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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第67話 私達も最後まで戦い抜くよっ!

 ヴァイロの心情でこれはもう戦争のていを成していないようなことをべた。

 実際エディウス軍に関しては、これはもう的をすぎている。エターナこそ正当なる女神という現状だけで、既に大半の司祭達は、どう身を立てるべきか分からず彷徨さまよい始めた。


 さらにエディウスが、トリルというただの娘と化し、我こそ絶対と一人振舞(ふるま)うが、姿は敵であった筈の青い髪の少年(アギド)

 これがマーダと名乗りを上げた時点でエディウス兵は、何を信じたら良いのか判らない。

 宗教とは何を放っても絶対の存在があるからこそ、信じる者は救われる………気がするものだ。

 信仰かみを失った人間ほどもろい存在はない。彼等のほとんどが、もう正義を見失っていた。


 そんな最中さなか、黒い二刀の修道騎士しゅうどうきしレイシャと、双子の弟である賢士けんしレイジは全く何も見失っていないがごとく、シアンとレイチを相手に奮戦ふんせんしている。

 当然この二人も少々離れているとはいえ、信じる神(エディウス)が失われたことを理解している筈なのだ。


お前(レイシャ)、あそこまで成り果てた自身の神に思う所はないのかっ!」

「はっ………? エディーは、生きているが?」


 シアンの方が余程この状況に困惑こんわくし、槍が鈍りそうなのだが、レイシャの機敏きびんさが全くそこなわれないので、引っ張られながら何とか戦い続けていられる。


我が主様(エディー)は生きているのよ。私はそれだけで戦える………」

「成程……もう何も言うまい。では、そちらの弟はどうだ?」

「貴女、槍より口が達者な方? 僕は姉に従うだけです」


 これがレイシャなりの忠義ちゅうぎらしい。一本気で実に判りやすい。賢明である筈の弟はどうだ? こちらも顔色変えずにおだやかに答えるだけだ。

 自身が掛けた戦乙女ヴァルキュリアと、アズールの攻撃力強化アルマトゥーラ恩恵おんけいで最早全身凶器と化したレイチを相手に、心之剣クオレスパーダで互角に渡り合う賢士レイジ。

 実はレイチの激しい二刀ナイフの応酬おうしゅうによって、他の術を使う間を貰えていないという事情も正直ある。

 しかし、ルオラもそうであったが、賢士は()()としても前線に立てることで一端いっぱしになれるようだ。


 ◇


 再び暗黒神ヴァイロ青い髪の少年(マーダと化したアギド)の宙を舞い続ける戦いに戻る。


「貴様は大体何がしたかった? 俺達と初めてやり合った2年前のあの日から……」

「………判らんのか?」

「だから聞いているっ! いつでも俺達をれた筈だっ!」


 相変わらず舌戦ぜつせんを繰り広げつつ、剣を叩き込むことを決して止めようとしない二人。勢いだけならヴァイロ優勢だが、実際は違うであろう。


「初めて白い竜(シグノ)をけしかけた時、貴様の子供達は苗床なえどこだった。しかし今や破竹はちくの成長をげてくれた。この少年(アギド)は特に良い………」

「ハンッ! 取り込んだは良いが扱えていないじゃないかっ!」


 マーダを小馬鹿にしつつ、赤い霧となって消えるヴァイロ。しばらく間を置いてから、マーダの真下から出現し、串刺しにしようとするが、ってかわされる。


紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)か……。中々に良いぞ。下から至近距離でそれをやられては避けるしかない」

「まだ終わっていないっ!」


 天へ突き上げた剣を今度は振り下ろす動作に変えるヴァイロ。だが肝心かんじんの剣だけがいない。これではマーダが竜之牙(ザナデルドラ)で応戦は敵わない。

 振り下ろし済のヴァイロの両手から秒もかからず姿をさらす赤いいびつな刃が、マーダの左肩から上胸部辺りまでを深く斬り裂く。


「や、やってくれる………一番弟子アギド()に………」

「アギドは()などとは断じて言わんっ!」


 マーダは残っている右手で左肩を押さえながら下手糞へたくそ芝居しばいをうつ。肩は押さえねばズルリッと落ちてしまうだろう。

 芝居も含めこの一見、痛々しい愛弟子アギドなど、ヴァイロに通じる道理がない。


みょうだ………。あのマーダとやら、すこぶる素行そこうがおかしい………」

「どうしたのノヴァン?」

「アギドが使えないと、身を持って知ったのだ。ならば即時に暗黒神ヴァイロかあの大気使い(レアット)にすげ変えれば済むだけの話ではないのか?」

「…………っ! アギドにこだわる理由が在るという訳?」


 アギドが、恐らく本当に愛していたのであろうミリアに討たれることが難しいとなった現在、次に彼を()()ことを許されているのは、ヴァイロだけだと思ったリンネとノヴァン。

 よって静観せいかんしながら、色々な可能性だけは、考察していた。

 しかし冷静にかえりみれば、それは余りに危険で迂闊うかつな判断。ヴァイロが取られる(最悪の事態)ことだけは、回避せねばならないと思い直す。


「判った。ノヴァン、一旦私をあの場所(ミリア)へ降ろして」

「降ろす!? アレにか? アレはもう………」

「良いから早くっ! レアット、カネラン、そしてアズも聞いてっ! 私達は今すぐにヴァイロの援護えんごに回るっ! やり方は自由っ! 何なら代わりにアギドを討っても構わないっ!」


 地面でひたすら慟哭どうこくしているミリアを指した後、リンネが凛々《りり》しい顔で周囲に指示を伝える。


「………了解しました」

「うぉっしゃあぁぁっ! 任せなっ!」

「おぃっ! 正気かっ! リンネの姉貴っ!」

「私は至って正常よ。遠慮せずやりなさいっ!」

「あいよぉっ! やってやらあっ!」


 カネランは、何やら言いたげな自分を犬歯でみ殺したかのように返答した。

 素直過ぎる程、はつらつと応答するアズール。左(てのひら)を右(こぶし)でバチンッと叩く。

 正直見てるだけはしょうに合わず、ウズウズとしていたレアットだが、ヴァイロに替わって掃討そうとうしても構わないというリンネの発言に思わず聞き返す。

 けれども了承が降りるが早々、言質げんち取ったあっ! とばかりに現金にも舌を出して顔をほころばせた。

 自らの後方に両手で空気の渦を錬成れんせいし、アギドだった者の元へ飛んで行った。


 地面近くまで下りたノヴァンの背中から、勢い良く飛び降りるリンネ。ノヴァンは見届けると反転し、カネランだけ乗せて主の元へ羽ばたいていく。


「ミリア………」

「リン………ネ、わ、私………」


 優しい顔で近寄るリンネをあふれる涙で視界がさえぎられつつ、絶望の顔だけを向けるミリア。


 パチーーンッ!!


 リンネが思い切りミリアのほほを平手で叩いた音である。驚くミリアを今度は一変、リンネは自分に抱き寄せる。その胸に顔が埋もれる。


「ごめんなさいミリア。私、貴女に全て(アギド)を押し付けてしまった………」

「り、リンネェェ~!」


 リンネの言葉に再び落涙らくるいを始めるミリア。白い衣装がまたたく間にれてゆく。リンネの中で激しく肩をらす。


「でも聞いてミリア・アルベェリアっ! ヴァイの夫である以上、今は泣いている場合じゃないっ! 魔法力マナが残っているなら………」

「リン……ネ?」


 泣いている場合じゃない、そう告げた筈の当人もしたたかに泣いていることにミリアは気付く。


「判った。リンネ・アルベェリア、私達も最後まで戦い抜くよっ!」

「ミリア………あ、ありがとうぉぉ………」


 大地を踏みしめオレンジ色の瞳を持ったほこり高き妻は立ち上がる。次はリンネが泣きくずれそうになるが、第一夫人の両肩をガシッとつかんだその両手が支えた。

 互いに同じせいを名乗るには、若過ぎた二人。なれど互いに未熟さはどこかへ失せた。

 雄々《おお》しく立つその姿は、神の連れ合いを名乗るのに相応ふさわしい風格ふうかくすらそなえた。

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