126、うってつけの言葉は無いけど
「アンタ、それでどうするつもりなのよ」
情報収集の一環で立ち寄った組合を後に。
外へと繰り出しては確かな当てもなく歩く。
「さぁな」
「アンタバカでしょ」
こちらの適当な相槌にサラスが思うがままの言葉を返す。
「サラスーっ? リンは確かにちょっと抜けてるところもあるかもしれないけどさっ。今回に限って言えば僕らも考えなしにそうしてるんだから人の事言えないと思うよっ?」
「それって暗にリンがバカだって肯定してるじゃない」
「だってそこもリンの魅力でしょっ?」
「……手に負えないわね」
「えへへーっ」
ジーナがニコニコとこちらの腕を掴んでは寄り添ってくる。
「それで、どこに行く気なのよ? 自分で聞いといてなんだけどさ。当ても無いのにちょっと足取りがしっかりとし過ぎじゃない?」
サラスは浮かんだ疑問をそれとなく提示してくる。
「まぁ、当てがない訳じゃない。大体以前居た街で……名前は忘れたが同じような事をしてるからな」
「それは……そうなんだけどさ」
サラスはらしくない。
何と言えばいいか。
口ごもる、というよりも純粋に言いたくなさそうだ。
「……別に、いいたくないなら言わなくてもいいぞ」
「そうじゃない、そうじゃないんだけど……」
「どうした」
「アンタが、その」
「何だ」
「私に気、遣っちゃうでしょ?」
「は?」
「……何よその反応は」
こちらの何で今更という声に後ろから蹴られる。
「リンーっ? ちょっと、ううんっ。すっごく配慮が足りないんじゃないかなーっ?」
「え、あ、うん。ごめん」
「別に。怒ってるわけじゃないし。ただ何でこっちはアンタに気を遣ってるってのに、アンタは私に気を遣わないのかって……あぁ、もうっ! もどかしいわねっ! そうじゃないのよ!? そうじゃないんだけど、アンタにはあんまり……その、正直関係のない事だしさ……」
「何言ってるんだ」
「え?」
サラスの何処かこちらに対して一線引いた態度に少しばかりの寂しさを感じては不思議と考えるまでもなく自然な形で声を発していた。
「家族なんだろ?」
そんなこちらの声に辺りは一定の騒がしさを保っているものの。
自身の周囲からは言葉が失われ、例え一瞬とは言え静寂がその場を支配する。
「……バカね」
「バカだね」
「一生ついて行きます」
「ちょっ、今はそういう流れじゃないでしょっ?」
マリアの言葉にジーナが非難の声を上げる。
「リンさんは馬鹿ではありません」
「い、いやいや、それは分かってるけどさっ?」
「リンさんに任せておけば問題ありません」
「う、ううん……実際そうだったりするから何とも言えない……」
「良い意味でバカね」
サラスは結局はと纏めるように言う。
「リンさん」
「ん?」
マリアが話は変わりますがと背中越しに語り掛けてくる。
「一応の話として現状を正しく把握しておいてもらいたいのですが」
「うん」
「聞いてもらえますか?」
「うん」
「では、……誰が話しますか?」
マリアは問いかける。
それは実際には自分で話すという事も可能であるということを踏まえた上でのことで。
この場にはもっと相応しい人物がいるのではないかと。
それでもいいのかというある種の思いやりから、決して強制ではない選択の機会を設けるに至り。
選ばないという選択もまた選択ではあるのだが、選んだという結果があればこそ納得も出来るというもので。
後悔しないためにもその過程というものがあるのとないのとでは決定的なまでに違いがある。
そして、それが今一体誰に向けられているのかという話なのだが。
ここまでお膳立てされているとなると、流石に何も知らない自身でさえも察しがつく。
「……異種族よ」
サラスは口を開いては自身で語ることを決断する。
「ただの人身売買ならアンタもやりようがあるかも知れない。でも、今回はそうじゃない」
「……どう違う」
「黒か、白か、ってことよ」
「成程な」
サラスは実に分かり易い一言で全てに説明をつける。
「この世界じゃどうなのか知らないけどさ。相手の振る舞いからしても、これまでの異種族に対する扱いから見ても、たぶん……そうだと思う」
「……確証は」
「それは、まぁ。一応聞いては見たわよ? ただ誰も真面目に答えてくれなかったわ」
「ジーナから見てどう思う?」
「うーんっ……黒でもないけど白でもないかなってっ」
「成程な。関わりたがらないわけだ」
「だから、相手が明確に黒じゃない以上アンタも強くは出られないわよって……どこいくのよ?」
人で賑わう通りを外れて。
路地へと入っては気配を追う。
「あーっ……リンっ? いいけど、その……あんまりやりすぎちゃうとこの街にいられなくなっちゃうかなーって……」
ジーナは相変わらず察しが良い。
こちらの意図を理解してはそれとなく意見してくれる。
「大丈夫。……だと思う」
「リっ――リンっ?」
「策が無いんですね?」
「ついでにいうと考えも無い」
「それって、えっと、えっと、えーっと……すごくまずいんじゃないかなっ?」
「私が」
「分かった」
「ちょ――説明ぐらいしたらどうなのよ!?」
サラスの声が路地裏に響く。
そうして、決して綺麗とは言えないその扉の前へと辿り着く。
「アイギス」
「なに?」
「腕から――」
「やだ」
「……そうか」
下ろそうとした手を止めてはそのままの流れで扉へと手をかけた。




