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BAKU  作者: 不覚たん
第二章

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妙な夢を見た(十)

 その晩は、疲れていたせいかすぐに眠れた。

 そして疲れていたのに、コマに呼び出された。


 無名閣――。

 青空に突き出した一本の楼閣。


「ん? なんだ? いったいどうして……」

「話があってのぅ。じゃが、今日はお主だけじゃ。あの会議とやらはもううんざりじゃからの」

 コマが建屋から出てきた。

 今日ももふもふしている。

 しかしこの姿は偽装。瀕死の体を、健康に見せているだけだ。死に際のバクみたいに。


「お説教か?」

「わしを殺してくれ」

 無垢な顔で、平然とそんなことを言う。

 ひっぱたきたくなる。

「それはしないと言ったはずだが」

「わしはバクの代わりになどなりとうない。もう罪を償って死にたいんじゃ」

「ダメだ。俺の命を使ってでも生き延びてもらう」

 コマはなじるように目を細めた。

「お主の命を? いったいどれだけ残されとると思っとるんじゃ?」

「言うな。知りたくない」

 もしそれを知ってしまったら、きっと動けなくなってしまう。

 知らないほうがいい。


 コマは小さく溜め息をついた。

「おぬしがやらずとも、どうせこのあと乗り込んできた人間たちが、わしを殺すのじゃ。そんな有象無象にやられるくらいなら、お主に任せたほうがマシじゃ」

「それはなんらかのエビデンスに基づいた予想なのか?」

「えび……?」

 きょんとするな。

「いいか? そいつらに負けたくないなら、あんたが力を蓄えればいいだけの話だ」

「負けたいぞい」

「ぞいじゃない。許可しない。俺は自分の命にかえてもあんたを守る」

「なんでそんなことするんじゃ……」

 本気で迷惑そうな顔をしている。

「ハッキリ言うぞ。あんたは悪人じゃない。少なくとも俺の基準ではな」

「じゃがわしは……」

「やり方がヘタだっただけだ。少人数から命を奪うんじゃなくて、大人数からほんの少しずつもらえばいい。そうすれば負担にならない。しかもこの世界を救える。あんたは生きたまま罪を償えるんだ」

「それは屁理屈じゃな」

「べつに屁理屈じゃ……」


 反論しかけたそのとき、空間が割れた。

 侵入者が現れたのだ。


「コマちゃんをいじめないで」

 A子だ。

 長い髪をなびかせながら、欄干の上に立って腕組みしている。

 演出だけは一丁前だ。


 そいつは「とうっ」と床へ降り立つと、コマちゃんの後ろに回り込み、いつもの如く吸い込み始めた。

 いまとなってはこいつも妖怪のたぐいにしか見えない。


「コマちゃんをいじめないで」

 ひとしきり吸ってから、また俺にそんなことを言ってきた。

「いじめてない」

「いじめてた。コマちゃんがイヤだって言ってるのに、ムリにやらせようとしてた」

 ムリに?

 まあそうだな。

「いいのか、後先考えずにそんなことを言って? なら反論させてもらうが。もしコマちゃんの言う通りに行動していたら、いまごろそいつは死体になってなきゃおかしい。それがそいつの願いなんだからな」

「は?」

「そうならないために行動してるんだ」

「……」

 A子はぎゅっとコマにしがみついている。

 手放したくないのだろう。

 というかまた吸っている。どれだけ吸えば気が済むのだ。そんなにいいものなのか?


「分かった。じゃあ、あたしがバクの代わりになる。これでどう?」

「……」

 正気か?

 というか、可能なのか?


 コマも困惑顔だ。

「ありがたいんじゃが、人間にはムリじゃろ……」

「なんでそんなこと言うの? あたし、コマちゃんを助けたいのに」

「でもおぬし、寿命が」

「あと五年くらいある」

 五年?

 そんなに短いのか?

 コマは、しかしかぶりを振った。

「もうそんなに残っておらんぞい。お主は力を使いすぎたのじゃ」

「え、じゃああと何年くらい?」

「二年くらいじゃ」

「うわ、もうすぐじゃん」


 二年?

 なぜ平気な顔でいられるんだ。


「待ってくれ。本当なのか? その、二年ってのは……」

 俺の言葉に、コマは複雑そうな表情を浮かべた。

「安静にして二年じゃ。力を使えばもっと短くなる。なんもかんもわしのせいなんじゃ」

 こいつのせいだ。

 だが、それを言っても始まらない。

 取り戻せないものは仕方がない。


「A子さんよ、あんた、もう力を使うな」

「なんで?」

「二年だぞ?」

 すると彼女は、不快そうに目を細めた。

「だったらなに? 長生きしたらなんかいいことでもあんの?」

「それは……」

「あたし、どっちにしろダメなの。ずっと体が弱かったし。生きてても、病院で寝てるだけ。でも夢の中なら活躍できるんだよ。あたしの活躍の場を奪わないで」

「……」


 どいつもこいつも、どうして自分の命を大事にしないんだ。

 そういう俺も……。


「悪い。なにも反論できない」

「でしょ?」

「分かった。じゃあ俺たちはいい。みんな命を使って戦おう。けど、今後はそんなことが起きないようにしなきゃいけない。そしてコマちゃん、そんな世界を作れるのはあんただけなんだ。責任を取るっていうなら、未来の世界を救ってくれ」


 世界がどうなろうと関係ない。

 正直、そういう気持ちはあった。

 だけど本当に?

 いま自分はなににこだわっているのか。それはどうしてなのか。過去を振り返ると……。俺は、この世界が平和であって欲しかったのだ。

 哀しみをすべてなくすなんて、大袈裟なことは言わない。

 ただ、余計な軋轢は減らせるはずだ。軋轢によって生じる不幸も。不幸が減れば、人はいまより少しだけ優しくなれると思う。

 俺の両親はもう生き返らない。だけどああいう事件をいくらか減らせる。それでいいじゃないか。


「頼む、コマちゃん」

「……」


 コマは、それでも首を縦に振らなかった。

 その代わり、景色が一変した。


 山林の建つ一軒家。

 トキの領域だ。


 コマは静かに呼吸をし、こう告げた。

「わしはそんなことしとうない。じゃが、会議でそう決まったなら従ってもよい」


 他のメンバーも招集されていた。

 たぶんイヤだったとは思うが。

 どうしても、自分の意思では決めたくなかったのだろう。

 結果がどうなるか分かっていたとしても。


 *


「会議に先立って、一点だけ」

 ウィリアムズ氏が、神妙な表情で挙手をした。

「アメリカはすでに行動を開始しています。私は、自国の利益を損なうことはできない。ですから会議への参加は、これで最後にしたいと思います」


 話が急なようにも思うが。

 しかし、状況はそこまで切迫しているということなのだろう。

 米軍はすぐにでもエネルギーの吸引を始める。妨害するものとは戦うつもりでいる。

 ウィリアムズ氏の立場を考えれば、今回の選択はやむをえない。むしろ誠実に説明してくれただけ感謝しなくては。


 彼はこうも付け加えた。

「とはいえ、このエネルギーの原資がなんなのか、世界へ訴える努力は続けていきたいと思います。皆さんも同じ考えだと嬉しい。またいずれ仲間として再会できることを願っていますよ」

「ありがとう。俺もそう願ってます」

 前回の会議で決まったことを、これからも続けてくれるというのだ。

 道は違えど、仲間であることに変わりはない。


 すると珍しく、コマが提案を出してきた。

「今日の議題についてじゃが。わしをバクの代わりにするという案があるようじゃの。わしは拒否するほうにすべて投じるが……。おぬしらは好きにせい。結果には従う」


 提案はいくつか提出されたが、票が投じられたのはおもに以下の二点だった。

 コマをバクの代わりにする。

 コマをバクの代わりにしない。

 そして圧倒的多数で前者が選ばれた。


「では、コマちゃんにはバクの代わりをつとめてもらう。そしてみんなで仲良く。これが会議の決定だ」

 俺は各票を眺めながらそうまとめた。


 トキはまたいつもの提案を出してきた。

 だが、それでいい。

 各人がエゴをぶつけ合う。そういう設計のルールなのだ。だからこそ票を競わせる意味がある。トキは最後までエゴを通した。


 コマはやれやれとばかりに席を立った。

「知らんぞ、どうなっても。力をつけたわしが心変わりして、人を襲うようになっても責任とれんからな」

 もちろんその可能性は想定している。

 想定したところでどうにかなるものでもないが。

 俺はしいて笑った。

「もしそうなったら、それをよしとしない誰かがあんたをぶっ飛ばすだけだ」

「ふん。バクの命を奪ったお主が言うんじゃから、間違いなかろうな」

 とはいえ、ダメージを与えたのはほぼA子だ。俺はトドメを刺しただけ。最後にウマいところだけ持っていったというわけだ。仕方がない。あんなバケモノに殺されたくなかった。それでも、あきらめなかった自分を誇りたい気持ちはある。


 A子はなんとも言えない表情でコマに近づいていった。

「コマちゃん。強くなっても、あたしのこと忘れないでね?」

「なにを言うとるんじゃ。お主みたいな女、忘れるわけないじゃろ」

「最後に一回吸わせて」

「べつに最後でもないんじゃが」

 コマの返事も待たずに、A子は吸い始めた。


 そう。

 最後などではない。

 まさにこれから始まるのだ。そのための会議だった。

 コマが力を得るには、夢を通じて蛭子を寄生させねばならない。バクが時間をかけてそうしたように。俺たちにはコマをサポートする仕事が残されている。財団の思惑通りに。


 トキは悠然と茶をすすっていた。

「この選択で、世界が少しでもよくなるといいね」


 そうだな。

 そうなればいいと、俺も思うよ。心から。


(続く)

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