表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BAKU  作者: 不覚たん
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/50

謎の武装勢力の夢を見た(二)

 霧がやや薄まったタイミングで、俺は建屋から身を乗り出した。

 ほぼ同時に、光が身体を貫通するのを感じた。いままで誰にも触れられたことのない部分に、強烈な異物感をねじこまれる。その異物感は、すぐさま激痛に……。四方からレーザーを撃ち込まれているのだ。

 だが、即死するわけではない。

 俺は踏ん張って狙いをつけて、敵の一体をネットに捉えた。

 ぶっ倒れた俺と、ネットに絡まった敵を、仲間たちが建屋に引きずり込む。


 そいつはロシア語でなにか言った。

 だが、A子が手から矢を放ち、そいつの頭部をぶち抜いた。防護服の内部が、すぐさま血液で満たされた。即席の死体袋というわけだ。


 いや、俺も激痛というか、なかば体の感覚もなくなって、他人を揶揄している場合ではないのだが……。


「え、待って。死なないでよ!」

 C子がすがりついてきた。

 大袈裟だな。死ぬ前に、財団の人間が起こしてくれるはずなのに。たぶん。間に合えば。

 俺が返事もできずに生きることに集中していると、C子はこう続けた。

「こいつが死んだら、次は誰がやるの? あたし、もう撃たれるのイヤなんだけど」

 おい。


 みんなが沈黙していると、不本意なことに、俺の肉体も徐々に回復していった。

 これはまた同じことをやらされそうだ。

 だが、何回もつ?

 敵はあと六人いる。

 そんなに何度も繰り返せない。


 俺は痛みに耐えながら上体を起こした。

「次も俺がやる。ただ、その次も可能かどうかは分からない。俺がいなくなった後のことも考えておいてくれ」

 なんならさっさと退場して、あとのことはすべて他人に委ねたい。

 捨て鉢で言ってるんじゃない。「現場」とはそういうものだ。

 戦略や展開なんてものは、もっと給料をもらってる連中が考えればいい。普段ふんぞり返ってるヤツは、ふんぞり返ってるだけの仕事をして欲しい。それが分業というものだ。

 もし戦力差が原因で負けるなら、その戦力を用意した上の責任だ。個人戦は個人の裁量がモノを言うが、集団戦では違う。集団戦においては、個人というものは極限まで相対化されてしまう。大事なのは数量。数量で負けているのなら、その状況を招いたトップが悪い。なぜかたいてい現場のせいにされるが。


 俺は立ち上がり、呼吸を整えた。

「これから二人目を捕まえる。あとのことは頼んだぜ」

「死なないでよ」

 C子の言葉に、俺はついふっと笑った。

「前向きに検討する」

 それは俺が決めることじゃない。


 *


 だが、二体目を捕まえても、三体目を捕まえても、俺は死ななかった。正確には瀕死になったが、そのたびに回復した。激痛で脳の血管が切れそうだ。

「クソ……」

 起き上がれるが、起き上がりたくなかった。

 傷だけはなぜか修復されるが、体は激痛を記憶している。俺が動かそうとしても、動かない。いや強く動かそうとすれば動くのかもしれないが、そんなことをする気になれなかった。


 敵はあと四体。

 コマの加護を受けているとはいえ、プロ相手にこの戦績なら、大金星じゃないか?

 あとは寝ててもいいだろう。


 青田氏が露骨に気の進まない表情を浮かべた。

「そろそろ限界のようだな。次は私が……」

 だが、その言葉は最後まで続かなかった。

 殺されたわけじゃない。

 目を見開いて、虚空を見つめていた。


 そこになにかあるのか?

 俺も目をやると……。

 いや、なにもなかった。

 数秒前までA子がいたはずの場所は、無人になっていた。


 病院の連中め、起こすのが早すぎるだろう。

 いや、A子の体調を考えれば大事なことだが。


 C子が舌打ちした。

「分かった。じゃあさ、もう外に出ない? そんで正々堂々撃ち合って決着つけようよ」

 追い詰められた上での短慮。


 コマを除けば四対四。

 数の上ではイーブンかもしれない。

 しかし間宮氏は瀕死のままだし、俺のメンタルも削られている。実質、二対四。

 数が減ってくると、集団戦の要素が減り、個人の才能が問われ始める。相手はプロの軍人だ。正面からぶつかって勝てる相手じゃない。ましてや射撃での戦闘など論外。


 俺はつい上体を起こした。

「知ってるか? 籠城戦ってのは、相手の三倍有利なんだ。わざわざ出ていく必要はない」

「なに三倍って? 根拠あんの?」

「ない」

 ただの俗説だ。

 しかもこれはミサイルが登場する前の中世とかの話。

 いま俺たちの状況に当てはまるとは言えない。

 それでもなお、俺は籠城を捨てるべきではないと考える。

 理由はある。すでにその愚行は、ファーストコンタクトのときに経験済みだからだ。最初にあれだけまくられたのに、また策もなしに出て行けば、殺されるに決まっている。なぜ同じ失敗を繰り返そうとするのか分からない。追い詰められて開き直っているとしか思えない。


 C子はむくれた顔でこちらを見た。

「じゃあなに? ずっとこうしてる気?」

「時間稼ぎにしかならないってのか?」

「そう言ってんだけど?」

 思わず笑いが出た。

 C子は眉をひそめている。

「なに笑ってんの?」

「時間稼ぎをナメるな」

「は?」

「前に柴田ってのがいただろ? あいつはたいした才能もないのに、機械と薬でバキバキに強化されて、自力で夢に入ってきたよな?」

「それが?」

「つまり、あいつらは長くもたないんだ。ズバ抜けた適性のA子さんでさえそうなんだ。待ってれば勝手に消耗する」

「……」

 理解したか。

 まだなにか言いたそうだが。


 時間稼ぎというと、マイナスの印象しか抱かないかもしれないが。

 プラスになるケースもあるのだ。

 普通の人間は、ムリして夢の世界に侵入すれば、それだけで生命を消耗する。だが、コマは違う。そのコマの加護で動いている俺たちも違う。

 夢の世界での活動は、俺たちにとって一方的に有利。時間をかける価値はある。


 すると、コマがなんとも言えない表情で告げた。

「力説しとるとこ悪いんじゃが、敵の増援の気配がするぞい……」

 それは俺が力説する前に言って欲しかったな。


 通常、戦力の逐次投入は望ましいことではない。

 逆に最初から全軍をもって叩き潰す。これが理想。まあ食料や移動にかかるコストを考えなければ、だが。

 たとえば、チームメイトが一億人いるのに、一人ずつしか出してこないヤツがいたとすれば、対戦相手にとってはクソ有利になる。集団でそいつ一人をボコればいいのだから。

 実際はコストを節約したいから、毎回全軍を動かすのは現実的ではないが。


 だから敵は、精鋭の七人で十分だと考えたのだ。

 なんなら想定よりも多くの人員を出したつもりかもしれない。

 その想定をぶち壊したのが、俺たちの功績というわけだ。

 なんなら俺たちのボスも、増援を送ってくるべきだと思うのだが? しかし日本側の人員といえば、政府に飼われている柴田くらいしかいない。しかも財団は、政府との関係がよろしくない。


 俺は遠慮せず溜め息をつき、コマに尋ねた。

「なあ、コマちゃんよ。こっちにももっと仲間がいたはずだろ。そいつらを呼べないのか?」

 コマはしょげたような表情だ。

「まだ夜になっとらんからのぅ。それに、ほとんどのものを日本政府にもっていかれてしもうて」

 あいつら、まんまと買収されたってワケか。

 まあ俺やC子もそうだったから、あまり強くは言えないが。


 ともあれ、こちらの援軍は期待しないほうがよさそうだ。


 遠方を見ると、また性懲りもなく大型旅客機が見えた。

 あれが無名閣にぶつかれば、増援のご到着という流れだ。

 また防犯用ネットでちまちま捕まえて、一人ずつ処理するしかない。もし思い通りに体が動けば、だが。


 俺たちは建屋に身をひそめながら、窓から外を眺めていた。

 濁り切った黒い空。

 接近する旅客機。

 だが、違和感があった。

 旅客機というのは、あんな形状だっただろうか。シルエットが妙に丸いというか。そう。左右に伸びているはずの翼がないのだ。え、ミサイル?

 ただ、ミサイルにしては勢いがないというか。

 眺めていると、旅客機は急速に下方へと墜落していった。やや遅れて、切断されたとおぼしき両翼も追従する。事故でも起こしたのか?


「感謝してくださいよ。あの飛行機、私が落としたんですから」

 A子がいなくなった場所に、一人の女が立っていた。

 ジャージ姿の少女。

 見覚えがあるが、名前が出てこない。


 瀕死の間宮氏が目を細めた。

「え、小間森さん……?」

「小間森さくらです。お婆ちゃんが行けって言うから、仕方なく……」

 俺たちがコマを回収しに行ったあの日、祖母に代わって俺たちを案内してくれた少女だ。

 幼い顔立ちで眉をひそめて、鼻血を流している。

 いくら才能があるとはいえ、自力で夢に入ってくるのは大変だったのだろう。

 こんな子供の手まで借りることになるとは……。


 彼女は手の甲で鼻血を拭いながら言った。

「もう少ししたら、お婆ちゃんが助っ人をよこしてくると思います。私はその伝言に来ただけで……」

 伝言に来たついでに、敵の飛行機を落としてくれたのか。

 とんでもない人間もいたものだな。


 すると小間森さくらは、コマちゃんに向き直った。

「コマちゃん、元気?」

「元気じゃよ」

「ウソつき。こんなにボロボロになってるのに」

「言うでない。わしには償わねばならん罪があるんじゃ」

「……」

 俺たちがこういう活動をする前から、彼女たちは一緒にいたのだ。

 言いたいこともひとつやふたつではないのだろう。

 それだけに、互いに言葉が出てこないようだった。


「私、そろそろ戻ります。お婆ちゃんにも、あんまり長くいるなって言われてるので」

 言葉とは裏腹に、コマと離れたくないらしく、名残惜しそうにコマの袖をつかんでいた。

 俺たちは、この二人の関係さえ引き裂いてしまったのか。


 小間森さくらは、コマの目をみつめた。

「じゃあ行くね、コマちゃん。絶対に死なないでね」

「うむ」

「約束だよ?」

「うむ……」

 ふん。

 この化けギツネめ、人間を泣かせやがって。

 だが安心して欲しい。コマがなんと言おうと、俺が死なせない。まあ俺が自分の命を賭けてまでやるようなことかは分からないが。この流れだとそうなる。もちろん俺も無駄死にするつもりはないが。


 小間森さくらは去った。

 伝言を残したということは、もう少し時間がかかるということだろう。その上で、必ず援軍を送るからそれまで耐えろというメッセージでもある。


 コマは、やれやれといった顔でこちらを見た。

「ふむ。お主の言った通りじゃったの。時間稼ぎも悪くないわい」

 まるで勝利を確信したような顔だ。

「小間森の婆さん、そんなに強いんですか?」

「いや、あれは来んじゃろ。来るのは、わしの妹分じゃ」

「妹分……」

 小間森氏の隠し玉か。

 コマを差し出してでも、その存在を秘匿していた妖怪。


「できればピンチになる前に呼んで欲しかったっすねぇ……」

 今度は別の女が立っていた。

 山伏みたいな格好て、手には釈杖を握っている。ばさと伸びた髪は真っ黒で、マントのようだ。


「わしの妹分のソトじゃ」

 見た目は人間のようだが、おそらく妖怪なんだろう。

 ソトはジト目でコマを見た。

「私のこと放っておいて、人間とつるんでたんすか? なんで?」

「いや、わしにもわしの都合があるので……」

「ウソだね。私の話がウザいから遠ざけてたんでしょ? 知ってるんすよ。私が話しかけるといっつもうるさそうな顔して。ほらいま! いまもそういう顔してるから!」

「しとらん……」

「してる! してます! ほら、人間も見て! してるよね? してるって言え!」

 これはウザい。

 コマもうろたえている。

 いま謎の武装勢力との殺し合いの最中なのだが。

 まあこいつら妖怪にとって、命のやり取りなどこの程度のものなのだろう。


 ソトは杖で床をついた。

「分かった。分かりましたよ。やればいいんすよね? 小間森の婆さんにも頼まれたし。今回はやります。でもこのあとお話しの時間作ってもらいますから。いいですよね?」

「うむ……」

「姉さん、その返事するとき絶対納得してないっすよね。あー返事はいいっす。あいつらぶっ殺してから改めて聞きますんで。そこで数でも数えててください。十数え終わる前に戻ってきますから」


 そうして建屋から出たところで、四方からレーザーを撃ち込まれた。

 かと思うと、ソトはどっと転倒し、血まみれで床をのたうった。

「あぎゃあッ! なにこれッ! 痛いッ! 超痛いッ! 助けてッ!」

 俺たちは腕だけを伸ばしてその体を建屋に引き込んだ。


 一秒で終わらせやがった。

 敗北によって。


「え、ウソでしょ……こんなの……ムリだよぅ……」

 絵に描いたような絶望顔。


 こいつ、いったいなにしに来たんだ……。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ