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本当にあった異世界の怖い話  作者: ぽてと


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30/35

【File.06】盗作された吟遊詩人(5/5)

翌朝。

王都は、前代未聞の怪事件の噂で持ちきりになっていた。


「聞いたか!? あの天才吟遊詩人ライル様が、控室から忽然と姿を消したらしいぞ!」

「昨日の舞台の直後だろ? 部屋の中は血の海だったって話だぜ……」

「まさか、熱狂的なファンの誘拐か!? それとも、嫉妬した他の詩人が……」


『黄金の竪琴亭』の周辺は、憲兵団の黄色い規制線が張られ、物見遊山の野次馬でごった返していた。

その野次馬の輪の少し外れで、大きな荷袋を背負った行商人のトマは、首を傾げながら憲兵たちの動きを見つめていた。


「へぇ……。あの金髪の兄ちゃん、失踪しちまったのか。あんなに人気絶頂だったのになぁ」

「……」


トマの足元で、猫人は退屈そうにあくびをし、長い尻尾を揺らした。


「おい、お前。昨日の夜『精算が始まる』とか言ってたよな? まさか、あの兄ちゃんが消えたのって……」

「さあニャ」


猫人は、金色に光る縦瞳孔を細め、素っ気なく答えた。


「俺はただ『他人の命を盗んだ豚が、自分で呼び覚ましたモノに食われる』って言っただけだサ。……まあ、今頃は自分が盗んだ歌の重さを、骨の髄まで噛み締めてるんじゃないかニャ」


「うわ……。相変わらずお前、言うことがエグいな。……でも、一つ気になることがあるんだよ」


トマは腕を組み、規制線の向こう側の酒場を指差した。


「さっき、憲兵が野次馬に話してるのが聞こえたんだけどよ。あの血だらけの控室の真ん中に、『人間の皮と骨で作られた、気味の悪いリュート』が落ちてたらしいんだ。……でも、そんな物騒なもん、証拠品としてすぐに回収しようとしたら、憲兵が手を触れた瞬間に……」


「……」


「その肉のリュートが、まるで生きてるみたいに『ギャアアアアッ!』って、人間の悲鳴みたいな音を出して暴れ出したんだとさ。……結局、気味悪がった憲兵たちが、そのまま封印指定の箱にぶち込んで、王城の地下の遺物庫に放り込んじまったらしいぜ。……なあ、それってまさか……」


トマが青ざめた顔で猫人を見下ろす。

猫人は、ニヤリと悪戯っぽく笑い、口元を前足で舐めた。


「……よかったじゃないかニャ。あの小僧、王城の舞台に立ちたいってのが夢だったんだろ? 形は変わったけど、王城の地下に『永遠に』安置されるなら、本望だろうサ」


「ヒッ……!!」


トマは全身に鳥肌を立て、ブルブルと首を横に振った。


「お、恐ろしいこと言うなよ! じゃあアイツ、死んだんじゃなくて、ずっとあの楽器の中で……生きて、痛みを……」


「芸術ってのは、時に残酷なものサ。……それに、あの肉の楽器が奏でる『本物の悲鳴』なら、深淵で微睡むバケモノも、退屈せずに済むだろうニャ」


猫人はくるりと背を向け、王都の城門へと向かって歩き出した。


「行くぞ、トマ。他人の自業自得に首を突っ込んでる暇はないサ。今日は西の街で、あの薬草売りのばあさんから仕入れをする約束だニャ」

「あ、おい待てよ! ったく、お前といると心臓に悪いぜ……!」


トマは慌てて荷袋を背負い直し、猫人の後を追いかけた。


* * *


王都の地下深く。

光の届かない冷たい遺物庫の奥底に置かれた、厳重な鉄の箱。


その中で、誰の目にも触れることなく安置された『肉のリュート』は、今も微かに震え続けていた。


ピチッ……。

「ア……イタ……イ……」


弦が鳴るたびに漏れる、声にならない絶望の旋律。

他人の人生を盗み、薄っぺらな自己顕示欲で神聖な呪歌を穢した男の魂は、永遠の暗闇の中で、二度と戻らない自分の顔と身体を悔やみながら、終わらない苦痛の歌を奏で続ける。


それが、いつか誰かが再びこの箱を開け、彼という楽器を『本物の天才』が弾きこなしてくれるその日まで続くのか。

それとも、肉が完全に腐り落ちるまで永遠に続くのか。


その答えを知るのは、深淵で静かに耳を傾けている、音楽のバケモノだけである。

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