41話
伊豆旅行が終わり、しばらくぶりの姫輝との勉強会。
理由はあたし……いや、正確に言うと、姫輝が補習を受ける羽目になり、あたしに対する信用が低下したためである。
つまるところ、『宿題をちゃんとやらないのではないだろうか』という、疑惑の目が姫輝から向けられているからである。
場所はあたしが今現在住んでいる、姫輝の家。
「勉強をするなら、場合によっては、に~にに聞けるから」という姫輝の提案である。
その提案に、笑みをこらえながら同意した。鬼姫輝モードになっているので、流石のあたしでも素直には喜べない。
全てにおいて地獄を感じるよりも、少しの天国気分を味わってもいいのではないか? 蜘蛛の糸のお話のように。まあ、あれは結局、地獄に落ちるのだが……あたしも勉強地獄という点では同じか。
自室で悠橙先輩に、手取り足取り勉強を教わっていることを想像して、口からよだれを垂らしつつ、「ぐへへ……」と妄想に耽っていると、インターホンの鳴る音が聞こえてきた。
よだれを袖で拭い、部屋から飛び出し足早に階段を駆け下りる。
姫輝の両親は仕事なので不在だが、もちろん悠橙先輩はご在宅である。姫輝が悠橙先輩に見られる前に、恒例の服装チェック!
インターホン越しに、訪問者を確認して、玄関の扉を開けて出迎える。
特に問題なさそうな格好なので、ほっと胸をなでおろした。
「……おはようございます……下心が透けて見えていますわよ……」
その言葉に、あたしの身体は強張る。
「し、下心じゃないもん! 上心だもん!」
姫輝はため息を吐き、奥にいるに~にに聞こえるように、「お邪魔します」と挨拶をして、家に上がった。
姫輝を先に部屋に行かせて、あたしは飲み物を二人分入れる。
部屋に持っていき、ローテーブルの上に置いた。
姫輝は白いタンスの上に飾ってある、テディベアのぬいぐるみを見つめると、ジト目で一言。
「梨琴さんは楽しい旅行だったようですわね。私は楽しくない補習を受けていましたが……」
姫輝がチクりチクりと、棘のある言葉を投げかけてくる。あたしはわざとらしい作り笑いで、姫輝を宥める。
「あ、あははは。ひ、姫輝とも一緒に、姫輝の別荘に行くんでしょ?」
「それはそうですけど、それとこれとは話が違いますわ」
姫輝は頬をぷく~っと膨らませる。
「まあまあ。姫輝と行く旅行もあたしは楽しみにしているよ」
その言葉に姫輝は呆れ顔になる。
「いえ、そういう話ではないんですが……赤点を取らないで下さいと言う話です」
「そ、それでも、今はあたしが赤点を取っても、あたしが補習を受ける羽目になるだけじゃん」
そう言うと、姫輝は般若のような表情になり、あたしの頭に両手のこぶしをぐりぐりと押し付ける。
「入れ替わりが戻った場合を考えていないのですか?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! すみません! すみません!」
涙目になりつつ、拷問からの解放を求めた。
早速、「二度とこうならないように!」と姫輝は強調した言葉を放ち、それを合図に勉強を開始する。
室内は静寂し、時計の針の音と、シャーペンの芯がノートを走る音だけが聞こえる。
……まあ、赤点常習犯なので、集中力はすぐに切れる。
飲み物を手に取り、ストローを啜る。視線を姫輝に向けると、ふと気になる。「どこら辺を勉強しているのだろう?」と。
「姫輝は今、どこの所を勉強しているの? 二組は五組より進んでいたよね? 二組の方の予習?」
すると姫輝は睨みつけてくる。
「……万全を期すために、五組の復習ですわ」
あたしは蛇に睨まれたカエルのように、動けなくなる。なんとかカエルのように飛び跳ねて、助けを呼ぶことを試みる。
「そ……そろそろ、に~にを呼ぼうか?」
「まだ、早いですわ。文句は言い足らないですから」
「わ、わかった! に~にを呼んでくるね!」
「あっ! ちょ、ちょっと?」
制止する声を聞き流し、姫輝の攻撃から防御壁となってくれる悠橙先輩を呼びに行った。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今回、初めて『感情類語辞典』を推敲時に使用しました。
持っていたけど、ずっと使わずにいました。
理由は使えなかったからです。
最近、「ひょっとして、こう使えばいいのか?」と気づき、試してみた次第です。
『感情類語辞典』に限らず、『語彙力系辞典』は全部同じような使い方で使えそうな?
使えなかったアイテムが使えるようになり、少し成長を感じました。
問題は、初稿の段階の書き方に問題があって、使いづらさがあるというのが課題となりましたが……。
まだまだ未熟ですが、応援や感想を頂けると嬉しいです。




