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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第66話 途絶えた葬列

 アギドの先読みとしての能力をアテにして、身体ごとその能力をうばったマーダ。しかし彼は完全に見誤みあやまっていた。

 アギドの先読みとは、勝手に入ってくる周囲の人々の深層意識のうち、自分が戦いにおいて欲する情報だけを選別し、先読みとして使っていたに過ぎなかったのだ。


 ―さあどうする? 次々と入ってくる意識に圧し潰されてくか? あるいはまともに動けない所をミリアの新月の()なぐられて死ぬか?


(………で、なきゃ同じ()って力を持っているらしいレアット辺りの身体に移るか? 一番嫌なのは、俺の能力に慣れて使いこなしてしまうことだけどな………)


 あくまでも顔には見せない(ポーカーフェイス)アギドの思念体しねんたいであるが、実の所はとても分が悪いけなのだ。

 しかもベットしているのは自分の命。そもそもアギド自身は、勝利しても断じて生き延びることはない。

 意識に潰されようが、ミリアに殴殺おうさつされようとも、マーダを道連れにするだけがこの賭け事の勝者に与えられる結果なのだ。


「グォォォッ! こ、こんな馬鹿げたこと………っ!」


 最早宙に浮いていることすら敵わず、マーダは、落ちた地面の上で必死の形相ぎょうそうでのたうっている。


 それを追って自らも地面に降り立ったミリアが、なかば無理矢理マーダを立たせてから、容赦無用ようしゃむようで殴り始める。

 元々アギドだった身体に対し、溝落みぞおちにアッパーを数発叩き込み、頭が落ちた所で執拗しつように右左にほおを殴り続ける。

 アギドの能力に追い詰められている脳こそ最大の弱点。彼女は恐ろしいまでに冷静………かに見えたがその実、オレンジ色の瞳が涙であふれていた。


(あ、アギド………わ、分かっておりますわ。貴方の決死をっ!)


 殺す気などなかったヴァイロとの決闘時ですら一方的に殴るこぶしが辛かったのだ。


 しかし特別な能力を秘めてない自分が殺らねばならないことをさとっているミリアは、殴打おうだするのを決して止めない。

 新月の影(ベスクタグナ)背負せおったミリアの拳は、月のごとく重かった。


「………くぅ!」

「リンネよ、お前もあの娘(ミリア)と同じ暗黒神の嫁であるなら、絶対に目をらすことはまかりならんぞ」


 ちょっと生意気な弟分アギドを、今や同じ男を生涯しょうがいにすると誓った可愛い妹分ミリアが、その手で殺めようとしている。

 飛び交う血飛沫ちしぶき壮絶そうぜつだが、無慈悲むじひな打撃音が周囲の皆に教えてくれる。

 これは戦いではなくアギドを()()儀式ぎしきなのだと。

 目を合わせたくないと感じたリンネであったが、黒き竜(ノヴァン)に教えられた。


(最期まで見届けるっ!)


 そう覚悟を決めてこの()()参列さんれつし続けると心に誓った。


(こ、こんなものを……こんな地獄を俺は、容認ようにんしなければならないと言うのかっ!)


 これはヴァイロの気分である。アギドが白い竜(シグノ)に噛みつかれて絶命するあのフザけた夢を実現させないためのこれまでの苦労であった筈だ。

 大好きな子供達同士の殺戮さつりく現場の目撃者になろうなどとつゆほども思っていなかった。


「み、ミリ……ア……」

「あ、アギド!? 貴方アギドなの?」


 顔中がれ上がり、あごの骨すらくだけつつある。マーダになった筈の相手から、蚊が泣く程の声で名前を呼ばれ、ミリアは困惑こんわくする。

 殴打していたその拳の動きが、どうしても緩慢かんまんになってしまう。


「あ、ありが………と……。好き……だ…と気付…いた…お前の…手で………」

「あ、アギドォォォォッ!!」


 それは余りにも突然で、残酷すぎるタイミングでの告白であった。大いに落涙らくるいする目を両手でおおって、とうとうミリアはその場にくずれ落ちる。


 ―ま、マーダ!? き、貴様何と卑劣ひれつなっ!! だまされるなミリアァッ!!


 マーダの中にいる思念体であるアギドが、どれだけ声を荒げようともミリアに届く道理どうりがない。

 だが皮肉にも最後の最期まで伝えられなかった想いだけが、マーダの意識で届けられてしまったのだ。

 ミリアは完全に戦意を喪失そうしつする。ただ泣く事しか出来ぬ15の少女に戻ってしまった。

 その時、ヴァイロは確かに見た。ボロボロで表情などうかがいしれぬ筈のマーダの目が不敵ふてきゆるんだところを。


「まっ、まずいっ! 奴を止めろぉぉぉ!!」

「い、戦の女神(エディウス)よ……わ、我に…どうか……慈悲じひを…。き出よ生命之泉プリマべラ


 息も絶える直前かに思えたマーダは、ヴァイロの制止もむなしく回復の奇跡を自身に使う。

 偽物にせものであったとはいえ、エディウスもといエターナに祈りささげる司祭の奇跡は、マーダの中に残留ざんりゅうしていたトリルの力を通じて行使こうしすることが出来たのである。


「フゥー………。流石の我もきもを冷やしたぞ。だがっ! 無駄に終わったなァァッ!!」

「………」

「そ、そんな………。アギドの苦労もミリアの()()もっ!?」


 生命之泉プリマべラによって完璧に体力を戻したマーダ。安堵あんどの息をらした後、まるで完封かんぷう勝利を飾ったのように高笑う。

 まるで入れ替わりで地面に崩れた感のあるミリアは無言。目から水を流す彫刻のように固まっている。

 命をしたアギドと、それに必死で応じようとしたミリアに、リンネは絶望の眼差まなざしを送る。


「そして、この使えぬ男(アギド)の能力は、取り合えず止める(カット)ッ!」

「もうっ、我慢がまんならんッ!!」


 頭がどうかしたのではないかと周囲が思える程のハイテンションを続けるマーダの元へ紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を脳天に叩き込んでやろうとヴァイロが迫る。

 周囲の意識を完全に置いてきぼりにする速さで。


「ほぅっ! 自ら来るかっ! ヴァイロ・カノン・アルベェリアッ! だが良いのかぁ? こんなに迂闊うかつに攻め込んでぇ! しかもこの()()を斬れるのかぁ?」

「理屈じゃないっ! 貴様だけはっ! 貴様だけはっ! 俺が引導いんどうを渡すッ!!」


 勿論余裕の竜之牙(ザナデルドラ)で斬り結ぶマーダ。お互いに普段の口調ではない。怒髪天どうはつてんの怒りでヴァイロの瞳が血走っている。

 対するマーダは、口が裂けるのではないか思える程に笑っている。

 しかしこの二人、見た目だけなら師と弟子による打ち合いなのだ。


「風の精霊よっ! 我に自由の翼をっ!」


 取り合えずまだ活かすことが出来ないアギドの力を封じたマーダは、暗黒神ヴァイロの魔法も使えない。

 なれど彼は、ニイナが使う風の精霊術で既に飛べることを証明する。一方、重力解放ヴァレディステラでそれに追いすがるヴァイロ。

 互いの力で飛びながら斬り結びを続ける二人。真っ赤な剣を振るうヴァイロと、青い髪のマーダがからみ合いながら飛ぶ姿は、さながら流星のようだ。


「一つ良い事を教えてやろう………。俺は相手の身体を乗っ取る時、じかに触れるか、あるいは有機物ゆうきぶつかいして触れなけばならぬっ!」

「何が言いたいっ?」

「この剣、竜之牙(ザナデルドラ)は頭の悪い貴様等も知っての通り、白い竜(シグノ)を触媒にしている。つまりっ! 竜之牙(ザナデルドラ)で貴様をほんのかすめただけで俺の手にちるということだっ!」

「…………っ!」

「どうだっ? 恐怖したかっ、暗黒神あんこくしぃぃんっ!」

「………………フッ、何だ。そんなことか」

「何ぃ!?」


 物凄い早口でアッサリと秘密を明かしたマーダを一笑に伏したヴァイロ。さらに自分の身長の優位を活かし、見下す視線を送りつける。


「それは朗報だ。アギドの二刀流は、とうに俺を超越ちょうえつしていた。だがアイツの能力を()()活かせぬお前に勝ち目などないっ!」


 ヴァイロにとってこれは動かぬ必定ひつじょうであり、違えることは許されぬ宣誓せんせいであった。

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