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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第7章 闇を背負いし覚悟 ーᚱᛖᛉᛟᛚᚠ ᛁᚾ ᛞᚨᚱᚲᚾᛖᛊー
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第73話 移ろいのζ彩ζ ᚠᛟᚷ ᛒᛟᚾᛞ

 白銀の少女(エディウス)を囲う()()な聖堂。

 独りの漢が()()()()されていた。レアット・ウィニゲスタ(アルベェラータ)である。


「今日も随分(ずいぶん)と精が出るなレアット・()()()()()()


 暇を持て余した筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の戦士が腕立て伏せと腹筋に日々明け暮れていた。

 三食昼寝付きの上、未だに彼の()は、戦之女神(エディウス神)側より、取り上げられたままであった。


 依って(からだ)をいじめ抜く筋トレにひたすら汗を()き続けたレアット。

 そんな彼を笑いに来た(てい)白き少女(エディウス)。女神が誰も随伴(ずいはん)させない相も変らぬ気軽さを、レアットの前だけ直向(ひたむ)きに続けていた。友達に接する様な態度。


 神殿の外では彼女を神と(した)う者共が列を為しているのだ。賢士(けんし)ルオラが『あの筋肉ダルマ!』と馬鹿にするのも(うなず)けるというもの。


「そ……その名前で(ウィニゲスタって)呼ぶんじゃぁねぇ……!」


 筋トレを止める処か戦之女神(エディウス神)へ、目もくれない無礼極まるレアットの仕草。

 疲労の息切れではない。真実の名前(ウィニゲスタ)を以て呼ばれる腹立たしさに声を(よど)ませた。処で彼は何故にこうも自分の存在(名前)を否定し続けるのか?


「俺様に何をさせてえのかは知らねぇ! 聞くつもりもねぇッ! 俺様はただの喧嘩屋(けんかや)! 一番(つえ)え奴と闘いてぇんだよッ!」


 腕立て伏せを決して止めずに、全身から()らした汗を白き宮殿に染み込ませるレアットの意固地(いこじ)

 争い事以外は全てに於いて(めぐ)まれた場所。敵の傀儡(かいらい)()ちそうな自分と歯を食い縛って必死に(あらが)う。


「ほぅ……だから我が敵を続けるのか? ククッ……光栄だな、それは」


 自身と戦い続ける16歳の青年を楽し気に(なが)める独りの少女。『貴様の欲しがる最強(至高)は私』微笑みと共に態度で表現。白き髪の毛を揺らしながら口角を上げ、蒼い目を細めた戦之女神(エディウス神)

 

「何とでも言いやが……れッ!」


 レアットは大層愚直(ぐちょく)な男──この女(エディウス)が自分をたぶらかして従者(じゅうしゃ)に加える気だと決めつけていた。

 さりとてヴァイロ(暗黒神)達に(したが)うと決めた自分を(つらぬ)くのみ。もし曲げれば自身に敗北を(きっ)する不名誉(ふめいよ)


「ふふッ……貴様を見ていると奇妙な懐かしさが込み上げてくるのだ」


 レアットとの距離をさらに詰めたエディー(穏やかな少女)、しゃがみ込み視線を合わせる。曲げ切った両膝(りょうひざ)両肘(りょうひじ)をついて、ご機嫌(うるわ)しき様子。シルクの様に(きら)びやかな白髪を流す首を(かたむ)けた可愛さ。


「な、なんだそりゃ? 付き合っていた男か?」


 異性との関係に凡庸(ぼんよう)な驚きを返したレアット。女が『懐かしさ』などと(うつつ)を抜かす時は、(かつ)て好意を寄せた異性(彼氏)だと思い込む。


「違うな、少女だよ。年の頃の話だ、17か18位だな」


「はぁッ!? 訳判んねぇぞ? 大体アンタだってそのくらいだろうが」


 白銀の少女(エディウス)も見てくれ通りなら自分と大体同じ年齢か、(ある)いは年下にすら思えるレアットの疑問。

 しかし姉貴面どころか何なら()()の様な態度にて(うざ絡みで)接する戦之女神(エディウス神)微笑(びしょう)に引き寄せられ、遂に視線を流した。


 ──何故、()は、こうもこんな男に(ほだ)されるのか? 

 

 異様な居心地の好さを感じたエディー。胸にジワリと込み上げる想いさえある。

 これ迄にもルオラやレイシャ辺りとは随分仲良くしてきた。だが確実に彼女達と過ごす時間とは違う。目前に居るレアット──しかし彼女の蒼い瞳は何処か遠くを見つめていた。


「嗚呼……()()()? この躰はな。ただの()に過ぎぬのだ。中身は……ふふッ、()()()()()……()、だからな」


 女神を自称する存在がただの人間に帰った様な仕草。『女』に含みを持たせる。


 細身の胸元を(てのひら)で指した(のち)(わず)かに(さび)し気な表情へ転じると、途轍(とてつ)もない言葉(秘密)をエディーはサラリッと(さら)す。『年齢は聞くな』如何(いか)にも大人の女性らしき、恥じらいを以て微笑みかけた。

 

 ◇◇


 フォルデノ王国からの資金援助を喪失(そうしつ)した()の似合わぬ暗黒神──ヴァイロ・カノン・アルベェリア。

 貴族バンデと、彼に従う亜人達(デミヒューマン)を引き連れた黒に淀んだカノンへの帰還。


 実に小さなヴァイロの神殿(自宅)──ツリーハウスから亜人達の様子を複雑な表情を浮かべ観察していた。


 ギュッ……!


「ああいうのを有象無象(うぞうむぞう)って言うんだっけ? 人じゃない連中がゴロゴロと。とんでもない絵面よね」


 暗黒神(ヴァイロ)()()、リンネがヴァイロの背後から迫り、どさくさ(まぎ)れな感じで肩に両腕を回して抱き締める。(ひら)けた窓から(のぞ)いた亜人達の様子を共に眺めた。

 闇色の男をリンネの()が包み込む。人々の命を飲み込んだ樹海の様な男に、新緑の温かみが差した。


「リンネ……彼奴等(あいつら)には(むし)ろ感謝しているんだ。自分達の宿舎を建てるのに精を出している。『人間より良く出来た』とはまあ、悔しいが当たりだな」


 リンネに抱かれたままの姿勢で亜人達の勤勉ぶりを語るヴァイロ。

 彼の言う通り、亜人達は自分達の寝床を自ら用意していた。或いは空き家を探した上、家賃と契約書を用意。貴族バンデに提出する(まとめさせる)真面目ぶり。誰にも迷惑などかけていないのだ。


「ふぅん……じゃあその困り顔は、人間に向けたものか()()()()?」


 リンネが『暗黒神様』などと外連味(けれんみ)じみた(あお)りを以てヴァイロを笑う。


「嗚呼……王国の金で雇った義勇兵共だ。義勇兵──本来なら自ら望んで戦いに身を捧げる連中。ま、()()()()()には高い金が要る。仕方ないさ」


 半ば諦め顔の()()()()(うつ)ろな息をカノンの(さび)しき大地に吹き掛ける。


「金の切れ目が縁の切れ目って訳か。残ってくれた本物(もの好き)も居たみたいだけど……」


 リンネの語り往く()()()──行く当てのない寂しき者共ばかり。


 例えば戦之女神(エディウス神)側から逃亡した司祭、エターナ・アルベェラータは『どごにもいがねぇ!』と半泣きにて豪語(ごうご)した。

 これは当然の帰結、仕えた戦の女神(エディウス)を裏切った大罪。今さらどの(つら)下げて、戦之女神(エディウス神)を祀るロッギオネへ帰れるものか。


「ま、良かったんじゃないの? ()()に人が死ななくてさ」


 心優しき自分(リンネ)の男。黒のテンガロンハットに漆黒のコートを羽織るヴァイロ。なれど彼は神の座に胡坐(あぐら)()いて信者達を(あご)で扱う悪名(あくみょう)を上げたい訳ではないのだ。


 それ処か全部の罪を己が被る方がずっと気楽な魔法剣士。だから名ばかりの義勇兵を巻き込まないで良かったじゃないか──これがリンネの真意。


「……」


 窓枠に(ひじ)をつき、(むく)れて黙りこくった暗黒神(ヴァイロ)。愛する女の子に抱かれながらも浮かない顔。


「……」


 次第にリンネにも面白くない顔が伝染し始める。

 色艶(いろつや)帯びた女言葉が苦手だった彼女。ヴァイロへ告り、そして告られ、次第に柔くなっていった。

 されど今日の彼女は、抱いた甘えをみせるものの、語尾にやたらと(トゲ)が目立った。


 クイッ……!


 ヴァイロが後ろ手に(から)め捕られていたリンネの腕の中。

 少々強引に身体の向きを変えると、愛しき同棲人(リンネ)(あご)を片手で上げる。接吻(せっぷん)を求めた()()──唇ひとつで彼女の御機嫌取り(封じ込め)を狙う。


 ガブッ!


 キスの為に閉じた目蓋(まぶた)をカッと開いたヴァイロ。

 何とした事か、女の方から唇ごと喰い付かれ歯すら立てられた。油断し切ったヴァイロ──血が(にじ)んだかと思い、自身の口元を撫でて確かめる。


「調子に乗んな、いい加減にしなよ()()()()! アンタなんかにあげるもんか!」


「──ッ!?」


 不意にヴァイロの耳元にて奇声を上げた彼女(リンネ)不貞腐(ふてくさ)れ。

 赤一色の細い瞳が見開かれた。ヴァイロの姿形をした人間にリンネが声を鋭く制した竜の名前(ノヴァン)。声はさほど大きくなくとも、相手の魂を震わすには充分過ぎた。

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