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5 的

「俺、本当は悪魔なんだよ」

 メフィストは、初めての夜の後でそう言った。天野真利愛は、その頃からずっと100%の「戦士」である。真利愛は、男も敵わない女として勇名であった。「敵」と見れば誰であろうと容赦はしなかった。無論、ステゴロなんて下らない美学に拘らなかった。勝つ為なら、椅子だろうと鉛筆だろうと何でも良いから使った。

 「暴力」は最低だ。なんて言われるが、そんなのは言い訳にしか聞こえなかった。大抵の暴力は、我慢の末に振るわれる。態度・言動・行動にて、侮辱して挑発するのが常だ。そして、それは常に強者が弱者に行うのだ。そして、彼女は常に弱者に立っていた。強者は「敵」だ。「敵」に抵抗する権利が、人間にはある。

 気が付けば、真利愛の周囲には誰も居なくなっていた。誰も寄り付かなくなった彼女にとって、一番最初に出来た友達であり、彼氏であり、夫となったのが、この魔王の転生した男と名乗る人間であった。

「俺、本当は悪魔なんだよ」

 そう言うメフィストは、その後に繋げる。

「でも、君は神様だ」

 面白い冗談を言うのなら、もう少しマシな事を言うのでは無いのか。当時はそう思っていた。神様か、その割には人望も無ければ徳もない。一体、何の神様なのか。

「この宇宙の神様さ。その転生した姿が、君の本当の姿だ」

 はは、まさか。宇宙の神様が、こんなに性格の悪い、社会に適合できない、駄目な人間になっても良いのか。

「社会に適合できないのがそんなに悪いのか」

 もしそうであれば、私に生きる資格は無い。死んじゃえば良いんだよ、私なんて。

「死にたいなら勝手にしろ。誰も同情なんてしないだろう。そして、お腹の子供は産まれる前に死ぬ」

 そうしてくれ。私は母親になんかならない。いや、私に母親になる資格は無い。お腹の子供も連れて、私の前から消えてくれ。

「それで良いのか。家庭を持って、愛する人と暮らして、子供と共に自分も成長したいと思わないのか」

 思わない。

「なんで?」

 私には出来ない。私が母親になったら、自分の息子を殺すかも知れない。その逆で、息子の為に人を殺すかも知れない。それなら、魔王のあんたが引き取ってくれ。

「それが、俺とお前の別れる理由か。なら、好きにしろ。但し、1つ、条件がある。名前、息子の名前を言ってくれ」

 ジンヤ。この子の名前は、ジンヤ。

「好きにさせてやる。お前の傍に置いて、闇の中からお前を見守り続けるだろう。ジンヤ。魔王と神の息子だ」

 そうして、いつの間にか、メフィストは消えた。学校にも来なくなり、一旦は大きくなり続けたお腹は、いつの間にかへっこんでいた。その直後に、この惑星「地球」が異世界宇宙へと召喚されたのだ。


 いつの間にか、自分の身体が変わったのは、その前後にてようやく気が付いていた。強くなった訳ではない。ただ、一切歳をとらなくなっていた。19歳の時、高校を留年したその歳から、ずっと身体が変わらない。そうしている内に、西暦は終わり、地球召喚暦が始まっていた。

 組織・「紺碧」のスカウトが来たのは、それから暫く経ってからだ。そこでも、彼女の前世は問題になっていた。

「神が前世の女を戦わせる。そんな事をしても良いのか」

 と言った具合である。それに対する天野真利愛の返答は、これであった。

「私の天職だと思う」

 こうして、「紺碧の令嬢」の第一号として、彼女は組織・「紺碧」に身を置いていた。天職。そう、天職だ。暴力を振るっても許される。自分の前世が「神様」だから? そんなの関係ない。これこそが、今の自分を表現できる瞬間であった。

 「的」と書いて「敵」とも読む。例え相手が誰であろうと、このスミス&ウェッソンの弾丸の裁きを受けてもらうしか無い。それで幸せなのか? と問われると、彼女は必ずこう答える。

「あなたにとってはとても辛いでしょうけど、私にとっては此処しか無い」

 「敵」は全部「的」なのだ。「的」だと思えば、この仕事は天職である。周囲からの、環境からの頂き物、彼女の100%の「戦士」としての要素は、ギフテッドとも言える代物であった。「母親」としての、「妻」としての、「人間」としての要素は、その100%に入り込む余地はなかった。

 独りで背負い込みながら、彼女は生き続けた。召喚されてからも、彼女のアパートの部屋にはスマート・デバイス以外のものは何も無い。人並みのベッドがあるだけだ。神様の化身は一人きりであった。友達も居ないし、仲間もいない。家族だって逃げた。逆に言うと、友達も仲間も家族も、必要としなかった。いつ、「敵」になるか分からない存在である。人間になれたら。そう思う日は、1日だって無かった。


 ジンヤは、闇から自分の母親の背中を見守り続ける。そこで生きるのが、そんなに楽しいのなら、それで良い。でも、辛いと思っているのならば、今すぐ止めるべきだ。自分の母親の為に、ジンヤは祈ろうとする。しかし、祈ろうにも、肝心の「神様」があれでは、誰に祈れば良いのか分からない。

そこには、「神様」と言うよりは、他人との付き合い方を知らない人間が1人だけで生きていた。これ以上、何を望むまいとして、「的」を撃ち続けている。その背中を見ながら、ジンヤは叫びたくなる。

 辛いのなら、今すぐ辞めるべきだ。他に生き方なんて幾らでも有るのに、どうしてそんな生き方を選んだのか。こんな辛い人生に、何があるというのだ。他人は全て「敵」として生きる人生に、何の価値があるのだ。いや、そこにしか彼女の居場所が無いのならば、それも良い。この世に100%の「悪」が無いのと同じ様に、100%の「正義」も無い。

 せめて、その背中に幸せが見える、その日が来る様に祈るしかない。


 未完



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