獣に襲われ殺されるのは恐怖そのものだ。
五メートルはある熊の魔獣の爪で引掻かれたことで神経をやられ生きたままハラワタを喰われた事もあれば、トラックくらいある猪の魔獣に頭から齧りつかれむしゃむしゃ喰われた事もある。
頭蓋骨がまるで軟骨でも食べているかの様に噛み砕かれる音……思い出しただけでもゾッとする。
二度と体験したくない経験だ。
それでも、そんな絶望と隣り合わせの環境で俺は必死に生き抜いた。
元の世界へ戻るという事だけを胸に必死に生き抜いたのだ。
そして、最初の聖杯の欠片を手にした時、樹海で俺の脅威となる存在はいなくなっていた。
樹海を出てからも残りの聖杯の欠片を見つけるまで本当に色々な事があった。
時には奴隷に扮して鉱山に潜り、時には戦争に強制参加させられ、時には暗殺ギルドに命を狙われながらもダンジョンを制覇したり、時には怪しい宗教団体に潜入するなど……五年間、聖杯の欠片を集めるため奮闘した。
そして、すべての聖杯の欠片を管理者に献上してミッションコンプリート。
めでたく俺は元の世界に戻してもらうはずだったのだが……。
「……ちくしょう……どこなんだよぉここ……」
目の前に映るすべてが俺の知っている日本と変わらない。
言葉も通じるし四十七都道府県の地名だって同じだ。
でも、ここは俺が知っている日本とは明確に違う。
その答えに辿りつくまで様々な事があった。
まず、マグナに送られる前に管理者に預けていたスマホが使えなかった。
家族に連絡を取ろうとしたがずっと圏外だった。
東京のど真ん中にいると言うのにだ。
だが、この時は、スマホは精密機械だし事故の時に故障でもしたのだろうとそこまで深く考えなかった。
次にお金が使えなかった。
渇いた喉を潤すためにコンビニに入ったのだが、何故か俺の持っていた千円札が使えなかった。
しまいには偽札を疑われお巡りさんを呼ばれそうになったので必死に逃げた。
そして、極めつけは――
家がなかった。
新卒入社からずっとお世話になっていたワンルームマンションがあるはずの場所には見た事もない古びた整形外科が存在していたのだ。
道を行きかう人を捕まえてはマンションの事を聞いてみたが、俺が求める答えを持っている人はひとりとしていなかった。
しまいには不審者扱いされお巡りさんを呼ばれそうになったので必死に逃げた。
実家にも行ってみた。
親戚の家や友人の家、会社にさえも……だが、俺の知っている人達はどこにもいなかった。
それでもどうにか連絡をとろうと思い、故障したと思われるスマホを見てもらおうとOUショップに入ったのだが、契約確認のために提示した運転免許証を偽物だと言われお巡りさんを呼ばれそうになったので必死に逃げた。
にっちもさっちもいかず途方に暮れていた俺は薄々感じていた。
でも、認めたくなかった。
"ここが俺のいた日本ではない"という事実から目を逸らしたかったのだ。
しかし、俺の視線の先にある物によって俺は認めなくてはならなくなった。
【日本ダンジョン協会管轄 新宿ダンジョン】
この世界にはダンジョンが存在していた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
当分は毎日投稿いたします。




