40話
伊豆高原旅行の最終日。
食事を終えると、あたしたちの客室内は戦場と化した。
「早く荷物をまとめて! バスが来ちゃうよ!」
陶原さんのその言葉で、あたしたちは慌てて荷物をまとめる。
慌ただしくチェックアウトをして、バス停へと向かう。
「バス、行っちゃった?」
あたしの言葉に陶原さんがスマホの時間と、バスの時刻表の時間を照らし合わせる。
「まだ大丈夫みたいだね」
「「はぁ~」」
あたしと比那田さんは、安堵のため息を吐く。運動能力皆無組には、バス停まで走るのはしんどかった。
しばらくするとバスが来て、それに乗って伊豆高原駅まで向かった。
バスに乗り込むと、窓の外の流れゆく景色を眺めながら思う。
(長いようで短い旅行だったな。あっという間に終わったよ。また来年もみんなでこれたらいいな。その時は姫輝も一緒に……いや、この場合、あたしも一緒にってなるのか?)
駅に辿り着くと、電車がちょうど来た。いや、正確にはちょうどドアがしまった。
「「「あっ!」」」
三人の叫び声がハモる。電車は無情にも、出発してしまった。
「あちゃ~、次の電車で帰るしかないね。その間どうする?」
あたしが質問をすると、比那田さんが口を開く。
「お土産でも見ていましょうか」
そして、お土産を見る。二泊三日だが、楽しい旅行であった。
最後のお土産を購入して、駅のホームの長椅子に腰掛けて、今度は電車を逃さないように待つ。
次の電車が来て、あたしたちは乗り込む。
あたしは一番最後に乗り込む際に、ふと背後を振り向き感傷に浸る。
発車のベルが鳴り始めたので、慌ててあたしも席についた。
電車はゆっくりと走り始め、徐々にスピードを上げていく。
楽しかった日が段々と遠ざかる思いがして、少し切なかった。
段々と景色が都会化して行く。それはそれで懐かしさを感じる。
「姫輝に会うのが久しぶりに感じるなぁ~」
身体が入れ替わってから、毎日のように姫輝とは交流があった。入れ替わり以前では想像もできない仲の良さ。
(あああああ! 姫輝に旅行のことを報告したら怒られるかな?)
両手で頭を抱えて身悶える。
「……なにしてるんです?」
比那田さんの呆れたジト目と陶原さんの苦笑い。あたしはその場を取り繕う。
「……いえ……なんでもありません」
そんなやり取りをしながら、東京へと帰り着いた。
解散をすると、あたしはお土産を渡すために姫輝、いや、梨琴の家に足を運んだ。
久しぶりの我が家に着いた。
薄情ながらにも、悠橙先輩に懐き、ほぼほぼ姫輝の家にいた記憶しかない。
インターホンを押すと、しばらくしてから返事が返ってきた。
「はい……って梨琴ですか」
その人物は返事の後、名前を小声で呟いた。
玄関のドアはすぐに開けられ、あたしはその人物の顔を確認すると、こちらも小声で話しかけた。
「姫輝にお土産を買ってきたよ」
その言葉に姫輝の表情は、ぱぁ~っと明るくなる。
「な、なんですかね? 早く下さいよ」
姫輝の催促に、あたしは苦笑いをする。
「とりあえず家の中に入れてよ」
「そ、そうですわね」
あたしは大荷物を抱えて、「お邪魔します」と姫輝、いや、あたしの部屋へ入った。
「ふぅ~」
荷物を置いて、一息つく。
「梨琴さん、今日旅行から帰ってきて、そのまま来たんですか?」
「うん、そうだよ。早く姫輝にあげたくて」
そう言うと、鞄から二つのお土産を取り出す。大室山キャラクターとテディベアのぬいぐるみである。
「はい、これ」
あたしはそう言うと、姫輝に大室山キャラクターを手渡す。
「これは……」
戸惑う姫輝。うん、お嬢様の姫輝には、ゆるキャラ的なものは分からんよね。
「それはあたしへのお土産。元に戻った時の為に、部屋にでも飾っておいて」
そして、もう片方の手に持ったテディベアのぬいぐるみを見せる。
「この子は姫輝に似合いそうだから、姫輝の部屋に飾ろうと思うんだ。ようするに、元に戻った場合を考えてのお土産」
あたしがそう言うと、納得したかのように頷く。
「なるほど」
あたしからテディベアのぬいぐるみを受け取ると、大室山キャラクターと見比べている。
「どしたの?」
「……いえ、両方とも欲しいような……」
「ある意味、両方貰えているようなものじゃない? 入れ替わり中は姫輝は大室山キャラクターを持っているし、元に戻ればテディベアのぬいぐるみを持っているのだから」
姫輝は眉間にしわを寄せて唸る。
「ん~、そうなんですけど、なんかそうじゃないんですよね」
「と言うと?」
そこで姫輝は、ぱぁっと明るい表情になる。
「いっそのこと、私へのお土産と言うことで、両方ともこの部屋に置いてくれませんかね? 元に戻ったら、姫輝としてまた受け取るということで」
「つまり……お土産を独り占めと言うこと?」
「……まあ、そうなりますわね……」
今度はバツが悪そうな顔になる。以前は冷たそうな印象だったのに、姫輝と日々を過ごすようになって、くるくると色々な表情を見せるようになった。これが本当の姫輝なのかもしれない。
だが、お土産の話は別である。
「いや、あたしのお土産が手元に残らないじゃん!」
姫輝は四つん這いになり、あたしの他のお土産に手を伸ばす。他のお土産は定番のお菓子である。
「これが梨琴さんのお土産と言うことで」
「いや……消耗品のお土産は、お土産としてカウントされないかな。思い出として残らないじゃん」
そんな時、部屋のドアをノックする音が聞こえ、すぐにそのドアは開かれた。
「いらっしゃい」
二人分の飲み物をオボンに乗せたお母さんが、やってきた。お母さんが飲み物をローテーブルに置くと、あたしはお土産のお菓子を渡す。
「お母……じゃなくて、これお土産です」
「あら、ありがとう」
うっかり、「お母さん」と呼ぶところでした。言い間違えそうになったのを気づかれなかったようなのでセーフ。
お土産を手にして部屋を出ていくお母さんの背中を見送る。早く元に戻りたい気分になってきた。
帰るのが寂しくなり、それとなく時間を延ばすように、旅行の土産話を続けた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
伊豆高原からの帰りのシーン。
梨琴の内心が少しくどいかな?と感じましたが、修正案が浮かばなかったので、そのまま投稿することにしました(汗)。
一応、下読みして推敲作業をしたのですが……。
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