120、禁則事項
「サラスはさ。きっと待ってるんだと思う」
ジーナは断言しない。
そう、ただ、憶測であるという前提で。
自身はこう思っているという、あくまで自分の考えだという構えを崩さないように。
「マリアはサラスのことを幸せになってほしいって言ってたけどさっ。それは思ってるだけじゃきっと伝わらないよ」
「それは――そうでしょうか……」
マリアは良く分からないと疑問を滲ませる。
「行動で示すことは出来てもそれは相手の受け取り方次第。自分の自己満足を押し付けることが正しいかどうかはやっぱり言葉にしてみないとお互い分からないまま。確かめることだけが正解とは限らないけど、それでも後悔しないためには、どんな言葉でも、言葉にならなくても、それでも言葉にすることが大事なんじゃないかなってぼくは思うんだ」
ジーナは言う。
言葉にしないことは必ずしも悪い事じゃない。
けれど、そこで言葉にしてこそ思いというものは伝わるのだと。
「上手く……伝えられるでしょうか……」
「それは分からないかなっ。だってっ、伝えるって難しいもんねっ?」
ジーナは明るく。
おどけるように振る舞ってはこちらへと顔を向ける。
「そう……ですね。はい」
マリアと目が合う。
そして表情が少しばかり和らいでは緩やかに。
納得の意思を示すとともにジーナと目線を交わしては朗らかに笑う。
「どっかの誰かさんは、ぼくのことを言わなくても分かる嘘発見器か何かと勘違いしてるみたいだしねーっ?」
こちらに顔こそ向けてはいないものの。
それははっきりとこちらを名指ししていると言っても過言ではないもので。
「そんなつもりは――いや、ごめん。言い訳だね」
「えーっ? 何で謝るのかなーっ? もしかしてどっかの誰かさんってリンのことなのーっ?」
ジーナは目線と共に悪戯な笑みを浮かべ。
マリアと再び目線を交わしては楽し気に笑う。
「ちなみに、私にも苦手なものはありますからね?」
マリアはこちらをちらと目線で指し示しては。
あくまでジーナ相手に話をしているのだと強調するようにこちらから視線を戻す。
「えーっ、マリアって何でもやればできる子だと思ってたーっ」
ジーナがとことん合わせるように相槌を打っては大袈裟にその先を促す。
「それはっ――その、えっとっ」
「マリアーっ?」
「どこかの誰かさんのことですねっ!?」
マリアはジーナに背中を押されては。
吹っ切れたように、されど顔を真っ赤にしてはこちらを見つめている。
「ご、ごめん」
こちらとしてはここまであからさまだと謝る以外に言葉も無く。
「あっ、いっ、いえっ、そのっ――」
「あれれーっ? 何で照れてるのかなーっ?」
「あ、い、いえ、そっ、その、えっと――」
「マリアの苦手なものなーんだっ? はいっ、リンっ?」
マリアからプスプスと煙が出始める前に突如として始まったのは謎々。
出題者は答えるまで、というよりも当てるまで帰してくれなさそうなとてもいい笑顔をこちらへと向けている。
「え、えーっと……」
それで考えてみる。
マリアの苦手なもの、苦手なもの。
――運動?
初めて会ったときから運動神経の良さは頭一つどころか二つも三つも飛びぬけている。
――勉強?
読書をしている姿から見てもそうは思えない。
――食べ物?
野菜、肉、魚。
穀物に、まぁ色々。
好き嫌いなく、栄養補給の面が大きいように感じられなくもないが。
それでも甘味やその土地でしか食べられない名物、特産品などを美味しそうに食べていた姿が記憶に新しい。
――生き物?
虫、虫……虫……。
ジーナやサラスが騒いでもマリアは淡々と処理するような気がする。
だが、確証はない。
故に。
まずはここから攻めて行くことにする。
「虫?」
「ぶっぶーっ!」
ジーナは何故か服に手を掛け止め具を外す。
「ジーナ?」
「リンが間違えるごとに一つずつ外れますっ」
何という笑顔。
そして何という事実。
「ジーナ」
「リンが当てればいいんだよっ?」
流石と言うべきか。
こちらが指摘するまでも無く先回りしては屈託ない笑顔を浮かべているジーナ。
「で――」
「言い忘れてたけど時間経過でも外れるからねっ?」
二つ目の止め具へと手を掛けては有無を言わせないと問答無用だ。
でも、と言いかけた口が静かに閉じる。
「……何か。手がかりが欲しい」
そこで当てることを念頭に、強制的に終了する事も考えながら問いに対する向き合い方を少しばかり変えて行く。
「ふーんっ、やる気になったんだっ?」
ジーナは止め具から手を離しては顎に人差し指を当ててどうしよっかなーっと考える素振り。
「マリアはどう思うっ?」
間もなくして。
ジーナは本人の意思を尊重する構えを示しては声を掛ける。
「えっ、えっと……その……」
対するマリアは何とも言いにくそうに。
未だ若干の熱を帯びているのか。
頬を赤く染めたまま――。
「む、虫なんです……」
そう口にした。
「……ジーナ」
自分でもそんな目をジーナに対して向けることになるとは思いもよらなかったが。
きっと、ジトっとした、まぁそんなことだろうと思っていたよという目をしていたと思う。
「……てへっ?」
ジーナは可愛く舌を出しては茶目っ気たっぷりに。
「よしよし」
とりあえずこちらが出来る事と言えば頭を撫でることぐらいだ。
「え、えへへ……」
ジーナは表情を隠すようにしてはこちらへと寄りかかってくる。
「……マリア?」
そこで。
そういえば何で虫が苦手なんだろうと理由を聞いてなかったことに気付いて顔を向けたまでは良かったのだが。
「は、はい……」
照れからくる紅潮だと思っていたそれは。
「ジーナ」
「な、なにっ?」
声に熱を持たせ。
明らかに身体の不調を知らせるものへと変化を来していた。
「マリアの様子がおかしい」
そうして道中、再びマリアは倒れた――。




