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4 男の闘い

 ジンヤ。あなたがそんなに寂しそうに私を見るのは久しぶりね。

「また人を殺したのか」

 ええ。それが私の役割だからね。

「辛くは無いの?」

 そうであれば、とっくに辞めている。

「お母さん、あなたにはメフィストの妻だった経歴が、入れ墨の様に人生に彫り込まれています。それなのに、また争いの場に身を投じるのですか」

 私の人生よ。私の好きに生きる。

「お母さん、それでもお母さんは僕のお母さんなんだ。魔に染まった血肉を抱えて、生き続けるしかない」

 そんな大袈裟な言葉を使わなくても良い。私の人生だからね。

「僕は人にすらなれなかった。メフィストの息子として、永遠に闇の中で生き続けるしかないんだ」

 良いじゃない。あなたの人生じゃないの。

「お母さん」

 何?

「生きてね」


 夢から覚めた天野真利愛は、天井を見上げる。全く、夢に出るくらいならば、現実に出て来ても良いではないか。そのくらいサービスしても、罰は当たらないだろう。

 メフィスト、ジンヤ、彼女の愛した者は悉く去って行く。それも仕方が無い。純度100%の「戦士」である真利愛に、毎日付き合えと言われたら、誰だって逃げ出すだろう。

 ベッドから身をあげる真利愛は、何もない部屋、文字通り食って寝る為だけのアパートにて、唯一の文明の利器、スマート・デバイスから情報を得る。

「惑星「ベンストーレ」が、「地球」の子供の密輸入ルートの構築を目論んでいると思われる。他にも応援を呼ぶから、現場を押さえろ」

 何の事はない話だ。これまでも、これからも、幾らでもこんな話は出てくる。異世界宇宙に行って、地球外惑星の人間達もまた、所詮住んでいる場所が違えど同じ人間のする事であると言う事実の証明である。

 ペアを組んでいる坂本辰美に対しても、同じ連絡が来ている筈だ。あいつはあいつで、張り切っている筈だ。真利愛にして見れば、辰美は良くある「夢=努力目標」としている典型的な女だ。しかも、それが「男みたいに戦いたい」と言う、かなりあやふやな動機だ。幼稚だと言っても良い。そう言う夢は6歳だとか8歳だとかで終わらせるものではないのか。

 「男みたいに戦いたい」と言うのは、とても残酷で野蛮な行いである。男がその残酷で野蛮な行いを我慢できるのは、男だからだ。女にその辛さが分かるのか。いや、我慢できるのか。「できる」と「つもり」の間には、デカい溝が掘られているのだ。あのチャンバラ娘はどちらなのか。訓練は済ませられているらしいが、実戦で使えるかどうか。

 修験の見かけ倒しの業か、あるいは殺人剣か。どちらに転んでも、あの娘にとっては辛い話になるに違いない。純度100%の「戦士」である真利愛にとっては、それは実戦で使えるかどうかと言う懸念であって、相手の心配をしている訳ではない。


 S&W M500+ ミリタリーモデルを懐に仕舞って、天野真利愛は街の道路を自動車で走る。助手席には、坂本辰美が座っている。場所は、街外れにある廃校となる予定の校舎である。何でそこが選ばれたのか。理由は1つ、近くには森が広がる山岳地帯があるからだ。そこに宇宙船を隠しておいて、「地球」の子供を密輸入しようという魂胆である。

「子供の密輸なんて、召喚前の「地球」でも珍しくなかったのに、ここでもやるんですね」

「人間、何処へ行っても進歩しないものよ。あなたも、「男らしく戦う」内に、自分の命まで捧げようとは思わないでね」

「大丈夫です、伊達に訓練していませんから」

 「聖刀」を手に持ち、辰美は応える。こんな刀一振りで、如何にかなると言うのか。いや、だからこそ組織・「紺碧」は自分をこいつと組ませたのか。拳銃と刀のペアであれば、何かとやり易いだろう。


 校舎の前まで行くと、入り口が閉じられて「立ち入り禁止」の看板が立てかけられている。天野真利愛と坂本辰美は、その校舎を前にして、そこがまるで要塞の様にも見えていた。

「さて、行きましょうか」

 真利愛と辰美は、有刺鉄線すらない、看板1枚と元から有った校門の扉を越えていくと、中に入っていく。


「……「紺碧の令嬢」だ。しかもあいつは、メフィストの女じゃないのか」

「まずいな、だとしたらすぐ逃げないと。あれと真っ正面から撃ち合っても、勝てないぞ」

「でも、「荷物」はどうする。このまま残していったら、何かと面倒だぞ」

「構わねぇ、皆ぶち殺して、此処に捨てちまえ」

「結構苦労したんだけどな」

「相手が警察だったら殺されずに済むが、「紺碧の令嬢」は平然と殺す」

「あいつら、何様だ……まぁいい。お前の言う通りにしょう」


 校内に侵入した真利愛と辰美は、真っ正面から堂々と侵入していた。意外と寂しいお出迎えになり、2人は1つの疑念を抱いていた。

「もしかして、事前にバレたのかしら」

「バレるも何も、こちらは真っ正面から堂々と乗り込んでいるんだから」

 その先を喋ろうとした時、炎が燃え上がる音と共に、大勢の子供達の悲鳴が聞こえてきていた。体育館近くにて、見張りとして立っていた男2人の身体を500S&Wマグナム弾にて大穴を開けて後に、体育館に入ると、「密輸」しようとしていた子供達を火炎放射器でもって焼き殺しているところに出会していた。


 坂本辰美は、頭をがっくりと垂らして、己の無力さを思い知っていた。「聖刀」一振りでは、世の中は変わらない。今、ここで消化剤にてようやく煉獄の炎から解放された子供の骸の山を前にして、辰美は己の無力さと、「男の闘い」の真実を知り、自分の無力感に押し潰されていた。

 「男の闘い」の本質は、「弱肉強食」であり、「自分勝手」で「理不尽」で「卑怯」な代物である。ヴィランと戦う正義のヒーロー。嗚呼、なんて幼稚な構図を頭から信じていたのであろうか。この世に、純度100%の「悪」なんて居ない。居るのは、「悪」の割合が人よりちょっと多い程度の「ヴィラン」しか居ない。それはそうだ。そうで無ければ、犯罪に手を染めはしないだろう。

 真利愛は、辰美に歩み寄って、「後始末」をしている警官を背にして、体育館にて頭を垂れている相手に告げる。

「あんた、「男」らしく戦えたの? 確かに、盛大に密輸業者をぶった切ったけど、あれで満足したのかしら」

 辰美は、真利愛の顔を見上げる。その瞳には、「悔しさ」だけが滲んでいた。勝てなかった「悔しさ」ではない。守れなかった「悔しさ」でもない。気付かなかった「悔しさ」だ。「男の闘い」の真実を見た、「女」の正直な感想という奴である。一生知らないままでいても構わなかった。いや、知らない方が良かった。

 「女」に「男」の真似事は出来ないと、初めて思い知らされた瞬間であった。あんなの、全然格好良くない。後味が悪くて、恥知らずで、優しさの欠片もない。「勇気」とも「愛情」とも無縁の世界である。あんなものの、何処に憧れると言うのか。

「どうする。辞めるの?」

 これに応えられない辰美に、真利愛は更に言う。

「剣筋は見事、技もしっかりしている。でも、あなたがやりたかったのとは違うのね」

「こんな棒振り一本で、世の中救おうなんて、私、馬鹿でした」

「以前の自分を馬鹿にするのは良くないわね。そう言うのは建設的な考え方ではないわ」

「でも、まだ子供なのに、こんな死に方して」

「私達は人間だから、他人の生き死になんて如何にもならないのよ。あなたは神様じゃないの」

「私は、これからどうすれば」

「やりたい様にやれば良いわ。あなたの人生でしょう」

「……私、まだ戦います。私、まだまだ出来ます。私には、これしか無いんです」

「良いの? 相手は男よ。どんな卑劣な手段だって平然とやるのよ。それは今回学んだでしょう」

「だから、もうそんな事は言いません」

 ここから先、「女」として戦うというのか。それもまた、煉獄の道だぞ。

「良いんです、私には、もうこれしかないんです」


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