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本当にあった異世界の怖い話  作者: ぽてと


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11/15

【File.03】盗まれた魔導書の呪い(1/5)

拍手喝采。

王立魔術学院の大講堂は、熱狂的な歓声に包まれていた。


「素晴らしい! まさか失われた古代魔法を独自に復元し、これほど美しい炎の術式を完成させるとは!」

「さすがは名門貴族、ヴァレリウス伯爵だ。我々魔術界の至宝だよ!」


賞賛の雨を浴びながら、豪奢なローブを身に纏ったヴァレリウスは、優雅に一礼した。

端正な顔立ちに浮かぶのは、自信と誇りに満ちた輝かしい笑顔。

だが、彼の内心は全く別の感情でどす黒く塗り潰されていた。


(……馬鹿な老いぼれ共め。チョロいものだ)


* * *


大講堂での発表を終え、最上階にある自身の豪華な研究室に戻ったヴァレリウスは、革張りのソファに深く腰を下ろした。

重厚なマホガニーの机の上に置かれているのは、一冊の分厚い魔導書グリモワールだ。

彼が今日「自分の偉大な功績」として発表した魔法のすべては、この本に記されている。


だが、その緻密な術式の数々を書き込んだのは、彼ではない。

彼の弟子だった、平民出身のうだつの上がらない青年――テオだ。


テオは魔力量こそ少なかったが、魔法陣を構築する理論においては百年に一人の天才だった。しかし、平民であるがゆえに誰からも評価されず、ヴァレリウスの雑用係としてこき使われていたのだ。

そして一ヶ月前。テオが嬉しそうに「先生、ついに完成しました!」とこの魔導書を持ってきた夜。


ヴァレリウスはテオを『野外調査』と称して断崖絶壁に連れ出し、自らの右腕で、背中から彼を突き落とした。


『平民の分際で、偉大な私の業績を脅かすなど許されるはずがない。お前の頭脳は、私の名声のための踏み台として永遠に生かしてやる』


誰にもバレていない。テオは足を滑らせた不遇の事故死として処理され、魔導書はヴァレリウスの「新作」として世に出た。

彼は今や、国で一番の天才魔術師なのだ。


「ふふっ……ははははっ!」


薄暗い研究室で、彼は高笑いを上げた。


コンコン。


「――失礼します、ヴァレリウス様。ご注文の魔法薬の素材をお持ちしました」


ノックの音と共に現れたのは、出入りの行商人の青年と、その後ろを気怠そうに歩く二足歩行の『猫人』だった。


「ああ、そこに置いておけ。代金は秘書から受け取るがいい」


ヴァレリウスが傲慢に顎でしゃくると、行商人は「毎度ありがとうございます!」と愛想よく頭を下げ、荷物を下ろした。

しかし、相棒の猫人は荷物を運ぼうともせず、金色に光る縦瞳孔の目で、机の上の魔導書をジッと見つめていた。

いや、魔導書だけではない。魔導書の上に置かれた、ヴァレリウスの『右手』を。


「……おい。何を見ている、汚らわしい獣人め」


ヴァレリウスが不快感露わに睨みつけると、猫人は鼻をヒクヒクと動かし、忌々しそうに顔をしかめた。


「……ひどい死臭だニャ。最高級の香水で誤魔化してるつもりだろうが、その本……『誰かの血と、ドス黒い未練』を吸ってブクブク太ってるサ」

「なっ……貴様、何をデタラメを!」


ヴァレリウスが立ち上がりかけたが、猫人は全く動じない。

それどころか、憐れむような目でヴァレリウスの右手を指さした。


「それにアンタ。……その右手から、もう『肉が腐る匂い』が漏れ始めてるニャ。他人の命を養分にして咲かせた花は、必ず自分に毒の花粉を撒き散らすサ」

「おい! お前、何言ってんだよ! すみません閣下、コイツ頭がおかしくて……!」

「ええい、不愉快だ! とっとと失せろ下賎な輩め!!」


行商人が慌てて猫人を抱え上げ、逃げるように研究室から退室していく。

静寂が戻った部屋で、ヴァレリウスは怒りに任せて机をドンッと叩いた。


「……忌々しい獣人め。適当なことを抜かしおって」


苛立ちながら、彼は無意識に自分の右手を見た。

テオの背中を押し、崖から突き落とした右手。


「……ん?」


気のせいだろうか。

右手の人差し指の先が、ほんの少しだけ、生気を失ったように『灰色』に黒ずんでいるような……。

いや、ただのインクの汚れだ。そうに決まっている。


「私は天才だ。誰にも邪魔はさせん」


ヴァレリウスは指先の汚れを服で擦り落とすと、再び魔導書を開き、新たな「自身の功績」となる魔法の詠唱を口ずさみ始めた。

彼が無理やり開いた魔導書のページに、微かに『赤黒い染み』が浮き出ていることにも気づかずに――。

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