第95話 エリスラーナの葛藤とプレゼント
【ファルスーノルン過去:新星歴4817年10月23日】
茜消失事件から早1か月半――
既に回復し、ギルガンギルは通常に戻っていたのだが…
エリスラーナは自室で一人。
枕を抱きしめ、うっすらと瞳に涙を浮かべ思考を巡らせていた。
※※※※※
茜が消えそうになり、皆が激しく落ち込んでいた。
特にノアーナ様は真核がボロボロになるまで心配していた。
わたしたちも勿論心配したけど。
――あそこまで心配される茜が羨ましかった。
最近自分の考えが嫌になる。
わたしだって茜のことは大好きだ。
でも…………
まだノアーナ様に抱かれていないわたしは、皆と違う気がして――
(…寂しい……わたしだけ…)
もちろんノアーナ様はすごくわたしを大事にしてくれる。
沢山抱きしめてくれる。
心が蕩けるような優しい言葉もいっぱいくれる。
子供みたいなキスだけど…
愛情をたくさんくれる。
恥ずかしいけど。
――体の中が疼くのを感じてしまうほどだ。
「はあ……いやなわたし……不敬」
ベッドの横に置いてあるラスタルムからもらった杖を見る。
ゴテゴテした変な杖だ。
アースノートに解析してもらったら、龍化を長くするものではなかった。
龍族の魔力伝導率を効率化してくれる神器らしい。
それで結果的に効果が出るそうだ。
………そしてこれは。
昔ノアーナ様が作ったものだ。
――結局わたしたちはノアーナ様の手のひらの上。
どうしてだろう。
いつからわたしはこんなに嫌な子になったんだろう?
思わず枕を抱きかかえ、涙がにじむのを我慢した。
あれから茜は回復した。
本当に嬉しかった。
もういつもと変わらないギルガンギルになった。
皆前を向いて動いている。
もちろんわたしだって。
「はああああああああああああ………」
皆といるときは大丈夫だけど。
一人になると分からない不安がどんどん出てきて…
自分がみじめに思えてきて、なんだか………
(怖い…)
「――ノアーナ様に会いたい」
『俺の可愛いエリス』
思い出すだけでドキドキするんだ。
『とても可愛いよ』
嬉しくて涙が出そうになる。
『愛してる』
そして――優しいキスをくれる。
わたしの小さい唇を優しく食むように、ゆっくりと、何度も。
きっと今のわたしは顔が真っ赤だ。
「どうしよう。好き。もう本当に好き♡」
ノアーナ様が全員を愛するようになって。
ノアーナ様は結構甘えん坊なところがある。
でもわたしはいつも甘えるだけ。
8歳児の体では、物理的に不可能だ。
「……わたしに甘える。…ノアーナ様……見たい」
決心する時が来たのかもしれない。
でも……
やっぱり怖い。
ネル。
一番愛される人。
彼女の決意は本当に尊敬できるくらい美しかった。
そして反則なくらい可愛くて奇麗だ。
茜。
本当に真直ぐノアーナ様を愛している。
今の茜は自信もあって凄く奇麗だ。
多分一番上手に甘えることができる。
アースノート。
アイツはおかしくなるくらい本当にノアーナ様が大好きだ。
多分そのことでは悩まない。
一番心酔してる。
ちょっとおかしいけど――あいつは愛されることを確信している。
モンスレアナ。
なんだか余裕があってずるい。
でもわたしは知っている。
必死だってこと。
そしてすごく可愛いんだ。
アルテミリス。
多分一番ノアーナ様のことを分かっている。
……美人でずるい。
でもとてもやさしい。
最近のアルテミリスは本当のお母さんみたいだ。
そしてノアーナ様の前だと可憐な少女になる。
ダラスリニア。
あれはずるいと思う。
可愛すぎる。
あれは凶器だ。
………わかってる。
悔しいんだ。
でも………
ダラスリニアは本当に大好きなんだ。
「はあああああああああああああああああああ…」
怖いのは………
(…おとなのわたし…ノアーナ様が気に入らなかったら………)
「ぐすっ……ひっく……うああ………」
怖い。
怖い。
「あああ……ひっく…ん………」
怖い
………わたしは今の私が嫌いだ。
でも…
諦めるのはもっとイヤだ。
※※※※※
わたしは覚悟を決め、ノアーナ様に念話を飛ばす。
「ノアーナ様……うん。わたし……お部屋……うん……行く」
わたしは自分の運命を確かめる。
いまから…………
そして。
大好きな自分を取り戻す。
※※※※※
空間が軋み、魔力があふれ出す。
「エリス、待ってい………………えっ?!!」
目の前に美の女神が佇んでいた。
「ノアーナ様。待たせましたね。これが私の決意です」
輝く美しい金と銀の混ざった腰まで届く長い髪。
深い慈愛の籠った濃い青色の瞳が俺を見つめる。
長く美しい手足。
胸が程よく大きく、着物のような衣服を押し上げる。
細く締まった腰に、女性らしさを強調する様な曲線美。
(…美しい)
俺は見蕩れてしまった。
エリスラーナはゆっくりと近づき俺の手を取る。
「ノアーナ様、優しくして頂けますか?」
彼女の顔が赤く色づき、微かに震えている。
出会った時の事を思い出す。
きっと――
ものすごく勇気を出してくれたんだ。
俺はエリスラーナの覚悟に感動していた。
「エリス、とても美しい。見蕩れてしまった。可愛いよ」
俺は彼女を抱きしめた。
エリスラーナの全身に、かつてない電気のような感覚が駆け抜ける。
「あ、あう…んふ……ノアーナ様」
しっかりとした美しすぎる大人の体。
俺はその柔らかさと、何とも言えない心をくすぐるような香りに包まれ――
夢中になっていった。
「エリス、ああ、とてもきれいだ」
美しい唇にキスをおとした。
※※※※※
「んん…あ…んん……んう♡……」
エリスラーナは今までのキスと全く違う感じに、体の力が抜けてしまった。
私を見つめるノアーナ様の瞳。
今まで見たことのない色が濃く浮かんでいた。
彼の手が、私の全身を優しく包み込む。
そのたびに。
まるで心が溶かされるような――
快感が愛しさと一緒に高まっていく。
ノアーナ様は力の抜けた私を抱くと、ベッドへ優しく下してくれた。
愛しいノアーナ様の顔がすごく近くにある。
「ああ、ノアーナ様♡」
高ぶる気持ちを押さえられず、しがみつくように抱きついた。
「エリス、愛してる」
もっと大人のキス。
繰り返される、ささやくような愛の言葉。
私の頭は――真っ白になっていった。
嬉しくて愛おしくて。
溢れる涙を止められなかった。
そして。
心の奥の嫌なものを全て――
愛おしさが溶かしてくれる。
深い幸福の海におぼれていったんだ。
※※※※※
ギルガンギルの塔の会議室。
珍しくエリスラーナとノアーナ以外が全員集まっていた。
忙しい彼らが一堂に会するのは最近では珍しい事だった。
「茜、もう体は大丈夫ですか?」
アルテミリスはいつでも茜に甘い。
「うん、大丈夫。いつもありがとう、アルテミリ…アルテママ」
とても良い笑顔のアルテミリス。
「あれー、ノアーナ様とエーちゃんだけいないー。珍しいねー」
そして――激震が訪れる。
ダラスリニア :「っ!?」
茜 :「なっ!?」
モンスレアナ :「うそっ!?」
アースノート :「まあ♡……」
ネル :「………まさか?!……」
アルテミリス :「っ!!????」
アースノート以外の女性たち全員が、膝から崩れ落ちたのだ。
「っ!?みんな?ど、どうしたのー?!!!」
パニックになるアグアニード。
「………犯罪………」
「こ、ノアーナ様……さすがに……ちょっと」
ダラスリニアと茜が青い顔でつぶやく。
「あらあらあらあら……軽蔑しますわね……」
怒り心頭のモンスレアナ。
「禁断の行為!!!はあはあはあはあはあ♡」
何故か激しく興奮するアースノート。
「…………ロリ?」
パニックになり過ぎて普段言わないアウト発言をするネル。
「!?……………」
そのまま気絶する、自称『皆のオカン』アルテミリス
皆の反応にさらにオロオロするアグアニード。
オーブ事件以来の混乱が会議室を襲っていた(笑)
※※※※※
深くさらなる絆をつないだ二人は。
お互いを見つめていた。
「エリス、ありがとう。勇気をだしてくれて。最高だった。愛してる」
「ノアーナ様。元気出ましたか?………私からのプレゼントです」
感極まったノアーナは、エリスラーナを強く抱きしめた。
エリスラーナは。
大好きな自分を取り戻していた。
※※※※※
そのあと会議室に戻った俺は。
この世の地獄の責め苦を味わった。
まあ。
大人の姿をエリスラーナが『1刻以上経過』してから披露し、何とか落ち着いたが。
「ほんとは二人だけの秘密。しょうがない。不敬」
8歳の姿で可愛く笑うエリスラーナは、とてもご機嫌だった。




