42話
「に~に! 助けて!」
リビングにて、援軍に助けを求めに来た。
当の援軍様は、きょとんとした顔をしている。
「えっと……助けてって何?」
できることならここで素直に言ってしまいたい。
「貴方の妹からいじめられています」と。
まあ、そんなことは当然言えないんだが。入れ替わりのことだけではなく、あたしの汚点まで知られてしまう。
「あ、あ~、その、勉強を見て欲しいかな? って」
挙動不審になりながら、お願いをする。
「わかった。いいよ」
笑顔で了承してくれる悠橙先輩。事前に「友達と勉強会をやるから、ひょっとしたら、に~にに教えて貰うかも」とあらかじめ予約をしておいたのが、功を奏したのかもしれない。
「なるべく早く来てね」とだけ残して、地獄の閻魔が待ち構えているだろう自室へと先に戻った。
足取り軽く部屋に戻ると、姫輝がジト目で待ち構えていた。
「……ずるいですわよ。梨琴さん……」
「ま、まあまあ。姫輝だってに~にに会いたいでしょ?」
「それはまあ……に~にに会いたいですけど……」
そう言うと姫輝はもじもじする。
誤解のないように言っておく。この姫輝の態度は、『恋する乙女』ではない。『重度のブラコン』である。
少しすると、救世主がやってきた。これで姫輝にいじめられることはないであろう。そんな被害者面した加害者なあたしだが、まあ世の中そんなもんであろう。
気にせず勉強を続ける。いや、悠橙先輩を気にしながら勉強をする。
時折、わからないところをに~にに聞く。その度に「私に聞けばいいじゃないですか」という姫輝の視線が突き刺さる。天国なはずなのに、地獄でもあるような不思議な気分である。
しばらく勉強を進めて、休憩となった。
「それじゃあ、みんなの分の飲み物を入れ直してくるね」
「に~に、ありがとう!」
「ありがとうございます」
悠橙先輩が席を外した隙に、姫輝の隣に攻め込む。
「ねえねえ、悠橙先輩にアプローチしてよ!」
「なっ! なんでそんなことを!? 私たちは兄妹なんですよ!?」
まあ、正論です。でも、正論を崩します。あたしは仁王立ちになり、ドヤ顔でビシッと指差す。
「今の姫輝は兄妹であって兄妹でないからセーフ!」
「いや、倫理観!」
あたしはどっこいしょと再び座り、ちわわのような表情を作る。
「……あたしの恋に協力してよ……」
うん、まるで某キャッシングローンのちわわにそっくり!
「……実の兄に色目を使えと?」
「おねが~い! 姫輝の恋も手伝うから! あっ! 姫輝様は好きな人とかいますか? いれば言って頂ければ!」
手を合わせてお願いすると、眉間にしわを寄せて、顔もずいっと寄せてくる。
「そんな人は、い・ま・せ・ん!」
「え~、つまんないの」
「学生に恋愛は必要ありません!」
「じゃあ、何が必要なの?」
「勉強に決まっているでしょうが」
「なんで? 勉強だけじゃなくても良くない?」
「『勉強すらできていない』から、今、ここでこうしているのではないですか!」
両手を握りこぶしにして、あたしの頭をぐりぐりされた。
「痛い痛い! すみませんでした!」
そこへ「コンコン」とドアをノックする音が響く。二人で慌てて自分の席で恰好を整える。
「は~い」
あたしが返事をすると、ドアを開けて悠橙先輩が飲み物をトレーに乗せて持ってきてくれた。
おすまししながら配られるのを待つ。いや、姫輝の格好でおすまししても意味ないか。
意味はないが、なんとなく悪い印象は与えたくない。
正直、姫輝の印象を落として梨琴の印象を上げたい。
あたしと悠橙先輩が恋人関係になったとして、ブラコン、シスコンのままでは困る。
まあ、たまには三人で遊んだりするのもいいかもしれないけどね。
視線を姫輝に向けると、コップを置かれて軽いお辞儀をしている。うん、まあいい印象だとは思うけど、距離が縮まる気がしない。
勉強が始まりしばらくすると、あたしはテーブルの下から姫輝の足を蹴った。
姫輝は顔をあげて睨みつけてくる。あたしは合図にウインクを送る。
きょとんとした顔で理解が出来ていない。もう一度足で姫輝の足を押す。背中を押すという意味的に。
そこで姫輝は、はっとしたような顔になり、ふるふると小さく首を振る。あたしは『お願い』と言わんばかりにウインクをする。姫輝は脱力して小さな溜息を吐いた。
「お……お兄様……」
「ん? なんだい?」
悠橙先輩が顔を上げたところで、姫輝は悠橙先輩に向かってパチパチとウインクをする。
顔が真っ赤だよ……姫輝。そして、私がウインクしたのはそういう意味じゃな~い! 他の方法で攻めろという意味だったのだが、そのままの意味でとらわれてしまった。これじゃあ、あたしがおかしな子だよ。
「……えっと……」
ほら見ろ! 悠橙先輩も困惑しているじゃないか! あたしはテンパりつつもこの場をどうにかしなければとフォローを試みる。
「あ、あれだよあれ! 悠橙先輩は人気があるから、ひ……じゃなくて梨琴もに~にのことをかっこいい! とか思っているんだよ! ちょっとした茶目っ気を出しただけだよ!」
うん、フォロー失敗した。実質、自分で想い人に気持ちを暴露した気分だわ。
バツが悪そうに視線を泳がせていると「そうなんだ」と小声が聞こえてきた。
「どうもありがとうね。そう言って貰えて嬉しいよ」
眩しいほどの笑顔に救われた。そして、姫輝はと言うと……。
「あっ、いえ、その……なんかすみません」
顔を俯かせたが、耳が真っ赤になっていた。そりゃまあ恥ずかしいよね。結果的に実の兄に告白めいたことをしたのだから。まあ、させたのがあたしなんだが。
「ちょっと用事を思い出したので失礼します!」
わたわたと帰り支度をする姫輝。あたしもわたわたが伝染した。
「あ、あたしも姫輝を送ってくるね」
「あ、ああ」
きょとんとした表情の悠橙先輩。決して悠橙先輩の笑顔が滑ったわけではありません! むしろ、滑ったのはあたしたちの方です。すみませんでした!
足早に部屋を出る姫輝を追いかけるようにあたしも家を出た。
いつも読んで頂きありがとうございます。
作者的には面白シーン。
読者さんも楽しんで頂けたらと良いなと思います。
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