37話
夕食。
食堂の席に辿り着くと、各席にお鍋やら小鉢……というのか分からないけど、お皿がたくさん並んでいた。
「わぁ~」
お鍋の中は何だろう? とテンションが上がる。
スタッフさんが各席を回り、お鍋の下にある固形燃料に火をつけてくれた。
他の食事から食べていると、お鍋がぷくぷくと音を立て始める。
早くお鍋にも手を付けたいという気持ちを抑え、紛らわすように談話をする。
「比那田さん、旅行に誘ってくれてありがとうね~」
「私も雉子島さんと一緒に旅行ができてうれしいですよ」
お互いに、ほくほくの笑顔。そこへ陶原さんからの一言。
「雉子島さんの口調も柔らかくなったしね~。それが素なのかな?」
人差し指を顎に添えて、首を傾げる陶原さん。
あたしはその言葉にドキリとする。
姫輝はいつも「○○ですわ~」とかお嬢様口調。あたしはいつの間にか、『素の梨琴口調』になってしまっていた。
「ははは」
あたしは頭をかきつつ、乾いた笑顔を浮かべる。
(やらかした!)
もぐもぐと食べながらあたしを見つめる恵野さんの視線が痛い。恵野さんは何を考えているのか分からないので、内心を見透かされているのではないかと、冷や汗が出てしまう。
お鍋の固形燃料が燃え尽きた辺りで、スタッフさんがお鍋の蓋を取ってくれる。
冷や汗で冷えた体を温めるように、お鍋に手を付ける。
(……とりあえず、姫輝ならなんとかしてくれるだろう……運動系以外なら)
おかしてしまった問題を、くよくよ悩んでも仕方がない。この際、姫輝に丸投げしてしまおう。
食事を終えると、部屋に戻った。
布団は既に敷かれている。
お風呂で既に浴衣に着替えているあたしたちは、布団に転がりまわる。
寝床の奪い合いを終えると、まったりとした雰囲気になってきた。
「なんか修学旅行みたいだね」
掛布団をかぶりながら、あたしはそう答えた。
「そうだね」
「そうですね」
「……」
沈黙の一名様の方を見つめると、恵野さんは目を閉じて、既に寝ようとしている。自由人だな……気まぐれな猫?
頭の中に猫を思い浮かべる。黒い毛並みで、綿菓子のようにふわふわした感じの猫を。
想像してみたら、なんとなくしっくり来たので、吹き出しそうになる口を両手で抑えた。
そんな比那田さんは何を思ったのか、「雉子島さん! もしかして、恋バナでも想像しました? まさか好きな人がいるとか?」と言い出した。
なんか自然と恋バナへと流れていった。
「い、いや、恋バナなんて想像してないよ! 好きな人は……」
そこまで口にして、ふとヤバい現状を把握する。
あたしの好きな人を口にするわけにはいかない。なにしろ姫輝の兄である人物であるからだ。口にしようものなら、姫輝は近親相姦のレッテルを貼られてしまう。
……っていやいや。梨琴としても、好きな人のことは内緒だよ!
ということで、「内緒」と一言だけ言っておいた。今のあたしの顔は、お風呂上りよりも赤くなっていることであろう。
あたしは誤魔化すように、布団を被って寝たふりを強行したら、いつの間にかそのまま寝ていた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
37話は作者としては、解像度が高く見えます。
それは、旅雑誌などで調べたことを書いたわけではなく、実際に作者が旅行をした時を思い出して書いたためです。
やはり、資料だけではなく実体験は大事ですね。
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