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本当にあった異世界の怖い話  作者: ぽてと


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【File.07】未開地の悪徳地主(1/5)

ザァァァァッ……。

冷たく重い雨が、開拓村『グルンヴァルト』の泥だらけの畑を容赦なく打ち据えていた。


「お願いです、ガルド様! あともう半月……いや、十日だけでいい! 麦の収穫まで待ってください! 今この備蓄を持っていかれたら、俺たち家族は、冬を越す前に飢え死にしてしまいます!」


泥水の中に這いつくばり、悲痛な声で懇願する若い農夫のダン。

だが、彼の頭上から降ってきたのは、慈悲の言葉ではなく、容赦のない革靴の『蹴り』だった。


「ガハッ……!?」

「気安く私に触れるな、泥虫が。お前の汚い手で、この特注のブーツが汚れたではないか」


ダンの顔面を蹴り飛ばしたのは、豪奢な毛皮のコートを羽織った恰幅の良い男、この開拓村を支配する地主・ガルドだった。

彼は嫌悪感も露わにブーツの泥を払いながら、周囲を取り囲む武装した私兵たちに顎でしゃくった。


「ダンの家の倉にある干し肉と麦を、すべて没収しろ。税の滞納分だ。……おい泥虫、私がわざわざこんな辺境の泥だらけの土地を開拓させてやっている恩を忘れたのか? お前たちがここで息をしているだけでも、税は発生するのだぞ」

「そ、そんな……! 開拓の税は免除されるという約束で、俺たちは王都から……ッ!」

「約束? はて、そんな紙切れは風で飛んでいったな。このグルンヴァルトのルールは、この私だ」


ガルドは豚のように鼻を鳴らした。


辺境の未開地『グルンヴァルト』。

ここは元々、古くからの精霊信仰が残る深く暗い森だったが、ガルドが王家から二束三文で土地を買い取り、「希望の開拓地」という甘い謳い文句で王都の貧民たちをかき集めた場所だ。

だが、その実態は地獄だった。

ガルドは入植者たちに理不尽な高利で農具や種を貸し付け、借金漬けにして奴隷のように働かせているのだ。逆らう者は、村の周囲を囲む『魔物の棲む森』へと放り出され、「不幸な事故」として処理される。


「ダン。お前には妻と、まだ小さな娘がいたな。……税が払えないなら、その娘を王都の娼館にでも売って金に替えろ。それが親の責任というものだ」

「ふざけるなッ!! 俺の娘を……!!」


激昂したダンが泥の中から立ち上がろうとした瞬間、私兵の持つ槍の柄がダンの後頭部を容赦なく打ち据えた。

泥水の中に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなるダン。


「……チッ。汚らわしい。おい、こいつを『森の奥』へ捨ててこい。最近、ゴブリンの群れが腹を空かせていると聞いたからな。良いエサになるだろう」

「はっ!」


私兵たちがダンの足を引きずり、雨の降る森へと向かっていく。

ガルドはそれを冷たい目で見送ると、村で一番高い丘の上に建つ、この貧しい村にはおよそ不釣り合いな『純白の巨大な豪邸』へと足を向けた。


「まったく、この土地の泥と貧乏人どもには吐き気がする。早く奴らを限界まで絞り尽くして土地を売り払い、私は王都で貴族として優雅に暮らすのだ……」


ガルドはそう呟きながら、泥を忌み嫌うように、自分の屋敷へと続く石畳の道を急いだ。


* * *


その数時間後。

雨が上がり、薄暗い雲の隙間から夕陽が差し込み始めた開拓村の入り口に、ガラガラと音を立てて一台の荷馬車がやってきた。


「うわぁ……。すっげぇ泥だらけの村だな。車輪が埋まって進みにくいぜ」


行商人の青年トマは、御者台で泥だらけになった馬の手綱を握りながら、村の惨状を見渡して顔をしかめた。

村人たちは皆、骨と皮だけのように痩せこけ、光を失った虚ろな目でトマの馬車を見つめている。どの家も屋根はボロボロで、今にも崩れ落ちそうだ。


「……おい、トマ」


荷台で雨避けの布を被っていた猫人が、ヒクヒクと鼻を動かし、低く唸った。


「ここは酷いニャ。……村全体から、生乾きの血と、どす黒い絶望の匂いが立ち込めてるサ。しかも……」


猫人の金色に光る瞳は、村人たちの姿ではなく、彼らの足元……『泥だらけの地面』をじっと見つめていた。


「この土地の『土』そのものが、ひどく怒ってるニャ。……古くて、重たくて、深くて暗い怒りだ。誰かが、この森の土地のルールを根本から踏みにじって、泥を冒涜し続けてるサ」


「土が怒ってる……? なんだそりゃ」


トマが首を傾げた、その時だった。

村の入り口近くにある広場で、一人の若い女性が、泥水の中に膝をついて天を仰ぎ、喉が裂けんばかりの悲痛な泣き声を上げていた。


「あああああっ! ダン! あなた! 嘘だ、嘘だと言って! 森に捨てられたなんて……ッ!」


彼女の足元には、幼い娘が母親のスカートを握りしめながら、一緒にボロボロと涙を流している。

ダンの妻と、娘だった。

周囲の村人たちは同情の目を向けながらも、ガルドの報復を恐れて誰も彼女たちに近寄ろうとはしなかった。


トマは、その光景から目が離せなくなった。

理不尽に踏み躙られ、泥の中で絶望に泣き叫ぶ弱者の姿。

それは、彼が「絶対に見過ごせない」と心に決めている、最も許せない光景だった。


「……おい、トマ」

猫人がため息混じりに声をかける。

「お前、また貧乏くじを引くつもりかニャ?」


「……ああっ! 引いてやるよ! 俺は行商人だ! 泥水の中で泣いてるヤツに、希望って名前の商品を安売りしねぇで、何が商人だ!」


トマは手綱を強く引き、真っ直ぐに、泥の中で泣き崩れる母娘の元へと馬車を進めていった。

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