51、天日干し
「サラス」
幾人かに囲まれるようにしては勧誘を受けるそのエルフ。
美しい金髪に整った容姿。
いささか肌の露出が多いような気がするが、あえてそれ以外で特徴を上げるのであれば、やはり――。
そう、自分とは違う、その長い耳であろう。
「……今、私のことをサラスって呼んだのはアンタ?」
サラスは周囲の者達を押し退けるようにしてこちらの前へと進み出てくる。
「あぁ、いちいち同じことを繰り返す必要もないだろうに。さっさといくぞ」
「……アンタ、誰かと勘違いしてるんじゃない?」
「……ん?」
「私はサラスなんて名前じゃないわ」
「は……?」
「それから私に気安く話しかけないでもらえる? 変人」
「え……」
サラスはそれで用は済んだと言わんばかりに背を向ける。
そこには、これ以上話しかけてくれるなとも書いてある気がして思わず二の足を踏んでしまった。
結果的にそれが良くなかったらしく。
その一瞬を掴み取るようにしては再度始まった勧誘のもと、サラスは間もなく数人の男女を連れ立っては扉の向こうへと繰り出して行ってしまった。
「リン――」
こちらの心情を察してか、アイギスが顔を覗き込んでくる。
「ん?」
「大丈夫だよ」
「ははっ、ありがとう」
「ううん」
アイギスはこちらの腕の中でいごいごと動き、再び落ち着く場所を捉えたのか、それを最後に瞼を閉じては静かに寝息を立て始める。
――今考えていることが正しいかどうかはマリアに話しかければ分かることだ。
「マリア」
これまた先程に比べれば少ないが、既に現在進行形で複数人から勧誘を受けている様子。
合間を縫って呼びかけるも、こちらの声が届くかどうかは正直微妙なところだろう。
「……貴方は――」
「ちょっと、邪魔しないでよ」
マリアの声に重なるのはこちらへの不快感をまるで隠そうともしない女性の声。
その後に続くようにしては間へと入り込むその仲間達。
瞬く間に出来上がるのは物理的な壁と会話をより困難なものへと変える作為的な距離。
そして流されるようにマリアもまた、その者たちと折り合いをつけては扉の先へと進んで行ってしまった。
ジーナ……。
心の中でその名を呟いては特徴的な青い髪の持ち主を探す。
しかし、ジーナこそ早々に仲間を見つけては既にこの場を後にしており、いくら探しても見つからないことからその事実に思い至るまでジーナという人柄を知るからこそそう時間はかからなかった。
「……」
辺りを見回す。
最初の盛り上がりは嘘のように、人はまばらであとは他人と相容れないといったような顔ぶれだけが自身を含め残っている。
いっそのことここに残っている者たちで新しくパーティーとやらを組めばいい。
そう思えたならどれだけ楽だったか。
「アイギス」
眠りを妨げるようで申し訳ない気もするが、それでも話しておくべきだろう。
「リン」
こちらの呼びかけに答えるように目を覚ます。
しかしそこには今まで眠っていたとは思えないようなしっかりとした口調が伴っていて――。
「ん?」
そこに意味があると気付いたころにはそれまでの自身の疑問など最早どうでもよくなっていた。
「これで、自由?」
相変わらず言葉少なと言わざるを得ないが、それでも言いたいこと、伝えたいことは不思議と理解出来てしまう。
「アイギスは……これで、良かったのか?」
何となく気になって、それで質問に答える前に質問で返してしまう。
「リンは?」
「……どうだろう?」
「好きにしていいんだよ?」
アイギスは言う。
もう縛る者も振り回す者もここにはいないと。
でも――。
「……守りたい、かな」
気が付くとそう、どこからともなく言葉にしている自分がいた。




