第52話 全力
この話は宇佐戯と清華の視点で進むため場面転換が多いです
ライブ当日、俺は関係者であることを示すカードを首に下げ、あさみたちの控室に入っていた。
「う~!ドッキドキするね!」
「私はドッキドキというよりもバックバクだけどね!」
なんというかあさみはずいぶんと余裕そうだ。
とてもこの後ドームでライブをする人には見えない。
「あさみには緊張とかないのか?」
「う~ん、別に緊張してないわけじゃないよ?けどそれ以上にワクワクしてるの!」
「これは流石としか言いようがないな」
この状況下でワクワクが勝つとか素直にすごいと思う。
と、そんなことを話しているとずっと控室のソファーで仮眠していた清華が起き上がった。
「ん~……あら?来てたのね宇佐戯」
「……ん?」
「まぁあさみと清華の初ライブだしね、緊張しすぎてないか見に来たけどその様子なら大丈夫そうだな」
「んん?」
「当然のように楓のことを抜いたわね……、まぁ宇佐戯だしそう言うとは思っていたけれど」
「んんんん???」
……なんかずっと風見がうなってるんだけどどうしたんだ?
体調不良なら今からでもライブ不参加の告知を出しに行ってやるけど?
「……な、なんで清華さんこいつのこと呼び捨てにしてるんですか!?こいつも前は委員長って言ってたのに名前呼びになってるし!」
「あれ?ほんとだ!いつの間に仲良くなってたの?」
「あ~……?」
「……そういえば……?」
気づいてなかったけど確かに委員長じゃなくて清華に呼び方変わってるな?
もしかして俺って無意識に相手との親しさによって呼び方変えてる?
いや、まぁ別にそんな気にすることでもないか。
「まぁ呼び方なんてどうでもいいだろ」
「そうね、名前呼びに変わった程度ならさほど気にする必要もないわ」
「いや気になりますけど!?あ!さてはこいつがなんかかわいくなったせいですね!」
「あ~!」
「いや納得すんなよあさみ……」
「さすがに見た目が可愛くなっただけで呼び方を変えたりはしないわよ……」
そんなこんなであさみと風見の追及が始まり、それはライブ開始15分前であることをおっさんが伝えに来るまで続くのだった。
* * *
もうすぐライブが始まるため控室を出た俺は、そのまま特別観覧ルームへと入る
「戻ってきたか宇佐戯、そっちの様子はどうだった?」
「控室には特に何もしかけられてなかったよ、こっちの部屋は?」
「特に問題なし、少なくとも部屋に突然毒ガスが噴射されるとかはないはずだ」
「そうか……」
中には思愛と恵夢、彩夏がおり、この部屋に何か仕掛けがないかを調べてもらっていた。
「そうなるとやっぱり仕掛けてくるのはライブ中になるんですかね……」
「セーヌドーム以外に具体的な場所の指定がなく、控室や特別観覧ルームに特に仕掛けもない、まぁそのことから考えるに十中八九来るのはライブ中だろうな」
「ということはライブに来ている観客も巻き込まれるんですよね……」
「……まぁ、それはあさみたちが守ってくれることを期待するしかないな」
恵夢は無関係なライブの観客まで巻き込んでしまうことを気にしているらしい。
ただ今の状況では事前に避難させることなどできないし、あさみたちに頼るしかないのだ。
俺としてもこの状況は歯がゆいが我慢するしかない。
そんなことを考えるとライブ会場の電気が消え暗くなる。
おそらくライブがもう始まるのだろう
「……いつ襲撃が始まってもいいように心の準備だけはしておけよ」
「あぁ」
「もちろんです」
「ばぶ」
* * *
ライブ会場の舞台裏、私は深呼吸をして気分を落ち着けていく。
「あれ?深呼吸?ビオラちゃんもやっぱり緊張してるんだね」
「まぁ、さすがにね、そういうヒメツバキは……余裕そうね」
「ふふん!すごいでしょ!」
ヒメツバキが自信満々にそう言う。
私ではこんな過剰とまで言えるほどの自信を持つことはできないだろう。
「う~、私は緊張で手が震えて止まりません!」
「……手どころか全身震えてるわよ」
「あれ!?ほんとだ!」
ここで冗談を言うことができるあたり、実のところアネモネも案外余裕なんだと思う。
……やっぱり私は……
「あ!もう始まるみたいだよ!」
「おぉ、リハーサルでも乗ったけどやっぱりこの上に上がる足場はテンション上がるね!」
「……そうね」
登場するための足場に乗り、そう返事をする。
足場が動き出す、この足場が上がり切ればもうライブが始まる。
このことを考えるのはそのあとでもいいはずだ。
そうして、足場が止まる。
「来てくれたみんな~!私たちのライブに来てくれてありがと~!」
ヒメツバキの声がマイクを通り、会場中に響き渡る。
数万人に見られているにもかかわらず、その声には一切よどみがない。
「今日はこれまでずっと魔法少女を応援してくれたみんなに恩返しをするために歌を届けに来たの!だからみんな楽しんでいってね!」
やっぱりヒメツバキは……あさみはすごいな。
とてもまねできない。
「それじゃあまずは一曲目から!行っくよ~!!!」
* * *
あさみたちの歌声が会場中に響く。
その歌声はとても澄んでいて心地よいものだった。
「……あれ、なんか思ってた2000倍ぐらいうまいんだけど」
「ほんとに初ライブだよなこれ?」
「さすがにトップアイドルレベルではないですけどそれと比較しても決して劣るところだけじゃないぐらいにはうまいですね?」
「ばぶ」
正直ドームでライブとかあさみたちじゃ無理だろと思ってたのに……
もちろん拙いところもよく見ればあるけど魔法による演出を盛り込んだダンスの派手さで気にならない。
……あれ?なんで俺今ライブ見てるんだっけ?
「……あ、やべ、警戒しないと」
「……おぉ、そういえばそうだったな、普通にライブに見入ってたわ」
「なんというか純粋に楽しめない今の状況が恨めしいです……」
「ばぶぅ」
あさみたちのライブを楽しむのはいいが警戒を忘れてはいけない。
俺たちは定期的にライブに意識を持っていかれながら警戒をすることになった。
* * *
十数曲と歌い続け、ライブもそろそろ佳境に入った。
私はうまくついていけてるだろうか。
「よ~し、それじゃァ次も張りき......?」
「ん?どうしたのヒメツバキ?」
「……なんか天井開いてない?」
「……あ、本当だ、こんな演出リハーサルじゃなかったよね?」
ヒメツバキとアネモネの言葉を聞いて私も上を見上げる。
すると確かに少しずつ天井が開いていた。
「運営のミスかしら?」
「う~ん?スタッフさ~ん!どうなってるんですか~!」
そうヒメツバキが大声でスタッフに呼びかけるが、何の返答も帰ってこなかった。
……!?
「う~ん?ちょっと様子を……」
「待ってヒメツバキ!周りをよく見て!さっきまでいたはずのスタッフが誰一人としていないわ!」
「え!?」
「どういうこと!?」
アネモネからどういうことかを聞かれたが、それを私に聞かれても困る。
私だってこの状況に困惑しているのだから。
私たちの困惑が来場客にも伝わったのか、会場が徐々にざわめきだす。
「みんな~!落ち着いて~!」
そうあさみが伝えるが会場のざわめきがやむことは無かった。
そうこうしているとついに天井が開ききる。
思わず上を見ると、そこには巨大ななにかが浮かんでいた。
「え……?」
「なんですか……あれ……?」
「……飛行船?」
そうだ、あれは飛行船だ。
巨大な飛行船がセーヌドームの上で浮かんでいる。
私たちは思わず唖然とした表情でその飛行船を見つめた。
するとその飛行船から黒い粒のようなものが溢れ出す。
「え?何か降って……!?」
「ちょ!?まさかあの黒い集合体って全部!?」
「魔物!?」
そう、降ってきているのは魔物だ。
あの黒い粒1つ1つがすべて魔物、おそらく数にすると数千体はいるだろう。
「みんな!早くここから逃げて!」
そうあさみが叫ぶが、なぜかすべての出入り口がふさがれているようで誰一人としてこのライブ会場から出ることはできなかった。
「っ!だったら!みんな!魔物はこの会場の中心に集めるからできるだけ外側に固まって!」
「ちょっ!?ヒメツバキ!?魔物を中心にまとめるってどうやるつもり!?」
「風魔法で空に内側向かう強風を作る!」
「はぁ!?本気!?」
「いくらなんでも無茶よヒメツバキ!」
それをするには魔物を吹き飛ばすほどの強風をこの会場を覆えるサイズで生み出す必要がある!
どう考えても絶対にマナが足りない!
そもそも仮に集められたとしてもそのあとどうやって魔物を倒すの!?
「そんなのできるわけ!」
「ビオラちゃん、私なら大丈夫だから!」
「っ!」
「ビオラちゃんだって私のマナの量を知ってるでしょ?それにマナゼリーだってまだまだ残ってる!さすがに魔物を全部倒すほどの魔法は無理だけど、集めるぐらいならきっとできるよ!」
同じだ……
あの時と同じ顔だ……
あさみは今命を懸けようとしている。
あさみだってわかっているはずだ。
仮に魔物を集めたところで倒せるわけではないことぐらい。
今からするのが所詮ただの時間稼ぎにすぎないことぐらい。
なのに時間稼ぎの結果救援が間に合う可能性に賭けてそれに命を使おうとしている。
「あぁもう!風は私の専売特許!私も手伝うから!」
「ありがとう!」
「……」
楓まであさみに殉じようとしている。
なのに私は……!
その時ふと昨日宇佐戯の言葉を思い出した。
『あさみが命を燃やし尽くそうとするならさ、清華、お前があさみの命を燃やす炎を消してやれ』
宇佐戯はそういったけれど、私にそんなことできるの……?
「準備はいいアネモネ?」
「はい!」
「……って……」
「?どうしたのビオラちゃ……!?」
「私だって!」
私は持っているマナゼリーを全て勢いよく飲んでいく。
「び、ビオラちゃん……?」
「い、いきなりどうしたの!?」
あさみたちの呼びかけに応えることなく私はマナゼリーを飲み続け、最後のマナゼリーを今飲み干した。
「あなた達が命をかけるって言うなら私だってもう我慢しない!」
「うぇえ?」
「だいたいなんでそんなに容易く命をかけるのよ!友達が命をかけるところなんて見たいわけないでしょ!」
「え、あ、ごめん?」
あぁ、もう!
色々考えるのはもうやめるわ!
思いついたことを全力で!
「やってやる!」
私の全身をマナが駆け巡る。
そして私の足元からとんでもない勢いで水が溢れ出した。
「え!?なに!?何が起きてるの!?」
「あわわわわわ」
その水はどんどんとこのライブ会場を満たしていった。
「ぶくぶくぶ……あれ、息できる?」
「な、なんなんですかこの魔法!?」
やがてその水はあの数千体の魔物も巻き込んでいき、すべてが水に沈んでいった。
「これは海深くを淡く照らす光、ゆえにその名を!」
『深く幽き黎明』
その言葉とともにいつの間にか私の指につけられていた指輪が光だした。
すると突然水中全域に無数の氷でできた数多の武器が現れ、魔物へと飛来していく。
「おぉ!!!」
「えぇ……、なにこれ……?」
武器が命中すると魔物が消滅していき、最後の魔物に武器が刺さって消滅すると共に、会場を満たしていた水が消える。
もうここには飛行船も魔物の大群も存在しない。
「ふふ、わたしでも……案外やればできるものね……」
そう言うと同時に私は床に倒れ込んだ。
「「ビオラちゃん(さん)!?」」
ヒメツバキとアネモネが倒れた私に駆け寄ってくる。
「だっ、大丈夫!?」
「ごめんなさい、少しはしゃぎ過ぎたわ、思わず力が抜けちゃった」
私の顔を覗き込んで心配の言葉を掛けてくるヒメツバキにそう返事を返す。
「立ち上がりたいからちょっと手を貸してくれる?」
「う、うん、無理はしないでね?」
「もちろんよ」
あさみに手を引かれ、その勢いで私は立ち上がる。
周囲を見渡すと魔物の襲来がなかったかのように綺麗なままだった。
「ねぇヒメツバキ」
「え、どうかしたのビオラちゃん?」
私の突然の問いかけにヒメツバキが言葉を一瞬詰まれらつつ答える。
「魔物の襲撃があった以上もうこれ以上のライブは無理よね?」
「うっ、そうだね」
「……だけどせっかく会場は無傷なんだから一曲ぐらいなら歌ってもいいと思わない?」
「……!うん!私もそう思う!」
どうやらヒメツバキは私の提案に乗り気みたいだ。
「アネモネはどうかしら?」
「そんなの!やるにきまってるじゃないですか!」
「ふふっ、なら早速始めましょうか!」
歌うために私たちが再び舞台に立つ。
するとなぜかもうスタッフは居ないはずなのに最後に歌う予定だった曲が流れ始めた。
いつの間にか消えてしまっていた飛行船やなぜそこから魔物が降ってきたのかなど気になることは山ほどあるけれど、今はそんなことは忘れて全力で歌おう。
「「「聴いてください、『トライシンフォニー』!!!」」」
今回の使用魔法紹介
魔法名
水氷操作?
攻撃力B
スピードB
使いやすさA
射程距離A
汎用性A
魔力消費 基本的には1立方メートルで3
概要
水と氷に見える謎物質を操るビオラの固有魔法
ビオラの覚悟にヒメツバキの固有魔法『ニチアサ』が共鳴したことにより進化を始めた
不可能魔法に片足を入れており、たまにマナの消費が0になる
もともとは生成した後は操作することも変形させることもできなかったのだが進化により可能になった。
今回の必殺技紹介
必殺技名
深く幽き黎明
攻撃力B
スピードE
使いやすさE
射程距離A
汎用性E
概要
ビオラの使う浄化技
ビオラの覚悟にヒメツバキの固有魔法『ニチアサ』が共鳴したことにより習得した
ビオラのいる部屋全域を水に見える謎物質で満たし、その後氷に見える謎物質でできた無数の武器を敵に放つ
放たれた武器に命中するとその対象は浄化される
ちなみに剣や槍など様々な武器を生み出しているが若干ハンマーの割合が大きい
小話
ビオラの指にいつの間にか指輪があったり、スタッフがいないのに曲が流れたのはだいたいあさみの固有魔法『ニチアサ』のせい
主人公以外で初の必殺技が出たのでポイント乞食します。ポイントください。




