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3 メフィストの女

 組織・「紺碧」の上層部は、その初仕事に対して不満たらたらであった。これではまるで警察である。組織・「紺碧」の目的は、こんな草の根運動ではない。もっと根本的な部分での問題解決である。

 結果については良い。だが、こんなのは警察の領分である。組織・「紺碧」の沽券に関わる。上層部は本人を呼びつけて、査問にかけていた。

「何故あんなありふれた事件に首を突っ込んだ。あんなのは幾らあげてもキリが無いのは分かっているだろう」

「君がメフィストに愛された女であるのは知っている。そして、息子の哀しい別れがあったのも知っている。でも、それがこの「雑な仕事」の言い訳になるのか」

 色々と言われたが、天野真利愛はこう言うのみである。

「申し訳ございません、以後注意します」

 査問は結論を出して、すぐに終わった。謹慎も無ければ注意も無く、放免で終わっていた。


 もっと派手な仕事を請け負う団体だと思っていた。巨大ロボットとか、手に汗握る戦闘機同士の戦いとか、色々と夢想してみたが、それは正しく夢想に終わっていた。

坂本辰美は、惑星「ギガントス」の武人より訓練を受けて、自分が長年叶えたかった夢を実現しようとしていた。

 「男」みたいな闘いがしたい。その中で、自分が傷つき、斃れたとしても、そうしたいと思っていた。例えそれで命を亡くしたとしても良い。「紺碧の令嬢」は、他のどんな仕事よりも、自分の趣味・趣向にあっている。そう思って、組織・「紺碧」の門を叩いて、見事合格したのだが。

 坂本辰美は、自分の修行の終わりに渡された「聖刀」を鞘から抜いて、自分に言い聞かせていた。ここから先、どんな目に遭っても、後悔のない人生を送れますように。


 日本、某県の伊座菜市に配属された辰美は、天野真利愛と初めて出会った時の印象を、一生忘れなかった。人間にとって、「個性」ほど要らない物は無い。全部他人や環境からの頂き物であるとすれば、生まれ持っての「才能」と言うのも嘘である。つまり、「人間」と言うのは様々な色の混ぜ物だらけの粘土細工の様な存在であり、「個性」も「才能」も、最初からあるものではなく、後から周りから付け足されたものに過ぎない。

 しかし、此処にいるのは純度100%の「才能」であった。後から付け足されてきたものを、意図的にちぎっては捨て、ちぎっては捨てを繰り返して、此処にいるのだ。100%の「戦士」が、此処にいた。持っている拳銃もデカい。こんな物を好んで使うのは、矢張り「戦士」だけだ。兵隊や警官であれば、もっと実用性の高い、無難な武器を選択する筈だ。

 自分に、彼女の相棒が務まるだろうか。純度100%の「才能」と言うのは、それだけで他人を遠ざける。先述の通り、人間味と言うのは色々な頂き物で出来上がっている。100%の人間は、それだけで嫌われる。

 こう言う時、どうすれば良いのか。坂本辰美は知っていた。「会話」だ。どんな時でも、どんな環境でも、人と人を結びつけるのは「会話」である。

「どうして、「紺碧の令嬢」になったんですか」

「他の取り柄がなかった」

「私は、惑星「ギガントス」で武人の訓練を受けて、男みたいな闘いが出来れば良いなぁって思って」

「幾ら訓練しても、あんたは男にはなれないわよ。地球外惑星でも「倫理的」な事情にて、その手の研究は全面的に禁じられている」

「男になりたい訳じゃないんです」

「じゃあ、女らしく戦えば良い。無理して男らしさになんて拘らない事ね」

「因みに、どうして真利愛さんはそんな大きな拳銃を使っているんですか」

「これさえあれば、どんな力自慢も黙らせられる。どんなに修行しても、弾丸を喰らって生き延びる奴なんていない」

 うーん、こいつはやっぱり純度100%の「戦士」だ。自分はせいぜい28%と言ったところだ。35%程度の「女」も混ざっている。この天野真利愛は、「戦士」の才能が100%だ。 


 「聖刀」。それは、惑星「ギガントス」にて長年の歴史を持つ戦士、「ジュライデン」にのみ与えられる、伝統ある武器だ。これを持つ「ジュライデン」の力は、宇宙最強と言われている。ただ、近年は惑星「ギガントス」が戦乱に巻き込まれる事態になっていないので、殺人的な武道と言うよりは、教養としての武道に変わりつつあると言われている。

 この「聖刀」は、惑星「ギガントス」でしか算出されない特殊な鋼が使われており、使いようによっては鉄をも切り裂く恐ろしい武器だ。だからこそ、使う者に対して「ルール」を厳格化させている。無闇矢鱈と「聖刀」を振り回さされたら、「ジュライデン」は単なる人斬り集団として認知されてしまうだろう。

 坂本辰美がそれに憧れたのは、その存在自体が、某映画作品に登場する戦士に酷似していたからだ。ここでなら、自分の夢を実現させてくれるかも知れない。同じ事を考えている地球人の女性はかなり居たが、最後まで修行を達成できたのは坂本辰美だけであった。他には、別の惑星の男が数人程度である。

 そして、この「ジュライデン」ですら、男性社会の一翼を担う組織であると言う事実も叩き込まれていた。パワハラくらい当たり前、なんならセクハラだってよく見かけた。現実にヒーローはいない。現実は映画の様にはいかない。それでも、ここまで修行に耐え抜いたのは、それが世の中を良くするかも知れないと考えればこそであった。

 彼女の夢は、これからだ。


伊座菜市の街は、そこまで酷い地域ではなかった。坂本辰美の産まれた街は、「最高の負担で最低のサービス」と銘打っていた北部の街だ。あの酷い街に比べれば、この伊座菜市は立派な街であった。

 天野真利愛は、日本の何処で育ったのか。1度聞きたいところであるが、聞いても多分ろくな事にならないと思って止める。組織・「紺碧」は、とんでもない女を雇ったものだ。


「あいつ、メフィストの子を産もうとして死なせた、「地球」の女だ。メフィストはどんな趣味で、あんな可愛げのない女を愛して、子供まで作ったのかは知らん。知りたくも無い」

「ただ、今確かな事は、その女が「紺碧の令嬢」として、此処に居ると言う事だ。メフィストと契ったと言う事は、あの女もまた」

「それは良い。しかし、メフィストも悪趣味な奴だ。あんな可愛げのない女の何が面白くて結婚したんだか」

「可愛げないからじゃないのか」

「……良し、真面目にやろう。あの2人の目の届かないところで、事を運ぼう。あの天野真利愛が、本物の天野真利愛であれば、俺達は勝てない喧嘩をする事になる」

「「紺碧」にも、なるべく関わりたくないものです。あいつら、何をするのか分かりませんからね」


 真利愛は、伊座菜市の事務所にて他人の目を感じていた。多分、メフィストの遣いのものだ。あの連中の目と鼻は敏感である。「紺碧の令嬢」として自分が此処に居るのも、すぐに察知しただろう。

 あの連中、まだ宇宙征服なんて目指しているのだろうか。目指すのは勝手だが、その手段として暴力を用いる奴等は迷惑でしかない。やりたけれやれば良いが、その代償はしっかりと受けてもらう。


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