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第89話 200年前の真実

【ファルスーノルン現代:新星歴5023年4月30日】



――虚実解除直後・グースワース――



俺達にかけられていた虚実と記憶障害が解除された。


俺たちは身を犠牲にし命をなくしてまで俺たちを守ってくれた、28名のグースワースの仲間たちに黙祷をささげた。


ずっとあった違和感。


この巨大なグースワースに12人だけなど、あり得なかった。


12人の思い出と記憶には間違いはない。

かつての俺がいじっていたからだ。


だけど。


ナハムザートの配下12名。

カンジーロウの配下5名。

ミュールスの配下2名。

ムクの配下8名。


そしてロロンとコロンの母親である、エンシャントホワイトドラゴンの王。

レーランも命を落としていた。


確かに俺たちと一緒に暮らしていた大切な仲間であり家族。



そしてあの日。


俺の色を持つミュールスの配下2名が俺の身代わりとなり――

あいつが『食っているとき』に逃げたんだ。


俺たちの仲間は、あいつらに殺されていた。



※※※※※



【ファルスーノルン過去:新星歴4823年4月28日】



2年ほど前からファルススーノルン星では奇妙な病気が流行っていた。

体の先が硬くなり、いずれ漆黒の鉱石へと変化する病気だ。


間違いなく原因は『もう一人の俺』だ。


世界を覆う漆黒が吸収できなくなり、漆黒の魔力を保有する人間がいないことに気づいた奴は、養殖を始めやがった。


ある意味聖域はその効果を最大に発揮。

神たちが襲われることはなかったんだ。


漆黒を保有しているネルを始めグースワースの女性たちは、今『聖域の虚実』で作った俺と一緒に聖域に避難させている。


作戦を成功させ、200年後に決着をつけるために。



※※※※※



面倒なことが嫌いな奴は一番反応の多い俺たちのアナデゴーラ大陸に侵攻してきた。


怠惰な奴は


『暇つぶしの遊戯だ』


そうほざきやがった。



そして先日隣のミユル町が滅んだ。

仲間たちが大勢死んだ。


ナハムザート率いるドラゴニュート隊は、ナハムザートを除き11名中3名が戦死、8名は鉱石化され、あいつに吸収された。


ムク以下8名は、5名が感染した住民に殺害され、残った2人も奴に吸収された。

カンジーロウの配下4名も町を守る戦いで死んでしまった。


ナハムザート、ムク、カンジーロウは。

エンシャントホワイトドラゴンの王、レーランが命を捨てて助けてくれていた。


最後の切り札になる『漆黒』を有さない『魔王に近しもの』


彼らがいないと最終段階に進めないのをレーランは知っていたからだ。


そして、ミュールスの配下2名は。

俺を逃がすために身代わりになって奴に食われた。


あいつは俺の目の前で、肉を引き裂きながら――

笑いながら食いやがったんだ…


『次は、お前の大事なネルを、犯してから食ってやるよギヤハハハハアアア!!遊戯の景品としちゃア、良いと思うダロうう!?んん!?」


俺は恐ろしくて。


――逃げたんだ。



※※※※※



俺は悟ってしまった、もう逃げられないんだ、と。


そして今日。

俺は決着をつけるため旧ドルグ帝国跡で、やつらを殲滅し地球へ逃げる。 




作戦を成功させてすべてを守るために。



※※※※※



先日の襲撃の余波で、緑の美しかった旧ドルグ帝国跡地は荒涼の台地へと変貌してしまっていた。

大地を駆け抜ける風が俺たちの頬を撫でる。


今ここにいるのは俺と茜、リナーリア。

そしてルミナラス、ダラスリニアの5人だけだ。


「茜、体調はどうだ?きついようなら聖域で休んでても良いぞ?」

「光喜さん、大丈夫だよ。――剣は振れる」


茜は右手に握り締めている聖剣に目を落とす。


「それに私がいないと危ないんでしょ?みんなを殺すつもり?」


そして柔らかく微笑んだ。

――深い悲しみを湛えた瞳で。


「まあメインはダニーの究極召喚だ。茜が保険だな…お前は最後の希望なんだ。頼むから死ぬなよ」


「もう、そんなに心配しないでよ。取り戻してくれるんでしょ?」


そう言い俺を見つめる茜。

ガーネットのような赤い瞳が潤む。


「信じてるから――平気だよ」


茜は。

ラーナルナの大迷宮で遭遇した際、やつに左腕を存在ごと奪われた。


真核にも及んだ概念で回復すらできない。


奴の残した傷は、権能を弾く。

唯一の希望だった全てを凌駕するリナーリアの回復で侵食に侵攻を止めるので精いっぱいだった。


「ダニー苦労を掛ける。お前が頼りだ。俺を助けてくれ」

「…まかせて…絶対に守る」


身体を震わせながら、ダラスリニアは瞳に覚悟をのせていく。


「ルミナラス、すまないな。お前には何もしてやれない」

「ノアーナ様、問題ありません。必ずダラスリニア様は殺させません」


俺の残った最後の真核では、彼女の寿命を伸ばす事しかできなかった。


「リナーリア、お前からは強すぎる力の対価として名前と記憶をもらうことになる。明日からは『ミナト・イズミ』と名乗れ」


「うん、わかった。…絶対に、勝とうね!」

「ああ」


今この世界で漆黒を保有しているのはグースワースの9人と、5柱の神だけだ。

俺と茜もすでに分離済み。


今は『琥珀に緑』しか保有していない。



茜はさすが勇者だ。

削られてなお存在値380,000は奴の次に強い。


俺の存在値は今2,500しかない。


ほとんどすべてのスキルを失い、今日の決戦で奴を退き。

そのまま再転生する計画だ。


残念ながら奴の本体は深い眠りに落ちていて感知ができない状態。

動き回るコイツだけは確実に仕留めてやる。


「っ!??…来たよ、光喜さん。アースノートさんの軍勢は?」


森と荒野の境界線に黒い靄とともに地響きが振動となり伝わってくる。

隙間が見えないほど密集してこちらへと進んでくる魔物の軍勢が俺たちの視界に入った。


漆黒の魔力に反応する紋様のある魔物。

目的はリナーリアとダラスリニアだ。


「…確認した。――あと120秒だ」

「オッケー。じゃああいさつ代わりにぶちかましますか!」


魔力を揺蕩らせ、自身の力を極限まで上げていく茜。

それを確認し俺はダラスリニアに声をかける。


「ダニー頼む『死国隆盛』で軍団を呼んでくれ。茜の援護だ」


『死国隆盛』は禁呪だ。

代償がえぐすぎる。

通常は発動と同時に命を落とす。


だがっ………

 

ダラスリニアは降魔の杖をかざし、詠唱を始めた。


『極光の輝き・降り注ぐ暗雲の涙・ズオードィルダ巨石の嘶き・深淵の導き手・叫ぶ魔妹の鏃・彷徨う英雄の躯・冥府の管理者・十界揺るがす怨嗟・あまねく贄を捧ぐ鎮魂歌……デストピアオーバードライブ…召還!!!』


刹那ダラスリニアに、暗鬱な魔力を纏う悍ましい13本の黒い魔力の槍が突き刺さる。

ダラスリニアの華奢な体が、激しく破壊されていく。


噴き出す血が、周囲を鉄のような濃厚な血の匂いを充満させた。


「クッ…ブフォ…カハッ…うあ」

「オーバーヒール!!!」


すかさずリナーリアの伝説級の回復術がダラスリニアを包み込む。

苦しみをこらえつつ、歯を食いしばり逆再生するように修復していくダラスリニアの体。


「聖復術式!!」

ルミナラスも弾かれないように古代魔術を紡ぎ、上掛けを行った。


「……くっ…大丈夫…来い!『死国隆盛』!!!」


空間が軋みをあげる。

まるで地獄が顕現するような、呼吸すらままならない濃厚な魔素が沸き上がる。


ダラスリニアを中心に半径50mほどの紫色のドームが顕現。

中から怖気づくようなおぞましい気配があふれ出してきた。


土が盛り上がり、おびただしい数のアンデッドが這い出して来る。

そしてダラスリニアの血を吸って深紅の目を輝かせながら真夜之(まやの)(おう)(みこと)ゾルナルダグが顕現。


猛り狂う大気。

絶対零度の怖気を誘う魔力を伴い、魂を消し去るような雄たけびを上げた。


瞬時に分解され、ゾルナルダグに吸収されていくアンデッドたち。

――贄だ。



「クククカカカカクカカカカカ!!…久しいの小娘…んん?ずいぶんと上等な血だなあ…クカカクカカカカカカ!!」


「……うるさい……働け!!…『レンド』っ!!!」


ダラスリニアが『強制のエンシャントスペル』のキーワードを唱える。 


ゾルナルダグが俺をちらりと見やり、悍ましい顔を向けにやけた。


存在値を爆上げし、数値は400,000を超えていく。


殆どのアンデッドを吸収しつくし。

手には30mはある大鎌を出現させ。


ゾルナルダグは古の魔神語をつづる。


「おw;あfまhwfmf、・あ。。fjw、gh;xp。szkf;」


顕現する紫を纏いうっすらと緑色に光る13人の死霊騎士たち。


伝説の13英雄たちの成れの果て。

その力は恐ろしいほどに強い。

存在値50,000を超える超戦士たちの瞳に怪しい色が灯る。


ダラスリニアは手にしている降魔の杖を地面に突き立てた。

さらに俺の真核の一部を対価に、強制ワードを詠唱。


軍団の指揮権を掌握した。


腕の皮膚が破れ、目と耳から出血する。

リナーリアとルミナラスの術式がすぐに回復を促す。


「ぐうっ……くっ……蹂躙しろっ!!」


認識できる上限の速さを突破して一気に襲い掛かる13体の死霊騎士。


体に文様のあるモンスターの軍勢との死闘が始まった。

砕かれ、切り裂かれ――


見る見るうちに数を減らすモンスターたち。


そこへゾルナルダグの大鎌が全てを薙ぎ払う。


雑草すら残らぬ圧倒的な力。

蹂躙を終えさらなる獲物を求め、その魔力をたぎらせた。


ほぼ同時に――

輝く漆黒のゴーレムが、おびただしい圧倒的戦力でこちらを目指して進軍する姿が目に入る。



「…3…2…1…」


「ダニー、やつらを呼び戻せ!!」

「…『ノディスト・リターン!!』…大丈夫」


ゾルナルダグと13人の死霊騎士がダラスリニアの後ろに転移すると同時――


「…チャージ完了です」


機械音の音声がチャージ完了を告げた。



茜の背に浮く4本の魔導兵器の筒先が、琥珀に輝く激しい光を迸る!


「行っけえええええええええ―――――フルインパクトキャノンッ!!」


刹那――


空気を切り裂き4本の緑の閃光が戦場を縦横無尽に切り裂いた。

耳をつんざく大音響が大地を揺らし、圧倒的質量の光学兵器が敵の中央に炸裂!!!


チュイン――――――ンン……


カッ!!!!!!!!!――――――――――

ズズズズドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ンンッッ!!!!!!


着弾と同時に視界が消えるほどの極光があたりを包み込む。

衝撃波が蹂躙、結界に包まれている俺たちまでもがあまりの衝撃に蹲り目を閉じた。


茜はすでにウイングを展開。

敵の斜め上からとどめの音波兵器を射出!!


「――――――――――――――――――――!!」


超高周波の音波兵器――琥珀色のオーラを纏い、敵全体を突き抜けた!!


底の見えない大穴を生み出し――

蹂躙され吹き飛び分解された漆黒の魔力が浄化されキラキラと煌めく。


見渡す限りの焼け野原。

俺たちの眼前に広がっていた。


超高温によりガラスのように溶けた台地には、もう動くものは居なかった。



※※※※※


「ふう―…これで終わりなら楽なんだけど…やっぱ来るよね」


魔力の残滓を体に纏い。

肩で息をする茜が言葉を漏らす。


俺たちの50m先――

空間が軋み凄まじい暗鬱とした魔力が吹き上がる。


霧散した魔力の残滓を吸収し、さらにその力を増した『もう一人の俺』

アースノート特製の魔力計が870,000と表示していた。


奴は、濁った銀色の目をこちらへ向けて、にやりと笑う。



「よお、ずいぶんなごあいさつだなあ…あああ、めんどくせえ…」

「相変わらず怠惰だな?……ゲームオーバーだ」


俺がつぶやくと同時――


ゾルナルダグと13人の死霊騎士が奴に襲い掛かる。

同時に漆黒を弾く抗魔鋼鉄騎士団、75機が奴を囲むように転移してきた。


「ああ??…なんだ?…ぐっ、ぐああああああああああ―――――!!!?」


そのうちの12体の胸部が開き、琥珀の魔力を噴出させる。


奴の存在値が急激に落ちていく。


暴れまわるもう一人の俺。

あっという間に13人の死霊騎士が消されていく。

 

騎士が消されると同時に今度は残り63体が突撃を開始した!!


「ああ?…くそっ…めんどくせええ…いぎっ…ぐああああ」


奴と抗魔鋼鉄騎士団の激しい戦闘。


奴は10mくらいの漆黒の剣を顕現させ、切り裂く。

ゾルナルダグの大鎌とぶつかり、激しい魔力光があたりを照らす。


「クカカカ、やりおる………ぬうっ?!」

「くそがっ!!めんどくせええええええええ!!!!」


極大の消滅魔法がゾルナルダグの存在を消し飛ばした。


奴の魔力数値が著しく低下。

…………予定通りだ。


奴は再度漆黒の剣を作り出し、抗魔騎士団に切りかかる。

しかし抗魔鋼鉄騎士団は漆黒を弾く。


奴は剣を投げ捨て、素手でつぎつぎと抗魔鋼鉄騎士団を薙ぎ倒し始めた。



※※※※※



死闘が続く中、俺は茜を抱きしめた。


「茜、お前に会えてよかった。絶対に、もう一度会うからな!約束だ!!」

「うん、光喜さん…信じてる…愛してます」


二人は優しいキスを交わす。


「ルミナ、ありがとう。見届けたらダニーと茜と一緒にギルガンギルの塔へ行ってくれ。すまない、記憶が対価だ。お前のことは忘れない」 


「リナーリア、グースワースを頼んだ。そろそろ終わりが見えてきた」


残機が10体を切った。


「俺の可愛い、ダニー……茜を頼む」

「…うん…ぐすっ…のあーな、さま…」


俺はダラスリニアを抱きしめ優しくキスをした。


「200年、待っていてくれ…」


奴の存在値がどんどん減り、10,000を切ってきた。


「茜、愛してる…200年後、絶対に助けに行く…またな!」



俺は奴の場所へ転移した。

隠し持っていた最後の権能を心の中で詠唱を始める。 


俺は自分にいくつかの呪いを付与し、血だらけになりながら暴れているもう一人の俺に組み付いた。


「っ!…ああ?今更お前が…ぐがあああああああっっ!!!!?」


呪縛が二人を包み込む

意識が飛ぶほどの激痛が魂に襲い掛かる。


「悪いな…寂しかったろ?俺が付き合ってやるよ」


奴が目を見開き、一瞬動きが止まる……


「デリートッッッ!!」

「ぐがあああああああああああああ―――――――」


俺と奴を含む空間に、ノイズが走る。

俺は奴を抑え込むが、奴は力ずくで俺の左腕を引きちぎった。


夥しい鮮血――しかし。

離すわけにはいかない。


「くそおおおおお、はなせえええええええ」 


奴の突きが俺の胸を突き破る。


「ゴフッ…つめた、いこと…いうな…よ…」

「あああくそ―――はなせええ―――」


俺の琥珀の魔力が奴もろとも縛り付けた。


「おまえは…おれ…だ、ろ…」

「ああああああああああっつつっ!!」


「プツン――――――……………    」




俺と奴は消えたんだ。



※※※※※



そして同時刻。

仮初の俺に『心の真核』を持たせ、儀式を行った。


ネルの目の前で引き裂かれ。

存在を『虚実のかかった真実で』で消し去ったのだ。


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