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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第7章 闇を背負いし覚悟 ーᚱᛖᛉᛟᛚᚠ ᛁᚾ ᛞᚨᚱᚲᚾᛖᛊー
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第75話 雨滴に沈んだひとの営み ””ᛏᛟᚱᚱᛖᚾᛏᛁᚨᛚ ᚱᚨᛁᚾ””

 ザァァァァッ……(ぞく)にいう篠突く雨(しのつくあめ)──。

 白い女神の聖地に降り注ぎ、濃霧(のうむ)の都に転じた。元来白を基調とした街が、さらなる白に沈んだ。

 大粒の雨音が足音さえも消してゆく、人々の往来(おうらい)も当然の様に(かげ)りが差した。


 そんな最中、白装束(しろしょうぞく)に身を包んだ独りの()()()──。


 普段から『()が似合わぬ』と友人(シアン)から揶揄(やゆ)される短い銀髪の男。

 着慣れない白を(まと)えば、こちらとて落ち着かなかった。黒の男が白を()り交ぜた灰色(半端)に落ちながらも、白銀の女神が住まう聖地に軽々と潜入を果たせた。


 まるでこの黒魔導士が降らせた雨の(ごと)き奇跡。彼は雨男だと周りから馬鹿にされた過去はない。無論、街ひとつの天候を好きに操る呪文(スペル)なんか知る(よし)もなかった。


「靴が……!」


 大きな雨粒が跳ねる石畳(いしだたみ)の街並みを憂鬱(ゆううつ)に歩む。

 服が濡れる分には一向に構わない。靴がとうに役割を終えた。歩む度に訪れる不快感、彼の苛立(いらだ)ちが(つの)り往く。


 こればかりは万国共通、時代も関せず──然し彼に魔道を(さず)けた護りの女神(ファウナ神)ならば、足元の周りに風の精霊達を()()()()、靴を濡らさずに済んだのかも知れない。


 この魔導士、精霊術には実の処、(うと)い。

 彼は術を()み出すのが好み、()()()()達にお願いするやり方には興味が()かなかった。仮に(はげ)んだ処で、そんなお利口(りこう)さんな扱いは、思いついたか危ういものだ。


 雨に降られた暗黒神──ヴァイロ・カノン・アルベェリアの巫女(みこ)というべき存在リンネと、御使(みつか)いの竜ノヴァンの案ずる最中、闇でなく白に沈んでいた。


 敵の本拠地にて気が(はや)るのは必然、加えて敵の賢士(けんし)から(うば)い取った白色の魔導服(敵側の衣装)も落ち着かなかった。


 ヴァイロが動揺(どうよう)する理由……さらにもうひとつ──いや()()、少し間を開けた後ろに(ひか)えて付き()っていた。


「全く……これは俺の独りの我儘(わがまま)だ。何故着いて来た?」


 雨で貼り付く白装束を嫌気(いやけ)の差す顔立ちにて我慢(がまん)を積み重ねるヴァイロ。

 着ている衣装と、勝手に着いてきたハイエルフの少年相手に白い溜息を吐いた。


「貴方様に万が一の事があれば、僕達のシアン様が(かな)しむ……こんな冗談を聞ければ満足ですか?」


 ハイエルフの()()()、約150歳のレイチが不意に抜き足で忍び寄りヴァイロへ耳打ち。


「はぁ……子供の(なり)で言う冗談か。()()()()()()と言っておこう」


 ヴァイロに取ってのシアン・ノイン・ロッソは、何でも話を傾聴(けいちょう)してくれる大切な女友達(同世代)

 弟子(子供)恋愛模様(世話焼き)が常に付き(まと)うリンネやミリアとは扱いが異なる居心地の好い間柄(御都合主義な相手)だと勝手を決め込んでいる。


 ──私、それって案外冗談じゃない気もするんだけどなぁ。


 レイチ共々、ヴァイロに着いて来た()()()のニイナ。心の奥底に(とど)めて置くヴァイロとシアンを外から(のぞ)いた繋がり合いの様子。


 確かにシアンには圧倒的に心を(ささ)げた男性、亡き夫ノインが()()


 けれどもシアンのヴァイロに対する甘さを時折(ときおり)(にじ)ますタメ口と愛称(ヴァイ)。レイチとほぼ同じ150歳前後でも思考(嗜好)の流れが異なるらしい。


 レイチとニイナ──普段の黒装束を白に変えただけの(たたず)まい。

 ヴァイロの手を一切借りずに、宣言通り勝手に着いて来られた。流石、シアンと共に義賊(ぎぞく)の真似事に(いそ)しめた隠密行動(おんみつこうどう)。ヴァイロより余程、秀でていた。


 ◇◇


お前(ヴァイ)がたった独りでレアットを迎え(助け)に行くだと?』


 同棲者(どうせいしゃ)リンネを差し置いた抜駆けした様な形。ヴァイロ当人の口からノヴァン(黒い神竜)が実は()()()であった現実さえ聞き及んでしまった他の女(シアン)


 友人()()()の良き理解者であるシアンではあったが『何故、私だけに話した?』正直聞きたくはなかった。

 どう扱えば正解なのか戸惑(とまど)いが隠せなかった。高貴なシアンの紫色(シンボル)がこの時ばかりは、どんよりとした重苦しい青に転じた。


 暗黒神(ヴァイロ)が自ら()()()──次なる実力者シアン・ノイン・ロッソの随伴(ずいはん)は赦されぬ必然。カノンの護りに(てっ)さなければならない道理(理不尽)


『ならば僕達は勝手に着いて行きます』

『何しろ(ディオルじゃ)出番がなかったからねぇ……』


 シアンの生きた懐刀(ふところがたな)、ハイエルフの少年レイチと、少女ニイナが両者のやり取りを盗み聞き。自由な手を()げた。


 シアン、レイチとニイナに全く小言も了解とて告げずに敢えて押し黙った。

 正直な処、都合が良いとさえ感じた。この危なっかしい()()()には(てい)のいい首輪とリードだと思えたのだ。


『レアット・アルベェラータ(ウィニゲスタ)は、必ず生きて戦之女神(エディウス神)の元に居る』


 友人ヴァイロの根拠皆無(こんきょかいむ)な自信。されどこの言い草に関してはシアンとて同義であった。

 深い理由など在りはしない、戦之女神(エディウス神)が取り()いた最高司祭グラリトオーレ・ガエリオと共にレアットはラファンの山間(やまあい)から消え失せた。


 確信を以ていえるのは『白銀の女神(エディウス)は未だ生きている』ならば、レアットも共連れに違いないと思えた。

 レアットが果たしてどの様な仕打ちを受けているかは(さだ)かではない。然しながら戦之女神(エディウス神)1対1(サシ)でやり合えた男が死の(さば)きに(くっ)するとは想像し難いのだ。

 

 されどヴァイロ・カノン・アルベェリアはおろか、博識(はくしき)なシアン・ノイン・ロッソですら想定外の現実が待ち受けていた。渦中(かちゅう)のレアットが戦之女神(エディウス神)歓待(かんたい)を受けていた驚きを。


 ◇◇


 再び時の歯車を元に戻す──。


 文字通り()()の街並みを行くヴァイロ達。


「──にしてもエディウス・ディオ・ビアンコとは随分良い所に住んでいるのだな」


 ロッギオネの街並みを(にら)みながらヴァイロの管巻き(くだまき)が続いた。

 この言葉、額面(がくめん)通りに受け留めてはならない。『同じ神でありながら酷い落差だ』そんな自分勝手なる愚痴(ぐち)(こぼ)している訳では決してなかった。


 (したた)かな雨降りしきる最中だというのに、窓から漏れた民草(たみくさ)息遣(いきづか)いは明るいと思えたヴァイロ。

 己の地元、カノンは峡谷(きょうこく)(はさ)まれた人(さび)しき場所。されどそれでも陽の光(とぼ)しき中、カノンの民は力強く生きているのだ。


『カノンは闇、カノンは罪』


 戦之女神(エディウス神)側の兵士が死に(ぎわ)にて吐いた言葉が、地元恋しきヴァイロの脳裏を(かす)める不快。

 戦の女神は、神の教えを説かず悪戯(いたずら)に戦乱を拡大するだけの存在。そんな巫山戯(ふざけ)た存在に仕える者共から言われる筋合いはないと悔やんだヴァイロ。


 ──住処(すみか)が異なるだけだというのに、人々の扱いとはこうも変わるものか。


 誰がどう悪い……ヴァイロは、そんな安っぽい気分を論じるつもりはない。人の在り方そのものに不愉快(ふゆかい)さを感じずには要られなかった。

挿絵(By みてみん)

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