50、初めの第一歩
……。
白い。
何だ。
またここか。
……。
何をやっているんだろうな……。
自分は。
……。
何か言いたい事でもあるんじゃないか?
……。
神だというのならマリアを呼んでもらえないかな?
……。
そうか。
守れなかったか。
約束も、何もかも。
……。
……。
……。
リン。
……。
リン。
……。
リン……?
……。
リン、おきて。
……。
…………アイギス?
光。
輝きを増す光。
染まる視界。
戻る世界。
白紙――。
「……来たか。お前が最後だ。さっさと選べ」
目の前の男は言う。
それはいつの日か見た光景。
はっきりと思い出す事は出来ないまでも、それは確かに過ぎ去った時間。
荷物をこちらへと押し付ける男。
受け取る自分。
最初から決まっていたかのようにスコップを手にする。
それから幾許かの支給品を袋へと詰め込む。
「よし。では下がれ」
男はこちらに促す。
そこで初めて後ろを向いた。
端から自然と顔を確かめて行く。
違う。
違う。
違う。
ジーナ。
違う。
マリア。
サラス。
アイギス。
全員の顔と名前が一致する。
足を向けたのは隅に佇むアイギスの下。
不思議な事に目線が合う。
人々の合間を縫っては正面に。
話しかけようとして、男から声が上がる。
「お前たちは一度死んだ。だがこうしてここに存在している。それは何故か。この世界の平和という均衡を保ち、またそれに連なる者たちを守るためだ。――戦え。そして魔王を倒せ」
聞いた台詞だ。
一言一句合っているかは分からない。
ただ同じような事を自分は耳にしている。
アイギスの正面から逸れ、横へと並ぶ。
「後ろの扉の向こうには馬車が用意してある。行先はモンスターの住処である森だ。死にたくなければ仲間を見つけてパーティーを組め。そうして準備が出来たものから行くと良い。お前等の武運を祈る」
男は言い終わるとその場に微かな明かりを残して霧散する。
思い返す。
前回はここで寝たわけだ。
だがこの後にもサラスたちから聞く限りでは話が続いていた筈だ。
「お前達には冒険者としての身分を与えて置いた。新たにスキルの使用も可能になっている。ただし使い過ぎれば身を滅ぼすものと知れ」
何処からともなく部屋に反響した声が止む。
静まり返っていた周囲に困惑と動揺が広がる。
そして喧噪。
騒がしさを増していく。
それは置かれた現状を紛らわすためでもあり、同時に身を護るためでもある。
「アイギス」
確かめる様に話しかける。
思いのほか喉が渇いていたためかその声は小さく、若干のかすれを含んでいる。
水筒へと手を伸ばしては潤す。
ともするとお腹も減ってくるというもので。
未だに口を開かないアイギスの横で荷物に手を入れては、干し肉とでも言えるそれと柔らかくはないパンで胃を満たす。
「リン」
見計らったかのように声が帰ってくる。
「アイギス……」
「リン」
それは確認。
お互いがお互いであるという事の証明。
この時点では知らない筈の名前を呼び合う。
それ以上は必要ない。
「あぁ、元気だったか?」
もっときくべきことがあるだろうに、いの一番に口を衝いたのはそんな言葉だった。
「リンは?」
アイギスはこちらの問いに答える事無く、それに聞き返すことで問題ないことを示してくれる。
「ぼちぼちかな」
自身の状態を以前と鑑みるように、握りこぶしを作っては開く。
「よかった」
アイギスはこちらに目線を向ける事なくただ真正面を見据えては言う。
「あぁ」
短く返す。
良かったか悪かったかといえばこうして再び会えたのだからそれは間違いない。
「リン」
「ん?」
「きかないの?」
アイギスはこちらへと顔を向けては伺う仕草。
珍しい。
何と言うか、人間らしい? 可愛らしい? そのような印象を受ける。
「聞いて――」
「君たち。僕らのパーティーに入らないかい?」
遮る様に介入してきた言葉と人。
自然と目線が交差する。
三人。
リーダーであろう男に恰幅の良い男。
華奢だが健康的と言える少女というには大人びて見える子。
以前には無かった出来事だ。
「あー……」
言葉に詰まる。
だが、言い方に困っているというだけで、答えは決まっている。
「どうだい?」
リーダーであろう男は先を急かす。
しかしそれも当たり前であろう。
良いというのであればそれが一番なのだが、ダメだった場合に早い者勝ちである以上、時間の無駄は誰でも避けたいと思うものだ。
「すみません」
その一言を早急に送り出す。
理由などどうでも良い。
それが相手にとって最善であり、同時にこちらがとれる最大限の配慮でもある。
「そうかい。分かったよ。またよろしくね」
丁寧な口調だが、そこからは若干の苛立ちと焦りがにじみ出ているのが分かる。
何よりも早口なのが余裕のない証拠だ。
「はい。こちらこそ――ありがとう、ございます」
言い終わるのを待たずしてこちらから離れていく背中。
どうやら彼らの意識は既に次の仲間候補へと向けられているようだ。
それを見て触発されたというわけでもないのだが、もしもということも考えられる。
「アイギス」
一声かけてジーナたちの下へと行くことを伝える。
「だっこ」
アイギスは当然のように両手を前に差し出してはそれを求めてくる。
特に断る理由も無いため深く考える事もなく行動に移す。
ただ、周囲からは微妙な視線に加えて排他的な言葉が投げかけられることになったわけだが……。
「いこうか」
誰に何と思われようとも気にしない。
これはもう二人からしてみれば普通のことなのだ。
そして、――これから声をかける三人も――。
手始めに、まずはサラスに声をかけてみようと思う。




