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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第7章 闇を背負いし覚悟 ーᚱᛖᛉᛟᛚᚠ ᛁᚾ ᛞᚨᚱᚲᚾᛖᛊー
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第79話 灰白色の虚しき闘争 ᚱᛖᛞχᚷᚱᛖᛖᚾχᛒᛚᚢᛖ

 戦之女神(エディウス神)の聖地、ロッギオネのアディスティラに潜入する事実を弟子達に教えずに出向いた暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリア。


 同棲者(どうせいしゃ)のリンネのみならず、全ての弟子達に『(いつわ)られた』と見透かされる(さび)しさを当人(ヴァイロ)の知らぬ間に抱かせていた。

 特に乙女の愛を(かたむ)けたリンネとミリアの哀しみと切なさが(つの)りゆく。愛故にどんな(やま)しき事柄も、自分だけにはすべからく打ち明けて欲しかった乙女達の()()


 降りしきる雨の最中、『人の足音なのに魂の躍動(やくどう)を感じない』何とも不気味な得体の知れない者達に囲まれた現実だけに気づいたヴァイロ達。


「なんであの子達に内緒で来たのよ? どうせ直ぐにバレるんじゃないの?」


 背中に冷たい雨粒と共に緊張が走る中、約150歳のハイエルフのニイナ、少女の出で立ちと甲高い声を扱い、疑問を交えた文句をヴァイロに小声で()れた。


「こんな時に一体何だ?」

「こんな時だからこそじゃないの」


 告げたい言葉を洗い(ざら)(ゆず)らずに(えぐ)るニイナ。後には退かずにヴァイロの男の部分に投げ掛けた乙女の訴え。

 ニイナから受けた指摘は、ヴァイロに取って口にするのを(はばか)れる内容。周囲に対する警戒を続けたまま文句に()を返すも、さらに重ねられた憂鬱(ゆううつ)に表情が曇りゆく。


 少女の様な出で立ちとは裏腹なるニイナの口ぶり。『なんであの子達に内緒で来たのよ?』この台詞には、あらゆる感情(本質)が隠れているのをヴァイロとて知っていた。


 ──なんで黒い神竜(ノヴァン)なんかに身代わりを任せて、然もその事を誰にも言わずに敵地まで攻め入るのよ!?


 ニイナの隠れた本音、痛い脇腹(わきばら)を抉るだけでは終らなかった。ヴァイロ自身の考えを全否定した魂を(つぶ)す台詞なのだ。


「お、俺はもう誰も巻き込みたくないんだ……特に俺の子供(弟子)達には!」


 赤い目を(しわ)が寄るまでギュッと(つぶ)るヴァイロの言い分。

 自分よりも大切な弟子達が次々に白銀の女神(エディウス)白い神竜(シグノ達)に消され()()悪夢。正夢には決してしたくないから故に、自分の影に命を与えノヴァンを錬成(れんせい)した。


 されど軍備を増強すればする程、戦乱の渦は愛する子供達を巻き込む必然を止められなかったヴァイロの苛立(いらだ)ち。


『カノンを世界の必要悪にする』


 亜人族(デミヒューマン)をこよなく愛する異端の貴族『バンデ』からの歓迎(煽り)を受けるまでもなく、()()のヴァイロは、粗方(あらかた)を見抜いていた。


 ザンッ……!

 雨音を踏み(つぶ)してヴァイロより前に出たハイエルフの少年のレイチの覚悟。『貴方(ヴァイロ)の為ではない。あくまで自分達の女主人シアンの言いつけを守る』そんな想いを体現(たいげん)する。


「子供……貴方様の弟子達はそんなに()()なのでしょうか?」

「何ぃ?」


 さらに緊張感の(たか)ぶる最中、レイチが両手に握るナイフよりも研いだ糾弾(きゅうだん)の言葉。白い顔色ひとつ変えずに言い放ち、どっちつかずの()()に揺らぐ暗黒神の(まゆ)(しか)めさせた。


「それでも俺はぁ! ──『紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)』!」


 20代後半の割には少し甘ったれた考えが奥に潜むヴァイロ。

 カノンとロッギオネ、国家間の争いに転じてから久しいにも関わらず、自身だけでこの(むな)しき闘争の行方を決めたい大言壮語(たいげんそうご)を吐いた。


 雨中の空に手を(かざ)して赤霧に沈む愛刀を手の中に現界(げんかい)させた大声。

 既に何者かに気取(けど)られ囲まれているのだ。いっそ自分だけに降り注げ(を狙って来い)。レイチとニイナがこれ迄に成した隠密(おんみつ)ぶりを敢えて台無しにした。


「「ガァァッ!」」


 ヴァイロの叫びに(あぶ)り出された敵の群れ、群れ。雨に濡れた石畳(いしだたみ)の地面を二本脚で蹴り飛ばし、四方八方から黒の神様(ヴァイロ)を目掛け一斉に襲撃を開始した。


「こ、これは!」


 普段は冷徹な暗殺者(アサシン)(ごと)きナイフを振るうレイチが敵兵達の姿に鋭い目を見開く動転。


 確かに人類ではなかった敵。全身が白、目だけが青い。──がっ、それはいい。


 戦之女神(エディウス神)軍は、元来から純白を(そろ)えた兵だ。

 但し口が蜥蜴(トカゲ)の様に(あご)まで割け、(さめ)の様な(きば)を並べている。然も爬虫類(はちゅうるい)に近しい長い尾を腰に伸ばしていた。


白い神竜(シグノ)の兵士!」


 レイチの台詞を継いだニイナが下した敵の正体(答え)。人類よりも一回り巨躯(きょく)な白い(からだ)を持った二足歩行の()()()達。差し詰め『白竜兵』と云った処か。


「ハァァァッ!」


 三日月の様に湾曲(わんきょく)した剣を振り上げヴァイロに飛び掛かった初見の敵兵共。

 カノンの神(ヴァイロ)楯突(たてつ)く無礼な(やから)を一挙に斬り伏せるべく、紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)(ムチ)の様に伸ばした一振り。


 ズバァァッ!

 初出陣の白竜兵二騎をまとめて叩き斬った殺気の刃(レッド・ミラージュ)。赤霧を伸ばした剣は、着実に初陣(ういじん)の人ならざる兵共に届いた──誰の目にもそう映った。


「ガァァァッ!」

「な、何だと!?」


 赤い目を瞠目(どうもく)に転じたヴァイロ。

 白銀の女神(エディウス)が住む都に降りしきる雨を血の赤に変えたかに思えたヴァイロ達の茫然自失(ぼうぜんじっしつ)。白竜兵達が裂かれた血の色ではなく、彼等が口から吐いた(ブレス)に転じた。


「い、いけないッ! 下がってください!」


 人の殺気を斬るヴァイロの剣が通じない相手だと確信を持ったレイチ。いきり立つただの魔導士に堕ちた男の前に盾として立ち(ふさ)がる。

 ナイフ二刀流の小柄(こがら)なレイチ。素早(すばや)く敵の(ふところ)に潜り込んで喉元(のどもと)()き斬るのが彼の真骨頂(しんこっちょう)


 然しそのやり口は、敵の(すき)に付け込む斬り込みが必須なのだ。この様に迎え撃つ戦い方、実は不得意。


 ビュッ! ビュッビュッ!


 されどもレイチは独り(Solo)ではない。

 彼とコンビを組む頼れるツーマンセル、ニイナの撃ち込む矢尻が最後方から飛び込む。初めて相まみえる敵陣に対し、レイチの代理で白竜兵共の首元や目(致命傷)を狙った。


 戦之女神(エディウス神)の神竜シグノに似せた白の兵士達。依って白鳥の様な(羽毛)も健在。ニイナの飛ばした弓矢、有効打に至れた分は極僅(ごくわず)か。大抵が(はじ)かれる。


 ブンッ! ブンッブンッ!

 だがそれで構わないのだ。ニイナの放った矢尻が牽制(けんせい)射撃の役割を着実に果たす。

 今度こそ暗殺者レイチの面目躍如(めんもくやくじょ)。踊る様に飛び出し人を()した竜共の首根を見事に斬り裂いた。


 ──おかしい? この連中は絶対に変だよ?


 頼れるレイチの奮闘(ふんとう)ぶりは()()()()、真顔でさらなる弓矢を引き(しぼ)るニイナの脳裏に浮かんだ疑問符。


 戦之女神(エディウス神)は美しき者がお好み。これは()()の話ではない。白銀の女神(エディウス)が率いる兵士は白い竜(シグノ)以外、これ迄は綺麗処を(そろ)えていた。


 戦之女神(エディウス神)に付き従う最大手は一番弟子の賢士(けんし)、遊女の様な出で立ちのルオラ。修道騎士総長に伸し上がったレイシャ。そして最高司祭のグラリトオーレ、何れも美女ばかり。


 然もつい今しがた、戦之女神(エディウス)に仕える人間達から『耳長族(エルフ)をエディウス様は嫌う』と聞き及んだばかりなのだ。


 シグノの系統──そう言えば聞こえはいい(辻褄も合う)がニイナは、争いながらも小さな首を(かし)げていた。

 こんな(おぞ)ましき化物達を、あの美麗(びれい)白銀の少女(エディウス)が好んで徴用(ちょうよう)するとは思えなかった。

挿絵(By みてみん)

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