やまのいたつる
伏見神社の一角、直と健はある部屋で大の字になって横になっていた。お清めと称して、心寧が作った特製のお粥を三杯も食わされ、お腹がキツくて動けなくなっていた。子狸たちも彼らに連動するように満腹状態で動けない。
「この感覚がいいのよなあ……」
「うへへ、しあわせー」
恍惚な表情を浮かべる子狸とは対照的に、二人は少し苦しそうだった。
「また喰らうとは思わなかった……」
「……」
スヤスヤと眠りにつく二匹とは裏腹に、虚な目で天井を見上げる直と健。ふと直のスマホが鳴動する。速報ニュースの通知だった。
『六科島、噴火により消滅確認』
直は、その見出しから目を離すことができなかった。横にいる健も見ることができない。
「島、噴火で完全になくなっちゃったってさ」
健の狸耳がピクッと反応する。しかし表情に変化は一切なかった。
「これで良かったのか?」
「……」
健はゴロンと横を向く。直から目を背ける。しばらく黙っていたが、やがてゆっくりと静かに言った。
「これで良かったんです。きっと」
健はゆっくりと目を閉じる。少し肩を震えさせながらギュッと目をつぶって、身体を少し丸くしていた。
「そうか」
「……何も言わないんですか?」
直は口を噤んで、健と背中合わせになるように反対側に倒れた。子狸の寝息が静かに室内を響かせる。
「……お前が邪魔だった」
健は狸耳をピクピクとさせたまま、振り向かない。
「お前に全部吸い取られてるような感じがした。俺の存在が意味ないように感じた。俺は……」
直は突然口を止める。少し考えながら続けた。
「いやなんでもない」
「……悪者になりきれないって、こういうことを言うんですね」
「うるさいな」
健はクスッと笑う。背中合わせなので互いの顔は見えていないものの、互いにその表情がわかるようだった。
「あと、ガチガチな敬語。固っ苦しいからやめろ」
「それは……」
健が顔をこわばらせながら答える。
「直さんは……」
「『さん』をつけない!」
直の恐ろしい剣幕に、健はタジタジになる。そしてゆっくりと、言葉を選びながら話し始める。
「直は、誤解してるよ。みんな最近の直が変だって。直のこと心配してるよ」
「……」
思わず直は立ち上がると健の方を見下ろす。それに追従するが如く、健も立ち上がる。
「直は気づいてねって、自分のこと。みんな直のこと見とってんだよ」
「……」
訛り混じりの健の言葉が、なぜか直に突き刺さる。
「生地くん、伏見さん、三沢さん、駒井くん、里太郎くん。みんな直の話をするだ。スケちゃんもフミちゃんも心配しただ」
「お前になんか俺の気持ちは」
その瞬間、健が直に飛びついた。突然のことに直は自身の体を支えることで精一杯だった。
「僕は直が味方だと思ってるし、僕も直の味方でありたい」
健は耳と尻尾を窄めながら、涙混じりに必死に叫んだ。
「僕も味方を失いたくない……」
「ごめん……」
直は健を優しく抱き寄せた。




