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第68話 魔法少女キラリン茜

『観覧の儀式』が始まる直前。

ダラスリニアは眷族を従え、ここウッドモノルードに来ていた。


「……くさい…いる…いっぱい」


「ダラスリニアお嬢様、何か不穏な気配がありますな。先ほどから多くの木偶(でく)どもから例の魔力反応があります…消しますか?」


眷族第1席の魔国軍東方総司令官で大公爵家当主のギルアデス・バランディアが胸に手を当て片膝をつき、ダラスリニアに問いかけた。


彼は5,000年以上生きている大魔族でダラスリニアの叔父。


銀色に輝く髪を短くそろえ、頭には金で縁取られた黒いサークレットを装着している。

歴戦の猛者の覇気を放つイケオジだ。


堂々とした立派な体躯に黒を基調とした赤い幾つもの刺繍が施された執事服に身を包み、

右目には細かい細工を施した眼帯。


存在値は5,000を超える魔眼持ちの超絶者。

この世界最強格の一人だ。



「…殺すのはダメ……除去…できない?」

「お任せくださいませ。このギル、お嬢様の為なら出来ぬことなどございません」


「…ありがと……おじさま」


突然の叔父様呼び。

ギルアデスは悶絶する。


表情には出さずに。


「ダラスリニア様―、大変です!」


そんな中、眷族第8席のマルガシュ・マナジが大声を出しながら走ってきた。

なぜかギルアデスに睨まれるマルガシュ。


「???…あっ、人がたくさん集まっている、えっと、武舞台で、反応が爆発的に増えてます。なんかやばそうですよ!消去が全然間に合わない」


マルガシュが用件を伝え、ダラスリニアが難しそうな顔をしていると、不意に空間にきしむように魔力があふれ出す。


「っ!!!?」


魔王ノアーナと茜。

突然の圧倒的魔力に、茫然とする眷族の二人。


二人一緒に来たことに、ダラスリニアは複雑な表情を浮かべてしまう。


「ああ、すまない。驚かせたようだ。っ!?話は後だ。ダニー」


ノアーナはそういってダラスリニアをまるで抱くように優しく包み込むとそのまま転移した。

魔力の残滓がキラキラと煌めく。


「……どこが…力を失った…だと?」

「…やばいっすね…あの女の子も」


雑踏の中――


二人はしばらく立ち尽くした。



※※※※※



「ダニー権能だ」


(くそがっ!!まだ間に合うっ!!)


「っ!…静!!!!」


止まる世界。


そこには。

雪崩のように押し寄せる、欲望に目を汚した群衆の…

一人の少女に向けた異常なまでに増幅した悪意の意思――渦巻いていた。


止まる世界の中。

なぜか権能をはじいた少女。


髪を引きちぎられ、衣服はボロボロ。

体中にはひどい痣があり、左足は切り裂かれたように激しく出血。


茫然とし、涙を流しながら絶望していた。


俺は心を引き裂かれるような激しい怒りを抑え、怖がらせないように精一杯優しく語りかけた。


「お嬢さん、もう大丈夫だ。とりあえず飛ぶよ。つかまって」


混乱しているのだろう。

のろのろとした動きでゆっくりと少女はノアーナの手を取った。


刹那――


俺の体中に、すさまじい勢いで激痛が駆け巡る。


「っ!くああ!?…飛ぶっ…転移!」


意識をぶつ切りにされるような状態になりながらも、何とか術式が発動。

魔力の残滓を残し、4人は姿を消した。


権能が切れた群衆は対象が居なくなったことにも気づかずに、対象を変え暴虐の限りを加速させる。

長老だったモノや薙ぎ倒されたもの、一瞬躊躇(ちゅうちょ)したものなど。

弱いものから蹂躙されていった。




地獄が広がっていた。



※※※※※



ウッドモノルードの北には通称『不帰(かえらず)の森』と呼ばれる魔物の生息する森がある。


『とにかく遠くへ!』と、突然の体の中をぐちゃぐちゃにされそうな中、不帰の森のごく浅い場所へ4人は転移してきた。


「ぐっ…ぐああ……ふー…ふー……くうっ!?」


蹲り苦しむノアーナに、ダラスリニアと茜はオロオロとしてしまう。

一方助け出した子も、気を失い倒れてしまう。


「どっどっ、どうしよう?ダニーちゃん。ああ、回復…って私出来ないよ!」

「…茜…落ち着いて……ノアーナ様?」


何とか落ち着いてきた俺は、自らに回復を行い大きく息を吐く。


「ふう…大丈夫だ……!?…よかった…助けられたか」


すぐ横で気を失っている少女の胸が緩やかに上下している。


ジワリと沸き上がる安心感。

どうにかなったことに、俺は気を抜いたのだが…

突然茜とダラスリニアが抱き着いてきた。


「心配した…光喜さん…」

「…怖かった…ノアーナ様」


二人の頭を優しくなでながらノアーナは想いを馳せる。


(先刻のは…彼女の、心?…なぜ…あんなに?)


驚くほど濃密に。

全く抵抗することなく流れ込んできた恐ろしい意識。


俺は無意識のうちに身震いしていた。

同時に――なにか心が訴えかけてくるものに、漠然とした不安に駆られていた。


まるで何か忘れている――

まるで…


俺は魂が震えているのを。

――気付かないふりをしていたんだ。



※※※※※



「――そうだ、何とかしないとな。このままだとあの里は全滅するぞ…茜、どうやらお前の出番のようだな。…あれをやるぞ」


「えっ!?」


何故か固まる茜。

みるみる顔が赤くなっていく。


「ダニー、すまないがウッドモノルードに戻って事態の収拾に向けて動いてくれ。眷属に必ず魔石とリンクしろと伝えてな。――頼むぞ」


愛おしいダニー。

俺は親愛の気持ちを込め、彼女の華奢な体を抱きしめた。


ダラスリニアの顔が赤く染まる。


「気を付けてな…絶対に死ぬな。――皆で帰るぞ」

「……大丈夫…がんばる」


ダラスリニアが転移するのを見届け、すっかり赤くなった茜に向き合い再度声をかけた。なぜか茜はビクッと体をこわばらせ、あきらめたように溜息をつく。


そして呟き、――叫ぶ。


「……魔法少女キラリン茜……いや――――!!?」


体をうねらせモジモジする茜。

眼がぐるぐる回りフラフフラだ。


「…アートのお墨付きなんだろ?まあ、ちょっと…うん。でも、この世界の皆は知らないから、きっと恥ずかしくは、ないんじゃないかな?ハハ、ハハハ…」



※※※※※



今回の事態に備え、様々なサンプルを解析した結果。

やはり『琥珀色に緑』が混じる茜の魔力が最大に効果を発揮することが確認されていた。


そしてわれらが頭脳であるアースノート監修のもと、ついに決戦兵器。

茜の【必殺技】が開発されたのだ。


――恥じらう乙女の心の光ビーム『ラブストーム・極み♡』


それが今回の正体。

秘密兵器だ。


すなわち


『魔法少女のようなコスプレをし恥ずかしいきめポーズと愛らしい表情から繰り出される、音波兵器』


という結論に至っていた。


茜はもちろん猛反対。


しかし。


無情な実験データが、茜が恥ずかしければ恥ずかしがるほど効果が上がるとのデータがそろい、証明されてしまったのだ。



魔法少女の降臨――


それは間もなく果たされる。


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