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ベルンハルト通り駐在所~駐在さん、異世界でも駐在さんになる~  作者: りょお@夜の全裸中年男性


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1-2 老警官、最後の日

会社員人生、最後の日ってどんな感じなんでしょうか?

私もあと十数年経つと、そんな状況下になるのが確定してますが、現実はともかく物語の世界はきれいに行きましょうか。

 とうとう、警察官人生の最後の日がやってきた。久しぶりに本署に顔を出さねばならんし、最後の晴れ舞台って事で、久しく着ておらん礼服を身に着ける。これを前着たのはいつだったか?もう、そんな昔の話になろうとしておるわ。姿見の前に立って、礼服に「着られて」ないか確認する。うん、体型も維持できておるから、ピシッと決まったの。


「久しぶりね、そんな凛々しい恰好するなんて」

 姿見を見ているワシの背後から、女房の恵子が声を掛けてくる。

「ああ、今日でこんな格好をするのも最後だ。よく見ておけよ」

 振り返って恵子に声を掛けると、恵子もなんかシュッとした服装だ。おや?

「最後の日でしょ、記念に写真でも撮ってもらおうかと思ってたの。だから今日は私もおめかししたのよ」

 そう言うと、恵子は部屋の外に声を掛ける。

 顔を見せたのは、元春だった。

「源さん、最後の晴れ姿、撮りに来ましたよ」

 そう言うと、ワシと恵子の手を引いて、玄関へと連行していく。


「こらこら、そんなに急かすな」

 靴を履いて外に出ると、そこには兄家族が勢ぞろいしていた。

「源次郎、長い間お疲れ様だったな。最後の記念にお前の晴れ姿に一緒に収まろうとおもってな。さ、早くしろ、子供たちも勤めと学校があるんだ。時間がもったいない」

 背中を兄の子供たちに押され、源次郎と恵子を真ん中に立たせ、兄家族が周りを囲む。元春はさっさと三脚を立てカメラをセットし、構図を決めている。

「源さーん、もっと恵子さんに寄って!」

 ったく、ハルの野郎。カメラ持つと人が変わりやがるな。源さんは心の中で苦笑いしながら、少しだけ恵子の方に歩み寄る。

「よっし、決まった。源さんの右隣はボクの場所ですから、少し開けといてくださいよー!」

 そう言うと、元春はセルフタイマーのスイッチを入れ、慌てて原さんの隣へと駆け込む。


 カシャッ!


 ワシと恵子を中心に兄家族と元春に囲まれた、一世一代の記念の写真。元春はシャッターが切れると早速裏のモニターで写り具合を確認しておる。

「バッチリでーす。じゃあ早速・・・」

 そう言うと兄家族の子供達がスマホ片手に、カメラの下に駆け寄る。暫くして一番下の子の優花がワシに駆け寄って来てスマホを見せる。

 スマホを覗き込むと、先程撮ったであろう写真が取り込まれていた。へぇ~、最近のデジカメとスマホっちゅーのは進んどるの。

 記念撮影が終わった頃、本署からPC(パトロールカー)が1台やって来た。助手席の窓が開いて、私の上司である地域課の課長が声を掛けてきた。

「源さーん、そろそろ時間だぞ。おい、元春。お前もさっさと支度しろ!」

 そう言われたので、皆に行ってくると挨拶して、後部座席に元春と乗り込む。いつもなら元春が運転して、ワシは助手席なんで、後部座席と言うのはある意味「新鮮」な感覚だ。


「うーん、やっぱり後部座席は居心地悪いなぁ」

 ワシの隣に座った元春がぼやく。仕方ないわな、普通なら後部座席に座るのは「被疑者」だからの。

「そんなに居心地が悪いと言うな。別に悪い事しとるわけでもあるまい?」

「ですけどねぇ、ここで課長が振り返ってあれこれ喋りだすと、まるで切符切られた方の感覚になりますわ」

「そうかぁ?俺はてっきり昔の「オイタ」でも思い出したのかと」

 元春のボヤキを聞いて、助手席の課長が後ろを振り返って声を掛ける。

「安心してくださいよぉ。そんな風にお世話になったことないですから」

 そんなボヤキを聞きながら、ワシらを乗せた車は本署へと進んでいく。


 本署に着いて、暇を持て余した同僚たちの出迎えを受け、署長室へと案内される。

 ここの署長は、ワシが二十数年前に本部の強行班に居たころのキャリア組。ひと月近く現場で振り回してもへばることなく付いてきたタフな若造だったがの。今じゃ立派な署長様だわ。

「地域課与野警部補、本日、退任のあいさつにやってまいりました」

 そう言って、気持ちのいい敬礼を行う。署長もワシに負けじと答礼する。

「地域課、与野源次郎警部補殿。本日をもって定年とし、その職を解く」

 そこまで言うと、強張っていた顔面が崩れ、

「源さん、長い間地域の為に頑張っていただき、ありがとう。二十数年前、キャリアの私を現場で使えるように教育してくださった事は、何物にも代えられない財産になりました。本当にありがとうございました。そして、長年の警察官人生、お疲れさまでした」

 そして、くたびれたワシの右手を両手で握り握手する。


 署長室を後にして、最後のお別れを言うべく署内をあいさつ回り。

 あちこちで花束やら記念品なんぞを手渡される。あまりにも持ちきれなくなったので、元春にも持たせる。気が付けば、「これ、どうやって持って帰ろう?」ぐらいの量だった。ひとまず1台のPCに積んで、自宅に走ってもらうことにする。

 玄関先にたどり着くと、ココでも大勢の人間に出くわす。本署だけでなく、ワシが今まで関わってきた他の署や本部からも人間が来ている。

「さすが源さん、あっちこっちからお別れの挨拶に来てますね」

「ワシも警察官人生長かったが、定年のお見送りにここまで来るのは、見た事ないぞ」

 正直、定年間際になってあちこちから挨拶メールが届いてはおったが、ここまで集まるとは想像しとらなんだ。懐かしい顔を見つければ久しぶりだなぁ。と声を掛け合い、ワシの警察官人生最後の日を祝ってくれる。

 たくさんのギャラリーとのやり取りも終え、PC(パトロールカー)に乗り込む。あとは駐在所に戻るだけじゃ。

「源さーん、長い間、お疲れ様でしたー!」

 みんなの声を背にして、ワシは駐在所へと戻っていった。


 駐在所に着くと、今度は街のみんなが手ぐすね引いて待ち構えていた。

「長い間、お疲れ様」

「源さん、もうパトロールしなくていいからね」

 みんな点でバラバラに声を掛けてくる。元春に促され、駐在所の玄関に立たされる。

「本日、警察官人生にピリオドを打つことになりました。明日からはここにいる(と言って元春の背中を叩く)田代巡査がこの駐在所でみんなの「御用聞き」になります。精いっぱいコキ使ってやってください」

「源さーん、御用聞きは無いですよぉ」

 町のみんなから花束貰って、ああ、この仕事をやってて良かった。そんな余韻に浸りながら、駐在所から家までをトボトボと歩く。横には、明日からここで駐在さんをやる元春が一緒に歩いている。


「源さん、長い間お疲れさまでしたね」

「ああ、長かったなぁ。最後は自分の生まれ故郷でのんびり務めさせてもらった。有難い警察官人生だったな」

「1年一緒に仕事していて、改めて警察官って何なのか、勉強になりました」

「おいおい、こんな田舎じゃなかなか勉強になら・・・」

「んな事ないっす。むしろ源さんの様な経験豊富な警察官の話を、毎日聞けるんです。それだけでも十分な勉強になりました」

「そう言われると、むず痒いな・・・。」

「俺、警察官になって良かったです。いつか、源さんの様な警察官に・・・」

「俺みたいなのはやめとけ。お前はお前だろ?まだまだ人生長いんだ。生き方はゆっくり作ればいい。彼女は早く作れよw」

「源さん~。せっかく良い空気なのに、自分からぶち壊しますかぁ?」

「はははは、駐在さんやるなら、絶対に嫁は要るぞ。ワシも嫁さんにだいぶ助けてもらったでな。一人じゃ駐在さんは回らん。夫婦揃って、町を守る気概でないと、仕事にならんぞ」


「よし、ここまでだな。元春、明日からのこの町を頼むぞ」

「はいっ!田代元春巡査、明日からはこの町の治安を守る事に全力を尽くします」

「・・・・いい、敬礼だ」


「おーい、帰ったぞー」

 新居の玄関を開けて、ただいまの挨拶をすると、恵子が台所から出てきて出迎えてくれる。

「お帰りなさい、貴方。そして、長い間お疲れさまでした」

 恵子の表情は、やっと肩の荷が下りましたね。と言うような安どの表情だ。

「ああ、長い事、心配かけさせたな。悪かったな」

 靴を脱ごうと、あがりに腰掛け、靴を脱ぐ。

「ううん、貴方と一緒になるって決めた時から覚悟はしてましたし。それくらいはどうって事はないわ」

「そう言って貰えると、少し気分が楽にな・・・・・・・」

 その瞬間、ワシは何とも言えない感覚に陥った。言葉が出ない・・・・。胸が焼けるような痛みが走る。

「・・・貴方?あなた、どうしたの?」

 恵子が苦しむワシを見て狼狽える。

「・・・・・・・・」

 必死に次の言葉を発したいのだが、焼け付く胸の痛みがそれを拒む。

「あ、貴方ぁ~!」


 与野源次郎、警察官人生最後の日が、人生最後の日と重なってしまった。



はい、警察官人生最後の日が、人生最後の日になっちゃいました。

先立たれた奥さんはどうなる。それよりも「源さん」は普通に天国に行けるのか?

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