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第69話 魔法少女無双

「とりあえずこの子を安全なところに送りたいが時間がない…エリス…繋がった。エリス、来てくれ」


空間がきしみ魔力が溢れる。

エリスラーナだ。


「ん、来た……誰?」

「詳しい事情は後だ。回復を頼む。もしうなされるようならレアナに頼んでくれ。

…ロックは解除した。そうだな、客間にでも寝かせておいてくれ。頼むぞ」


「…………………」


「ん?どうした?悪い、時間が惜しい」

「ん、わかった。浮気だめ」


「っ!?ちがっ…いい、頼む」


エリスは彼女を優しく抱きかかえ転移していった。

漸く安心した俺は再度茜に向き合う。


相変わらず茜はふくれっ面をし、真っ赤だが…


「…しょうがないんだ諦めろ。大丈夫だ。可愛いから」


「……やって」

「ん?」


「光喜さんがやって」

「!???いやいやいや、無理だろ!?」


「むうううううう!!!」


「解った、何でも言うこと一つ聞くから。頼む時間がやばい」



顔を真っ赤にし、目には涙がにじむ。

小刻みに震える体――うん。


すまんが今はこれが最善解だ。

次はもう少し改善できるよう、アートに頼むか…


「輝く…瞳は……希望の…光…くっ、まとうピンクは…愛の証…みんなの…アイドル…ズッキュン…キュン…魔法少女…キラリン茜…みんなのはーと……くぎづけよ♡」


必死に紡ぐ、変質していくための言霊。

周囲の魔力を吸収し、大気が揺れる。


光が弾け――



『茜の周りに七色の光が集まる。

顕現する希望の光、魔法少女キラリン茜、ここに爆誕!!!』


――何故か流れるナレーション



ピンクのひらひらが過剰に施された、某魔法少女も真っ青な派手派手な衣装が目にまぶしい。

可愛らしいハートが付いた杖は、無駄にヒヒイロカネ製だ。


赤を通り越して白い顔で死んだような目をした茜が、魂を込めたような声でつぶやく。


「いこう…はやく……おわらそう。…そして…アースノートさんをぶっ飛ばす!」



※※※※※



先ほどの武舞台の周辺。

地獄が溢れかえっていた。


おびただしい数の死体が無残にも打ち捨てられ、辺りは鉄のような血の匂いで充満していた。

それでも狂ったように押し寄せる群衆たち。


ダラスリニアの眷属とみられる数名の魔族が多くの傷を負いながらも必死に抵抗。

最悪の事態には至っていなかった。


「80…いや100人くらいか…犠牲者は…クソッ…茜、頼む」

「…うん。…さすがにこれは――見棄てられないよね…頑張ってみる」


茜は武舞台の少し空いているスペースに立つと、可愛らしいきめポーズをしながら詠唱を始めた。


「みんなのアイドル茜ちゃん♡悪い子たちにはお仕置きしちゃう♡いっくよー!えいっ!ラブストーム!!」


茜を中心に、まるで光が生まれるように七色の光が波紋のごとく次々と広がっていく。

激しく暴れていた群衆たちの動きが急激に阻害される。


さらに茜はポーズをとる。


両手をクロスさせ、杖を持つ手は小指を立て。

もう片方は顔に向けてピースサイン……どうしても人の死に触れた悲しみで顔が引きつる。


『笑顔とウインクが足りません。発動しません。もう一度』


突如鳴り響く警告音。

絶望の表情を浮かべる茜。


また動き出す群衆たち。


「茜、がんばれ!もう少しだ」

「~~!!!!!」


めっちゃ睨まれた。

ごめんて。


大きく息をつく茜。

覚悟を決めたのだろう。


多少ひきつってはいるが、輝くような笑顔を浮かべた。


両手をクロスさせ、杖を持つ手は小指を立て。

もう片方は顔に向けてピースサイン。


顔にはかわいいウインク付き。


「…ラブストーム・極み♡」


刹那巻き起こる七色の激しい衝撃波。


キ――――ンと空気を切り裂く音が鳴り響く。


清廉な美しく輝く虹色の魔力。

暗鬱な魔力を包み込み、浄化――あたたかな大気があふれ出す。


暴れていた群衆が、気を失い倒れる。

もう誰も動いていない。


そして。


清廉の気配。

愛の波動。

それはウッドモノルードに降り注ぎ、浄化していく。


空を見上げる多くの魔族たち。

そして浄化され、目を覚ます多くの群衆。


その目には憧憬の光が瞬く。


ギルアデスが茜を見つめ呟いた。


「…可憐だ……」


その声は――


群衆の声にかき消されていった。



※※※※※



茜の活躍により、ウッドモノルードの騒動は幕を閉じた。


眷族による調査の結果『移動する猫族旅団イミト』の荷物の中に、例のオーブが4つ確認された。


団長のニキットが最後まで抵抗したが。

ギルアデスの説得によりどうにか譲ることを承諾してくれ、茜が消去。


当然対価として金貨40枚を渡した。


俺の正体に気づいたニキット。

これ以上ないほど土下座され。

さらにダラスリニアが闇の神だと気づき気を失っていた。


副団長のルニルが


「うちの団長が無礼を。大変申し訳ございません。この金貨は不要でございます。どうか私の首ひとつでお許し願いませんでしょうか。なにとぞ、なにとぞ」


と言ってくるので、条件を付けた。


「もういい。気にするな。だがそうもいかないのだろう?ならば取引だ。マルガシュ!」

「っ!はっ!」


「お前はこいつらと一緒に旅をしろ。そして監視だ。良いな?ダラスリニアとギルアデス。かまわないな」


「……うん…いい」

「はっ。賜りました」


「そういう事だ。こいつを使ってやってくれ。そこそこ強い――マルガシュ、よろしく頼む。期待している」


「っ!!!ありがたき幸せ!!」



一応俺は物凄く偉い。

きっちり形は作らなければ示しがつかない。


「金貨はこいつの受け入れ料として使ってくれ。俺からは以上だ」



※※※※※



移動する猫族旅団イミトの中でもゴタゴタがあったらしい。

バナーダという男が数人刺して団長のニキットに殺されたそうだ。


だが。

もともと不満を持っていたが、ここまで直接行動したことはなかったそうだ。

今回事態を引き起こしたオーブの恐ろしさは、皆が認識した。


そしてハイエルフ族だが。

今回の事件で、長老を始め数名が命を落としていた。


最終的に里を救った茜が『愛の女神の御使い様』として語り継がれていくらしい。

……茜が死んだような目をしてたっけ。


保護した『ネリファルース・ツワッド嬢』の身柄は、俺に預けるそうだ。


一度汚されたとの認識。

里には置けないとのこと。


気に入らないが。

これがこいつらの信じているしきたり……


おとなしく従うことにした。



俺の心を占める例えようのない不安。

それは――いつまでも俺の心にまとわりついていた。


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