第93話 勇者喪失の危機
結果付与はできなかった。
どうしても漆黒が琥珀を弾いてしまうからだ。
俺は一人クリスタルの間で目を閉じ思考を巡らす。
突然クリスタルが揺らぎ始め、瞬いた。
「光喜さん、大丈夫?」
「なあっ!?」
俺は飛び上がるほど驚いた。
ここは禁忌地なんて目じゃない。
――保護術式を展開した俺以外は入れないはずだ。
「あ、茜?どうして……っ!?体は大丈夫か?!」
俺は慌てて茜を抱きしめて魔力で包み込む。
すでに。
――茜の存在が削られていた。
「あれ?……力が………あ……」
「くっ、転移!!!」
俺は茜が来たときに確かにクリスタルが揺らいだのを見たんだ……
※※※※※
「……ん………あれ?……私………」
「茜っ!!??大丈夫か!!?」
私が目を覚ますと、光喜さんが苦しいくらいに抱きしめてくれた。
今まで何度も抱きしめられているはずなのに。
――なぜだか涙があふれてきた。
「グスッ…ごめ…んな……さい……」
「よかった……茜……良かった……」
光喜さん?
泣いて………
「怖かった。お前が消えるんじゃないかって………こんなに怖かったのは初めてだ」
そして今度は優しく抱きしめられて、優しいキスをしてくれたんだ。
ずっと、ずっと…………
※※※※※
それから5日くらい――
わたしは光喜さんに抱きしめ続けられた。
優しいまなざし、暖かい光喜さんの胸。
からかうような軽口に、深い思いやる言葉…
消えてしまった私を――埋めてくれる優しいキスと彼の想い。
ドキドキして、切なくて甘い。
そして優しく抱き締められ――心の底から安心して
私は長く――眠り続けたんだ。
(迷惑――かけちゃった…ね…)
――でも。
こんなこと言ったら怒られそうだけど………
嬉しかった。
※※※※※
茜がクリスタルルームで倒れて6日。
やっと存在が安定、俺の魔力で守らなくても問題ない状態に回復してくれた。
あの時。
茜の存在自体が急激にクリスタルに吸収され始めたんだ。
消えるように――
いや、存在そのものを、まるでなかったかのように。
存在が急激に消滅していた。
目に焼き付いた光景。
心の底からの恐怖に俺は体を震わせてしまう。
(……皆に…報告しなくてはな)
6日ぶりに俺は会議室へ転移した。
※※※※※
「すまないみんな。茜はもう大丈夫だ。――消えることはない」
茜が倒れて存在が消耗したことは全員が共有していた。
取り敢えず落ち着いたことを、俺は伝えたんだ。
皆が安堵の涙を流す。
特にアルテミリス。
俺の言葉に膝から崩れ落ち、もう枯れるんじゃないかというくらいに流した涙を、さらに零し始めた。
他の皆も目が真っ赤だ。
「ノアーナ様。…ノアーナ様もお休みください。真核がボロボロです」
モンスレアナが赤く泣きはらした瞳で、俺にやさしく告げる。
ネルがそっと俺の腕をとってくれる。
「ああ、そうさせてもらおう。アート、自分を責めないでくれ。これは俺のミスだ。茜に言うのを忘れていたのは俺の責任だ」
コアのあるクリスタルルームは基本俺しか入れない。
神々は弾かれてしまう。
しかし茜は………転生したときから俺と同じ色を持っていた。
つまり、来ることが出来てしまった。
「……ぐすっ………あーしが……コアのことを……茜に…ごめんなさい………」
俺はネルに付き添われてアースノートのもとへ行く。
彼女を優しく抱きしめた。
親愛と慈愛の想いをのせて。
――華奢な体が震えていた。
「アート、本当だ。お前に責任は一切ないんだ。少し休め」
「………ぐすっ……」
こくりと小さく頷き、自室へと転移して行く彼女。
「アルテ、お前もだ……茜は俺の部屋で寝ている。見てからでもいいから休め」
「…はい………わかりました」
「ダニー、エリス、お前たちもだ。休め」
泣きながら俯いている二人を優しく抱きしめてから転移させた。
「アグ、すまん。お前が頼りだ。皆を守ってくれ」
「わかったー。でもノアーナ様もちゃんと休んでよー」
「ああ、ありがとう。ネル、頼めるか?」
「……グスッ……はい……」
俺はネルに連れられて、グースワースへ飛んだ。
茜が回復し、ギルガンギルの塔が通常に戻るまで。
なんと1か月を必要としていた。
皮肉な話だが――茜がどれだけ愛されているのか。
そして。
俺にとって茜が――どれだけ大切な存在なのか。
思い知らされたんだ。
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