勝負しろ
「……」
赤狸は軽く肩を落とす。目をなかなか合わせてくれない。
「ちゃんと言わなきゃわからんぞ、《《健》》」
「……なんでわかったんですか?」
「なんとなく……な」
健は観念したのか、子狸姿から装束姿に変身をゆっくりと解除する。フミはその様子に呆然としていた。
「いつの間にそんな能力を……」
「まあ、いろいろとあって」
「本物のフミはどこ行った?」
「フミちゃんは、多分もうすぐ……」
コンコンと窓が叩かれる音がする。健は窓を開けると、彼はすいーっと部屋の中に入ってきた。その姿は、装束姿の健と瓜二つであった。
「ただいまー。いやあ今日も大変だった」
「何が大変だったんだ? 《《フミ》》」
「あっ……」
フミは顔をひきつらせたまま、スケと見合わせていたのだった。
「どういうことか説明しないか」
*
「なんだよ、呼び出しといて……」
直は眠気を隠せぬまま、スケによって健の部屋へ連れてこられた。そこには健とフミが正座して待機していた。
「……」
「いいから座るのだよ、直」
「……嫌だ。帰る」
直は不機嫌そうな顔をして踵を返す。直が部屋を出ようとしたとき、顔に思い切り衝撃を受ける。
「痛っ!」
思わず顔を抑え、その場でうずくまる直。ドアの四隅を見ると、札が貼られているのに気づく。その札に触れようとすると、静電気のような感覚を覚える。
「これって、まさか!」
よくよく見ると、伏見神社の結界用の札であった。軽く舌打ちをする直。健とフミは彼のそんな様子を見て、何とか笑いをこらえていたが、直にきつく睨まれて小さくなっていた。
「健、ここで勝負しろ」
「なんで?」
きょとんとする健に、直はさらに苛立ちを隠せなくなっていた。
「お前がムカつくから」
「理由が理不尽すぎるよ」
「……」
直は小さな声で何かを呟くと、スケを思い切りひったくって装束姿に変身した。
「今日は金曜日だし、夜遅くなっても問題ないな」
「どういうこと?」
健は頭上にハテナを浮かばせる。
「決闘だ。勝負しろ、健」
「暴力反対。平和的に話し合いを――」
直の一睨みが健の言葉を妨げる。健は何かを言いたげな感じだったが、何かを悟ったのか返事をした。
「……わかったよ。直がそれで納得いくなら」
健もフミを抱えると、同じように装束姿に変身した。両社とも少し険しい顔つきになっていた。
「じゃ、どこでする?」
「手っ取り早く、その辺でいいだろ」
直は外を指さすと窓から飛び降りた。健も後に続いて飛び降りる。二人は結界を施すと、相対するように身構えた。
「それじゃ、始めるか」
「後悔しないでよ」




