1-3 老警官、世界の狭間で青年と語る
前話でぽっくり逝ってしまった「源さん」
不思議な空間に迷い込みます。
ゆっくりと目を開く。
周りは白く光る空間だった。
「ここは、どこだ?」
源次郎はゆっくりと起き上がり、周囲を見渡す。
白く輝く空間は、何処までも続いているようだった。
「さっき、家に帰って、女房に出迎えて貰ってたはずだが?」
「いらっしゃい、源次郎さん」
ふと後ろから声が掛けられる。振り向くと、そこには古代ギリシャの様な衣装を身にまとう、黒髪で眼鏡をかけた青年が立っていた。
「だ、誰だ。お前は?!」
ふむ、いわゆるコスプレ?って奴か。それにしても何だか感覚がおかしいな。
「まずは貴方の現状をお教えしないといけませんね。貴方は定年退職したその日に、心筋梗塞で亡くなりました」
その青年はこともなげにそう言い放つ。ワシはその言葉を聞いてしばし呆然とする。
「え?心筋梗塞・・・・」
信じられないという表情のワシを無視するように、青年は言葉を続ける。
「長い警察官人生、少しずつ身体に負担が掛かっていたのでしょうね。定年退職で緊張の糸が途切れた。その安ど感が、貴方の心臓を止めてしまったのです」
その言葉を聞いて、思わず恵子の顔を思い出す。
「そ、そんな・・・・ワシは、まだやることが一杯有ったのに。恵子を・・・・、恵子とようやくゆっくり過ごせると思っておったのに・・・」
恵子との定年後の人生。それだけが生きがいだったのに・・・・。
そんなワシの落胆を見た青年は、憐れみを含んだ声で、
「地球の神と言う方は、そうやらそこまで慈悲深くはなかったようですな」
「なぜだ、なぜ、ワシがこんな目に・・・・」
「源次郎さん、地球の神は貴方を天国へと導こうとされていますが、私はちょっと違うのです」
「何が違うというんだ?」
「私は、地球とは違う世界の神です」
「地球とは違う世界・・・・」
ワシの呟きに青年は、さらに言葉を続ける。
「地球と違うのは、私の司る世界は、剣と魔法の世界だと言う事」
「剣と魔法?」
剣はともかく魔法ねぇ、想像がつかん。
「はい、人間と獣、そして魔族が住む異世界」
「・・・・・」
「人間は、獣と魔族との戦いを繰り広げています。魔族が力を持ちすぎると魔王が世界に降臨します」
「魔王・・・・」
魔族に魔王、いよいよもって訳がわからん。
「人間の世界には勇者が現れ、魔王との決戦に挑みます。今現在は、魔王は勇者に倒され、人間の世界は魔族からは守られています。が」
「が?」
「実は、魔王が居なくなり勇者も居なくなると、人間同士のいざこざが増えるようになりました。そんな世界に私が出来ることはそんなにないのです。せいぜい・・・」
「せいぜい?」
「新しい魂を送り込むことぐらいです」
そこまで言われて少し理解出来た。世界の治安の悪さを何とかしたいと言う事か。ならワシに求められてるのは。
「なあ、神様・・・で良いのか?ワシは前は警官だった。地域の治安を守るのが仕事だった。生まれ変わって同じ仕事をやれ。と?」
ワシの答えに青年はにこやかに頷く。
「本当ならば、私自身で何とかしたいのですが、神と言う立場はなかなか面倒なのです。その面倒を押し付ける様になってしまいますが・・・」
申し訳無さそうに言う青年の言葉を遮る様に、
「ふむ、大体は分かった。もう前の世界に戻るのも無理だろうし、その話、受けよう」
「ほ、本当ですか?!」
「話を受ける以上、何かしらの便宜は図って貰うが」
「ええ、次に生まれ変わる身体は、冒険者の身体ですので格闘戦にも十分対応出来るでしょう。ただ、その身体。魔力が少ないのです。魔法を授けることは叶わないのですが・・・」
ああ魔法が使えないのか。それはどうでも良いか。今まで培って来た逮捕術さえ使えるのならそれで十分だ。
「魔法なんて、今更習おうにもなぁ。昔のワシの動きが出来れば、そのあとは何とかして見せよう」
「申し訳ない、それ以外での便宜は図る事が出来ると思いますので、それでご容赦を」
青年は、あまり力になれない事を嘆くが、まずは彼が助けて欲しい世界がどんなものか分からん事には、ワシも何を望んで良いのか分からん。
「向こうに行った後、アンタとはやりとり出来るのかな?」
「ならば、教会で祈りを捧げて下さい。源次郎さんの願いはなるべく叶う様には致しますので」
「それくらいで良いだろう。さあ、生き返らせてくれるんなら、早くしてくれんか?新しい世界に新しい身体って奴に早く慣れておきたいんでな」
そう言うと青年は恭しく礼をすると、ワシに向かって手をかざす。
「世界に一分の望みとならん事を」
青年の姿がゆっくりと見えなくなる。ワシの意識の塊は光り輝き、そして暗闇へと変わった。
源さん、剣と魔法の世界で「お巡りさん」をもう一度やると決めました。でも、どうやって仕事をして行くんでしょうか?




