44話
納得のいかない表情をした姫輝と別れ、帰路につく。
「……ただいま……」
玄関のドアを開けると、去っていた羞恥心が帰ってきた。ちょっと恥ずかしい。
いや、恥ずかしい思いをしたのは実質、姫輝なんだけど、見た目があたしだからね……。
リビングまで気配を消すように進むが、悠橙先輩の姿は見えない。ちょっとほっとした。
階段を上り、悠橙先輩の部屋の前に立つ。
ごくりと生唾を飲み、覚悟を決めてドアをノックした。
「はい、どうぞ」
部屋の中から、悠橙先輩の声が聞こえてきた。先ほどのことは何もなかったかのように。あたしは安堵の息を吐いて、部屋のドアを開ける。
どうやら悠橙先輩は勉強をしていたらしい。まあ、姫輝にも勉強を教えられるから頭がいいんだろうな。努力家だね。そんな素敵な人と再認識すると、胸がトクンと跳ねあがった。
「あの……に~に! お願いがあるんだけど!」
勉強していた手を止め、椅子ごとくるりと振り返る。勉強の邪魔をしてすんません。
「何?」
純粋無垢とも言えるような笑顔で聞いてきた。うっ! 眩しい。あたしの心が汚れて見える。だが、お願いはする!
「えっとね……今度、花火大会に行かない?」
「花火大会? いいよ。二人で行こうか」
あたしは慌てて補足する。いや、二人でもいいけど、計画的には二人では意味がない。
「ひ……梨琴と三人で行きたいんだけど」
「梨琴ちゃん? さっきの子? うん、いいよ」
(『梨琴ちゃん』だって!)
脳内で悶えるあたし。だが、表情には出さない。大概あたしも面の皮が厚い。
せっかくなので確認をする。
「梨琴の名前を憶えているの?」
「? え、うんまあ。姫輝とどことなく似ていて、可愛い子だよね」
ちょっと姫輝にイラっとした。姫輝が褒められた気分だ。
いや、可愛い子ということは外面が可愛いという意味かもしれん。ワンチャン、あたしに惚れる可能性も否定できない。
あたしは先ほど、レストランで調べた花火情報をスマホで見せる。
「この日だけど大丈夫?」
スマホを見せると、覗き込んでくる悠橙先輩。おでことおでこがくっつきそうで恥ずかしい。顔が火照ってくる。いやでも、もっとくっついてくれ。
自分からはくっつけることができず、悠橙先輩はスマホを確認した後、離れてしまった。チッ。
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、そういうことで! 悠……じゃなくて、に~にも浴衣でお願いね。あたしたちも浴衣を着ていくから」
「ああ、わかったよ」
心の中で「悠橙先輩の浴衣姿が見れる」とガッツポーズをした。
いつも読んで頂きありがとうございます。
初稿が完成しているので、毎日投稿できるかとタカを括っていたら、体調崩しました。
久しぶりの投稿です。
今まで、『推敲』という作業をせずに投稿していました。
この作品のかなり途中から推敲を始めたら、作品の質が少し上がったような気がしております。
※当者比
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