53話
木漏れ日に照らされる建物を見つめる。
外見はアメリカンカントリーという感じ。おしゃれである。
悠橙先輩が鍵を開け、扉を開いてくれている。紳士!
あたしと姫輝は中へと入って行く。
「わぁ~!」
室内は木の温もりが感じられる。天井も高く、窮屈さを感じない。
思っていたより綺麗である。てっきり、着いた早々掃除をするのかと思っていたのだが……。
「ふぅ~」
息を吐いて荷物を置き、ソファーに座る姫輝。
あたしも荷物を置いて、ソファーに座る。すると、姫輝が悠橙先輩の隙をついて、耳元で囁いてきた。
「トイレはあのドアのところですから……」
「は?」
姫輝の言葉にきょとんとするあたし。そんな私の反応に、姫輝はきょとんとした表情をしている。
「え? さっき、アイコンタクトで『トイレに行きたい!』って伝えてきませんでした?」
あたしはがくりと首を項垂れさせる。再び顔を持ち上げ、姫輝に耳打ちをする。
「……いや、別荘の場所がわからないから、それとなく誘導して欲しいって意味だったんだけど……」
「「……」」
お互いに見つめ合った。
他人との意思疎通の難しさを体験した瞬間である。
***
少し別荘でくつろいでから、お昼を食べに行くことになった。
あたしと姫輝は、二人で別荘の庭の散策をすることにした。正確に言うと、説明ツアーである。まあ、巨大な別荘ではないので、ちょろっと歩いて終わった。
暑さをしのぐため、木陰に入り、話し合う。
「……なんか今の状態で悠橙先輩と一緒にいると、精神をがりがり削られそうなんだけど……」
「まあ、それは私も一緒です。主に梨琴さんがヘマをやらかさないかと、ハラハラしていました」
なんか私の責任みたいな流れになった! まあ、反論はできない。悠橙先輩は梨琴がどのような人物か知らないから、姫輝が梨琴として振る舞ったところで違和感とかは感じないであろう。
しかし、私が姫輝を演じなければならないと話は違う。
今まで一緒に過ごしてきた『シスコン&ブラコン』な人たちは、違いが判る人であろう。
あれ? 詰んだ?
詰みを姫輝も察したのか、自首を促してくる。
「もう白状してしまった方がいいんじゃないですかね?」
「うっ!」
辛い現実に、思わず身体をのけ反らせる。
今まで、現実無視して悠橙先輩との新婚生活を送っていたというのに、暴露してしまったら、距離をおかれてしまうのではないだろうか?
いや、悠橙先輩は優しいし、ワンチャン、これを機に、本当にお付き合いできるのではないだろうか?
混乱して目を回していると、ドアが開く音がした。姫輝と二人で音の方向へ勢いよく顔を向けると、悠橙先輩が出てきた。
「そろそろお昼を食べに行こうか」
「え? もうそんな時間?」
「そうだよ」
あたしと姫輝は、慌てて別荘の中に戻り、外出の準備をした。
姫輝の自転車を借りて、お昼を食べに出かける。ちなみに姫輝はお母さんのを使うようだ。まあ、それはそうか。側が梨琴なのに、姫輝の自転車を使うというのはおかしいよね。ただでさえ疑われているのに。
自転車をこいでいると、木陰が多くて涼しい。『高級なマイナスイオンが出ているのでは?』と感じたので、沢山吸っておく。まあ、気のせいだろうということはわかっているのだが。高級なマイナスイオンってなんだ?
目的地が見えたので、じろじろと辺りを見回す。
軽井沢は木製の建物が目につく。このレストランももれなく木製である。
駐車場や駐輪場はいっぱいで、お店の料理の美味しさをいかにもと表している。
私たちも駐輪場に自転車を停めた。
店名を見ると、店名の一部に『ビストロ』とか書かれている。そんなおしゃれな単語が入るなんて、五つ星レストランですか?
ドレスコードに不安を感じ、姫輝の方に視線を向ける。私が所有している服なので、普通にカジュアルである。
何かと思い、首を傾げている姫輝をほっといて、胸を撫で下ろした。
店内に入り、辺りを見渡す。かなり混んでいて、人気店のようだ。
順番を待ち、呼ばれて席に案内される。
四人席なので、あたしと姫輝が並んで座り、悠橙先輩が向かいに座る。当然、梨琴である姫輝の目の前に座るとおかしいので、あたしの目の前である。
目の前に好きな人がいる。そして、秘密がばれそうになる。歓喜と狂気で情緒が不安定になりそうだ。
メニューを開いて料理を見る。もとい、値段を見る。ビストロのお値段は……カレーライスが1700円だと!?
あたしは選択肢がないことを思い知らされ、そっとメニューを閉じた。
「決まった?」
悠橙先輩があたしたちに聞いてきた。
「あたしは決まったよ」
「私も決まりました」
その返事を聞いて、悠橙先輩が手を挙げて店員さんを呼んだ。なんかデートでエスコートされているみたいでかっこいい! 隣にお邪魔虫がいなければ……。
***
店員が来て、注文を取り始めた。
「信州イチボのステーキフリットセットで」
「は?」
あたしは慌ててメニューを再度開き、姫輝の頼んだ料理の値段を確認する。
(3960円だと……? あたしが頼もうとしているカレーの二倍以上じゃないか! 姫輝が持っているあたしの財布は、このダメージに耐えられるのか!?)
元に戻ったことを青ざめつつ想像していると、視線を感じた。
その方向に視線を向けると悠橙先輩が、にこやかな笑みで注文を促した。レディーファーストってやつですね? 悠橙先輩素敵!
あたしは見栄を張り、たどたどしく注文を口にする。
「お……同じもので……」
姫輝もとい、今現在の所有者のあたしの財布とはいえ、この金額が一食で吹き飛ぶのは怖いものがある。
悲しいかな貧乏故か。いや、貧乏ではないはず! この家族がおかしい!
悠橙先輩も同じものを頼んでいた。
自分だけカレーライスという除け者にならずに安堵はしたけどね。
料理が出てくるまで、しばらく雑談タイム。
姫輝とあたしで、普段のあたしたちの話をした。理由は軽井沢の話題にされると困るからである。姫輝も察しているようで、話はいい感じに流れ、悠橙先輩は聞き役になってくれた。
聞き上手な人で助かった。悠橙先輩が自分の話したいことを話しまくるタイプの人だったら、あっという間にボロが出ていただろう。
会話が弾んでいると、時間があっという間に過ぎて、料理が運ばれてきた。
「「「頂きます」」」
あたしは未知の料理との遭遇に胸を躍らせ、ステーキを噛み締めた。いや、噛み締めると言うと固いみたいに聞こえるかもしれないけれど、柔らかくてジューシーです。
食事を終えると満足げにお腹を擦った。
美味しかったので悔いはない。
食べ終わった私たちは、混んでいることに気を遣って、足早にレストランから出た。
「さてと、お腹もいっぱいになったし、碓氷峠に行って散歩でもしようか」
「「は~い」」
お腹が美味しいもので満たされたあたしたちは、食後の運動に向かうことにした。
***
自転車を颯爽と走らせると、『二手橋停留所』が見えた。
さらに少し進んで、旧碓氷峠に辿り着いた。
自転車を停め、早速歩き始める。
木陰の涼しさと、木漏れ日の温かさが相まって気持ちいい。
遊歩道を歩いていくと、矢ヶ崎川の分流に辿り着いた。そこに架けられた吊り橋を渡ってさらに進んで行く。
段々と標高が上がっていき、南アルプスが見えてきた。浅間山は雄大にそびえたっている。
「おお~!」
心地よい疲労と自然の織り成す景色。普段汚れているように感じる自分の心が洗われるようだ。
森林浴ハイキングを楽しんだ後は、別荘方面のスーパーへと寄り道をした。夕食は自分たちで作るという流れになった。
まあ、その方が心とお財布には優しくて助かります。高校生でありながら、毎食4000円も使えるわけがない。
夕食を食べ終わると、特にやることもないので早々と就寝となった。
***
二日目は、中軽井沢、南軽井沢、軽井沢駅周辺を自転車で回った。
げっそりと良いダイエットになりそうである。
まあ、その分、食べてしまっているのだが……。
別荘を中心に行動しているせいか、比那田さんたちと伊東に行ったときよりも、印象に残る出来事がない。
なんか『食べる』『自転車こぐ』『寝る』という平坦な道を進んでいる感じである。
そう考えると、また比那田さんたちと遊びたい。
できれば、比那田さんたちと元に戻ったあたし、そして姫輝の五人で!
それでも楽しい旅行なのか、あっという間に最終日になった。
帰りの電車で寝ていて目を覚ます。
そっと目を開けると、目の前には悠橙先輩が寝ている。うん、可愛い寝顔である。
右肩に重みを感じてそちらに視線を向けると、姫輝の頭があたしの肩に寄りかかっている。
電車の窓の外を見ると、青空が広がっている。
そんな綺麗な空を見ながら思う。
元に戻ったら、この楽しい日々は失われてしまうのだろうかと……。
いつも読んで頂きありがとうございます。
旅行がざっくりと書いた感じになってしまいました(汗)。
同じようなイベントを重複させるようなことはしない方が良さそうに思いました。
同じような繰り返しになってしまうので……。
その為、軽井沢シーンはさくっと終わらせました。
まあ、軽井沢シーンだけだったとしても、二日目の所に書いたように、同じようなことしかしなさそうなので、書くことがないな~?と感じました。
無理やり観光地をあちこちぶらついても、冗長になりそうでしたし。
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