125、一匹いたら
「なにこれ」
横で。
サラスが一枚の紙を手にしては疑問を言葉に。
「目が三つって化け物じゃない」
率直な意見を並べてはこちらへとその問題の紙を突き出してくる。
「サラスーっ? その言い方はないんじゃないかなってっ。メデューサ? 本当にいたんだねーっ」
ジーナがなになにっと顔を並べては、事の詳細を簡単に把握していく。
「アンタのところじゃメデューサっていうの?」
「うんっ。あ、でも、魔女とかって呼ばれたり? してるのも聞いたことあるかなーっ?」
「魔女、魔女ねぇ……」
サラスは確認するようにして紙の正面を再び自身へと向ける。
「魔女ですか。奇遇ですね。私も一部の者たちからそう呼ばれている時期がありました」
その声はすっかり元気になったマリアから上がったもので。
結局何が原因だったのかはアイギスにも分からないらしく。
それでも治ったという事実からして何かしらの病気ではあったと思われるのだが。
最早過ぎてしまったことを今更どうこうしようという気にもなれず。
ただ、過去の教訓として薬をいくつか常備するようになったという程度の変化は自身等に確かなものとしてもたらしている。
「あら、そうなの? 先に言われちゃったけど私もなのよね」
サラスは偶然ねと自然な流れでマリアに続く。
「サラスさんも、ですか」
「ふふっ、その言い方じゃお互い良い意味じゃなさそうね?」
サラスはマリアと顔を見合しては、けたけたと何やら軽快な面持ち。
「はい。私の場合は主に畏怖からですが。その、少しばかり無茶をしていた時期がありまして」
「なになにっ? マリアの荒れてた時期? 気になるわねー?」
「ちっ、違いますっ。そっ、そういうそのっ、思春期とかではなくてですねっ?」
マリアは主に端を発したサラスではなく、こちらへと顔を向けては誤解しないで欲しいと訴えかけている。
「大丈夫。心配しなくても誰にでもそういう時期はあるよ」
「リっ、リンさんっ」
マリアはこちらの軽口に一歩距離を詰めてはそういうことじゃないと同時に言葉の上でも詰めてくる。
「おい」
そこに。
突然後ろから声を投げかけられては男が一人。
道を開けるようにとその声で以ってこちらへと促してくる。
「あ、あぁ、済まない」
全員で一歩引いては掲示板の前から遠ざかる。
「違う。それだ。そこのエルフが持ってるやつだ」
男はサラスを指差してはその手に握られた紙切れを寄越すようこちらへと要求する。
「は?」
だが、サラスはそれの何が気に入らなかったのか。
見るからに男に対して反抗的な態度を示してはあからさまに不機嫌な口調で声とする。
「あ?」
対する男も引かない。
やるならやるぞと徹底抗戦の構えだ。
「あー申し訳ない」
険悪な雰囲気が漂い始めたその場に収拾をつけるようにしてはまず謝罪。
サラスと血気盛んな男との間に割り入る事で眉間に寄ったしわを可能な限りなだめていく。
「サラスーっ、そんなの渡しちゃいなよーっ」
それを。
更にジーナが取り持つようにしては解決へと手際よく誘導。
しかし、自身からしてみればこれ以上ないと言える助っ人に対して。
サラス、ではなく。
男が用いた選択は――。
「……女相手だからと。今更言い訳でもしてみますか?」
マリアは淡々と。
顔色一つ変えることなくジーナへと振るわれた男の腕を掴んではそう告げる。
「な、ななな何でぼくいまなぐられそうになったのかなっ!?」
言いながら逃げるように。
こちらの背中へと回り込んだジーナが純粋な疑問としてその場へと投げかける。
「アンタが煽るような真似するからでしょ」
それはサラスの言。
「えぇ……そんな、ぼくおかしなこといったかなぁ?」
ジーナは納得できないのか。
答えを求めるようにしてはこちらの背中越しに男の様子を窺う。
「うるせぇ……」
だが、男が示した反応はその短く小さな一言のみで。
「マリア」
「はい」
男から手を離してはジーナと同様にこちらの後ろへと位置を取るマリア。
「サラス」
「いやよ」
「サラス」
「なんでよ」
「サラスさん」
「まって」
紙切れ一枚渡せば済む話であろうに。
渋るサラスを前にして、ジーナが何やら意味ありげな声を上げては制止する。
「ジーナ」
「うん。何か……何だろ……この感じ……。知ってる気がするんだけど……」
ジーナは思い出せないと考えこんでは口を噤む。
「……商人よ」
それに、サラスが答えを出したのはいいのだが。
「あぁ……うん。そうだね」
「クソの中のクソよ。こんな奴に協力何てする必要ないわ」
「意味はともかく言葉が汚いよ? サラスっ?」
ジーナとサラスは既に意思の疎通が出来ているのであろうか。
まるで事態を飲み込めていないこちらをそのままに話を進めて行く。
「いいのよ。というかやっぱりどこにでもいるものなのね。こういう連中」
「うーん……、需要と供給。やっぱりそういうことになっちゃうのかなぁ」
「どうでもいいけど、叩けばいくらでも埃が出る連中よ? 良い金づるになったりしないわけ?」
「どうだろ。ねぇ、リンっ?」
「ん? んー、どうなんだ?」
ジーナの問いかけに対して確かな返答を持ち合わせているというわけでもなく。
適当な言葉を返すぐらいならばと幸い聞けば答えてくえるかはさておいて、知っていそうな者は目の前にいるわけで。
「……お前等……」
「その人を品定めするみたいな目つきやめてくれるかしら?」
サラスが言わなければ自身が言っていたであろうことを誰よりも早く本人が口にする。
「フッ……」
男は笑う。
そうして一方的に話は終わりだと言わんばかりに背を向けることで終止符を打つ。
「……ホント、あんなのばっかりよね」
サラスは諦めにも似た感情と同時、呆れからかぽつりとそんな声を漏らす。
「まぁ、うん。とりあえずこれからどうするのっ?」
ジーナは気分を一新するように話題も一気にがらっと変えてはいつものように笑顔を形作る。
「説明は……されないのですか?」
マリアはジーナの思惑とは裏腹に。
流れに逆行するようにしては問いかける。
「うん……リンが心配しちゃうだろうし……」
ジーナはこちらの背中に額を押し付ける様にしてはそれ以上詮索して欲しく無い旨を示す。
「ですが……」
マリアはそれでも引くかどうか、いや、退けない理由が出来てしまったようだ。
「まぁ別に数いるうちの一人だし。どうなったところで誰も気にしないと思うけど」
「私は……」
「でもとりあえずこの街に来た理由を思い出すのが先かもね」
「それは……はい」
「急ぎってわけでもなくはないけど、まず目的を果たしてから行動に移しても遅くはないんじゃない?」
「はい……」
「相手の目的も何となくだけど分かってるわけだし」
サラスはその手に持った紙切れを目の前に掲げて見せる。
「はい……」
しかし返ってくる声は非常に弱弱しく、されど確かな意思を持った如何ともし難いもので。
「ジーナっ」
たまらずと言った具合にサラスはその名を呼ぶことで助けを求める。
「いいけど、僕は別にどっちでもいいよっ?」
「いいからっ、何とかしてよっ」
「リンっ?」
「ん?」
ジーナがくるりとこちらの目の前へと躍り出てくる。
「アイギスはどうなのかなっ?」
「アイギス」
こちらとは離れた場所で組合の食事に舌鼓しているその者へと声を飛ばす。
「なに?」
口いっぱいに頬張っていたそれらをごくりと飲み込んでは簡素な返事が戻ってくる。
「急ぐ?」
こちらも合わせるように、聞いてはいなかったであろうがその内容について特に説明することなく簡単な問いで済ませることに。
「ううん?」
「決まりだね」
アイギスの返事によっておおまかながらも今後の方針が決定した。




