121、口から出任せ 手間いらず
「何で治療で治んないのよ……」
サラスは行き場のない苛立ちからか、何故かこちらを睨みつけては悪態をつく。
「うーん……多分、だけど……心因性の病だからじゃないかなぁ……?」
エルフたちなどお構いなしで街へとすっ飛ばしては宿の中。
その答えにいち早くたどり着いたのは他ならぬジーナだった。
医者に診せることをマリアが拒否し、それならばとある程度の心得があるというジーナが診る事になったものの。
結果としては言葉の通り。
心因性の発熱、それに伴う一種の風邪のような症状。
言ってしまえば倦怠感に関節痛と正にその初期段階で見られる症状そのままのもので。
そんな中、ジーナは冷静にも現状を把握、整理し。
治療が効果を示さないことから仮説を立て、心因性のものだからではないかとたちまち結論付けたというわけだ。
「心因性って……何か原因があるんでしょ?」
「うーん……どうだろう……。割と本人がそのことに気付いてないことも多いし、気付いてたとしても本人が話したがらないことにはどうしようもないし……」
「聞いたの?」
「ううん。今はそっとしておいてあげたほうがいいと思ったから。何も」
「まっ、そうね。体調崩しちゃうくらいだもの。少し休んだ方が良いわ」
「うん。意外と時間が解決してくれるなんてこともありえない話じゃないし」
「見立てじゃどのくらいで良くなりそうなの?」
「うーん……長引くことも考えられるけど、現状がずっと続くってことは無いかなぁ」
「ってことは、悪くなる可能性もあるわけね?」
「うん。現状ね」
「半々ぐらいかしら?」
「そこまで悲観的にならなくても良いと思うよ?」
「あら、そう?」
「うん。きっとすぐよくなるよ」
「ならいいんだけどね」
サラスはどことなく安堵した表情でジーナと顔を見合わせている。
それから――。
「ちょっと、いい?」
五日が経過。
未だに変わらない調子で床へと伏せつづけるマリアを横に。
サラスから何やらこそこそするようにしては部屋の外へと連れ出される。
「何だ?」
マリアだけでなく。
サラスまでその様子を変化させては真剣な眼差しをこちらへと向けている。
「そのさ……。私、気付いちゃったんだけど」
サラスは一人。
事の真相であるとしながらも、どこかしらそれを信じきれない部分があるのか。
言葉にすることを憚るようにしては若干の不安をその表情へと滲ませる。
「どうした」
「あ、あのさ……きっと嘘だと思うかもしれないけど……」
「内容次第だな」
「でもきっと、その名前、聞いたことはあると思うの」
「保証はしかねるな」
「だから……その、笑わないで真剣に聞いてくれる?」
「あぁ」
「その……ね? 恋煩い……じゃないかって、思うんだけど……」
サラスは途切れ途切れでありながらも。
自らの考えを再度自身で確認するようにしては、同様に。
最早疑問ではない一つの答えとしてその真偽を投げかけてくる。
「成程な」
何となく自身の知るそれと症状が類似しているようにも感じる上に、そうだと言われればその様な気がしてくるから何とも言い難い。
それにしても恋煩いか。
病気であるかと問われたら疑問符が浮かび上がってしまうだろうが、患う、という意味で言えば正にその通りで。
「ね? それっぽいでしょ?」
サラスは思ったよりもこちらの反応が良い事を察知してか。
同意を求めるように先を促してくる。
「そうだな……だとすると、どうなんだ」
「え?」
「治療法……いや、解決策か」
「あ……そうね……うん。考えてなかったわ」
サラスはいつも通りにあっけらかんと言い放つ。
だが、それでも素直であるが故に清々しい。
そう感じさせるものがサラスにはあるようで。
「相手は?」
とりあえず分かりそうなところからと。
そんな質問を議題に上げては、同時に自身でも考えを巡らせていく。
だが。
「いやいや」
サラスはこちらの正気を疑うようにしては呆れたと見据えてくる。
「分かったのか?」
「アンタでしょ」
サラスはよくもまぁそんなことが言えるなと思ったものの。
よくよく考えるまでも無く、マリアはそれなりに自身の傍に居て。
行動を共にしていないことの方が少ないといえば少ないと言える程に単独で何かをしているというのも見た事がない。
だが、まぁ、それはそれ。
あくまで自身が知っている範囲で言えばそう言えなくもないというだけの話であろう。
「根拠は?」
「アンタ以外に男なんていないでしょ」
サラスは平然とそれが普通のことであるようにつらつらと述べる。
反論したいところだが、それに値するほどの理由がまるで思い浮かばないが故に。
「……サラスやジーナという可能性もある」
何を言っているんだ。
自分ながらにそう思うも口にした以上最早止まる事は許されない。
「なくは……ないわね。うん、私ってほら、同性からも結構モテたし」
何と言う救いの手、そう呼んでよいものか。
良く分からないが、ともかく相手がサラスで良かった。
「ならその線でまずは検証してみるか」
「アンタの方が濃いでしょ」
「お前の方が魅力的だろ?」
「は?」
「いや、どう見てもお前の方が魅力的だろ」
「……何?」
「え?」
「いや……うん。無かったことにする?」
「それは……願ったり叶ったりだな」
突然のサラスからの提案。
断る理由も無いので深く考えずに承諾する。
「……で? どうするのよ」
サラスは結局のところという過程を無かったことにしたため。
結論を出す以外に後先というものはなく、こちらも当然それに賛同する。
「対処としては二つか?」
「どう二つに分けたかはしらないけどさ。マリアを悲しませることだけはやめてよね」
サラスはそれだけは守るようにとこちらに忠告する。
勿論、こちらもそのつもりではあるものの。
確かに、と。
治ったところで傷を負わせてしまうというのはこちらとしても望むところではない。
「なら、一つだな」
「ちなみに……捨てた方は何だったわけ?」
「興味を無くしてもらうというやつだな」
「好きの反対は?」
「嫌い」
「つまりそういうことでしょ」
「そういうことだな」
「最低じゃない」
「最低だな」
「どうすんのよ」
サラスは壁に背を預け。
目線を横に流してはこちらへと向ける。
「どちらにせよ解消することが近道のように思える」
「方法は?」
「満たす」
「……まぁ、それが一番でしょうね」
サラスは空へと視線を彷徨わせては納得を示す。
「具体的にはまるで分からんがな」
「それはそれ。うちには専門家がいるでしょ?」
サラスはニヤリと笑みを浮かべては扉へと手をかけて見せる。
「ジーナか」
「そっ」
そうしてゆっくりと開け放しては。
そんなわけないじゃんっと。
いい大人が二人して怒られることとなったのはそれから数分後の出来事だ。




